いじめ加害者の立場から考える(前編) 東京都目黒区立不動小学校「道徳科」授業リポート

長らく、教科外活動として位置づけられてきた「道徳」。小学校では2018年度から「特別の教科 道徳」として教科化された背景には、全国各地で発生した深刻ないじめ問題などがある。
従来の道徳授業は読み物を通した心情理解が中心だったが、教科化に伴い、「考え、議論する」道徳への転換が図られた。こうした流れを受けて、いじめ問題についても、子どもたちが「自分ごと」として捉える授業づくりが求められている。
今回は、東京都目黒区立不動小学校・小清水孝教諭の授業実践を取材した。前編では「気づかなかった心のくせ〜シンキングエラーに気づく〜」をテーマとした授業を紹介する。
【授業概要】
学年:小学校6年
教科:特別の教科 道徳(40分)
主題名:「気づかなかった心のくせ」〜シンキングエラーに気づく〜
授業のねらい:
①いじめは悪意だけでなく、気づかない考え方のくせ(シンキングエラー)から生まれることを理解する。
②相手の立場を想像し、自分や友達の考え方を見直そうとする態度を育てる。
③共感的な言葉かけを考えようとする。
使用教材:シンキングエラーカード、進行用スライド(公益社団法人子どもの発達科学研究所)
授業者:小清水 孝教諭
いじめの定義を確認
授業が始まると、子どもたちが教室の中央に集まり、スカートの子以外は床に座って話を聞く時間が設けられた。大事な話は半径数メートル以内に集めてするというのは、オーストラリアの学校で見て学んだ手法だそうで、机の配置はコの字型になっている。その中で、まずはいじめの定義を確認した。
小清水孝教諭(以下、小清水) いじめは法律で定義されています。「同じ学校など、一定の関係がある子ども同士で、相手に対して、心や体に影響を与える何らかの行動があり、された子どもが心や体に痛みを感じているもの」です。公園で初対面の子とトラブルになったというのは、「いじめ」とは呼びません。
シンキングエラーとは

小清水 今日は「シンキングエラーカード」という教材を使います。これは、いじめがなく、みんなが安心して過ごせる良いクラスづくりためのカードです。
「シンキングエラーカード」は公益社団法人 子どもの発達科学研究所の教材で、いじめに関する研究成果を基に作成されている。“いじめの加害者にならない”ことに焦点を当て、いじめを引き起こす誤った考え方「シンキングエラー」を、ストーリー動画を通して自分ごととして学べる点が特徴だ。
小清水 これまでは被害者の子に寄り添う教材が多かったけれど、今日は加害者の子について見ていきます。ここが、今までと大きく違うところです。
続いて、スライドに以下の文章が示された。
「加害者の多くは、自分の行動を〇〇〇〇と思い込んでいる。」
小清水 〇〇〇〇は何だと思いますか?
子どもたちからは、「正しい?」といった声が次々と上がった。
小清水 正解は「“いじめではない”と思い込んでいる」です。また、加害者はいじめについて、「これはいじめではなくて〇〇〇〇だよ」と言いがちです。これは何だと思いますか?
子どもたちからは、「いじり!」「からかい!」といった意見が飛び交った。
小清水 そうですね、正解は、「遊び」「冗談」「注意」です。こんな風に、加害者は「いじめではない」と本気で思っています。これを「シンキングエラー」と呼びます。みんなも声に出して言ってみてください。
子どもたち 「シンキングエラー!」

小清水 ここからは、シンキングエラーカードを使ってワークショップを始めましょう。今から動画を見てもらい、「加害者の子のシンキングエラーは何か」をグループで考えてみましょう。ここでは、「この加害者って〇〇君のことだよね」などと、他の人の名前を出すのは絶対やめてください。そうした発言が、いじめにつながってしまいます。
ルールが伝えられた後、約2分間の動画が映し出された。内容は、あるいじめの事例だ。Aさんが少し目立つ行動をしたことをきっかけに、Bさんが周りの友達と一緒にからかい、次第にAさんを仲間はずれにしてしまうというエピソードである。
Bさんのシンキングエラーは?
続いて、シンキングエラーカードの使い方について説明された。
小清水 それでは、グループごとに話し合って、Bさんのシンキングエラーカードを2枚選んでください。また、選んだ理由も言えるようにしてください。後で発表してもらいます。
3人1組のグループに分かれ、7分間のディスカッションが行われた。子どもたちは、自分の考えや意見を出し合いながら、カードを選んでいた。
続いて、各グループによる発表が行われた。選んだ2枚のカードを読み上げ、その理由を発表した。
班① 【相手の気持ちを考えない】の「相手が嫌がっているように見えないからやってもいい」と「これはいじめと言うほどではないからやってもいい」を選びました。いじめだと思ってないからやってもいい、というところがシンキングエラーだと思いました。
班② 【自分が良ければ】の「やりたいことはいつでもやりたいようにやっていい」と、「自分にとって楽しいことだからやってもいい」を選びました。Bさんは目立ちたいという思いで、嫌がるAさんをからかったんだと思いました。
7班まであったが、どの班もこの4枚のカードから選んでいた。
Cさんの立場で、Bさんへの声かけを考える
小清水 ここからが本題です。Bさんがシンキングエラーに気づくには、どうすればいいかを考えてみましょう。
Bさん自身が気づくことが理想ですが、シンキングエラーを抱えていると、自分の行動や考えを正しいと思い込んでしまいがちです。
自分で気づくのが難しいので、周りの人からの声かけがとても大事なんです。
今回の場合は、Cさんですね。ここからは、Cさんの声かけについてグループごとに考えてもらいます。意見をまとめて、用紙に書いてください。
再び、約5分間のグループワークが行われ、さらに活発な議論が交わされた。子どもたちからは、次のような発表があった。
「僕には、Aさんが嫌がっているように見えるよ。」と言う。
「何が変なの?」と質問する。
「Bさんがやっていること、別に面白くないよ。」と言う。「ダメだよ。」より響くと思う。
「Aさんがどんな顔をしているか見たほうがいいよ。」と言う。
「Aさんが困っているから、やめたほうがいいよ。」と言う。
「Bさんも同じことされたら嫌じゃない。」と質問する。
「Aさんの気持ちになって考えてみようよ。」と伝えようと考えたが、Bさんは、もし自分が言われたらすぐにキレたり、先生に言いつけたりするのに、「俺はやられても大丈夫。逆の立場でも別にいい。」というシンキングエラーを持っていそうだという意見も出た。
シンキングエラーへの気づきが、未来を変えることを確認

それぞれの意見が共有された後、再び小清水教諭から説明が行われた。
小清水 いくつか意見にも出ていましたが、Cさんが声をかけるときのポイントは「共感」です。頭ごなしに「ダメだよ」と言うんじゃなくて、「どうしてそうなの?」と、まず共感から入ることで、相手が怒りにくくなるんです。
また、グループワークをしているときに、2つのグループが話していた内容が、とても印象に残りました。それは、「最初の段階でCさんが声をかけるべきだ」という点です。「深刻化する前に声をかける」というのは、すごく大事なポイントです。よく、そこまで気づきました。
それから、シンキングエラーについて、みんなに覚えてほしいことが3つあります。1つ目は、「シンキングエラーは誰にでも起こる」ということ。2つ目は、「シンキングエラーは、加害者だけじゃなくて傍観者にもある」ということ。3つ目は、「シンキングエラーは、知ることで気づけるようになる」ということです。最後に、小さい声で言ってみてください。
小清水教諭が促すと、全員が声に出して読み上げた。授業の最後には、個人で振り返りを行う時間が設けられ、子どもたちは授業での気づきをプリントに記入した。2人以上が書き終えると、その場で感想を共有した。
発表では、
「Bさんのように、自分がやっていることが悪いことだと分かっていないことに、びっくりした。」
「僕がCさんの立場だったら、声をかけるときに、悪口言うなと、すぐ口喧嘩になってしまうと思うので、勉強になりました。」
「自分は大丈夫か心配になった。」
といった意見が聞かれた。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
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