多様な学習活動や一人ひとりの特性に合わせた柔軟な空間づくり New Education Expo 2026 リポート vol.6

2026年6月4日(木)〜6日(土)、東京・有明で開催された「New Education Expo 2026」。31回目となる今年も、教育関係者や有識者による多彩なセミナーが行われた。vol.6では、学校施設の研究に取り組む柳澤要氏、佐々木伸子氏、下倉玲子氏の3名による講演をリポート。日本、スウェーデン、ノルウェー、ドイツの学校施設の先進的な事例をもとに、インクルーシブや不登校対応への配慮、アクティブラーニング、教育の多様化に対応した工夫などが紹介された。
国内外の学校建築の潮流
千葉大学大学院 工学研究院 教授 柳澤要氏
安田女子大学 理工学部 教授 佐々木伸子氏
名城大学 理工学部 准教授 下倉玲子氏
一人ひとりの学びに応じて選択できる多様な空間
ドイツ・ミュンヘンのラーニングハウスモデル

千葉大学大学院 工学研究院 教授 柳澤要氏
まず、ドイツの教育システムについて確認しておきます。ドイツでは、初等教育であるグルントシューレ修了後の10歳頃に、進路に応じて3つの異なる学校形態に振り分ける教育システムが採用されています。大学進学を目指すギムナジウムと、職業教育系の学校(専門職/職人等)へと、学びの場が早い段階で分かれることが特徴です。
ドイツの学校建築が大きく変わるきっかけとなったのは、1990年代後半から2000年代初頭にかけての教育改革です。TIMSSやPISAといった国際学力調査で学力低下が指摘され、教育スタンダードの見直しや全日制教育の導入(以前は昼食前に下校)が進められました。
そのなかで広がったのが、「クラスター型」の学校設計です。従来のように教室が廊下に沿って並ぶのではなく、複数の教室と共有空間をひとまとまりにした学習環境で、ドイツでは「レルンランドシャフト(学びの風景)」と呼ばれています。
なかでもバイエルン州では、「ラーニングハウスモデル」という独自の学校計画が展開され、全国的に注目を集めています。学校全体の中心にカフェテリアなどの共有空間を配置し、その周囲に複数の学習ユニットを設けるモデルです。
印象的だったのは、学年や教科ごとに単純に分けるのではなく、小さな学校のような単位をつくり、それぞれが半自律的に運営される点です。

ミュンヘンで訪問したグルントシューレ(小学校)では、中央に共有スペースを配置し、その周囲に教室やオールデイルーム、グループルーム、チームルームなどを設けていました。
オールデイルームは教室の補助空間として利用されるほか、グループルームはインクルーシブ教育や少人数学習、チームルームはカームダウンスペースなどとして活用されています。さらに、教員スペースもユニット内に配置されており、子どもたちの学習や生活を支える環境が整えられています。
また、ソファーやクッションを配置した空間や、インクルーシブ教育に対応したスペースなど、多様な居場所が用意されていました。さらに、屋根付きの家具など、子どもたちが「逃げ込める小空間」が設けられている点も印象的です。
このように、ラーニングハウスモデルでは、一人ひとりの学びに応じて選択できる多様な空間が設けられていることが大きな特徴といえます。また、子どもたちが学習だけでなく、交流や休息など、その時々の目的に応じて過ごす場所を選べる環境が整えられていることも、注目すべき点です。
インクルーシブ教育を支える環境調整の現場
スウェーデンの学校では何が起きているのか

安田女子大学 理工学部 教授 佐々木伸子氏
今回は、ストックホルムのリソース学校と公立小学校を事例に、環境調整の実践を紹介します。はじめに、スウェーデンのインクルーシブ教育について整理します。スウェーデンでは、障害の有無に関わらず、できる限り同じ学校で学ぶことを基本とし、一人ひとりのニーズに応じた環境調整が行われています。
次に、こうした教育を支える学校制度について見ていきます。スウェーデンでは、6歳から15歳までが同じ「基礎学校(Grundskola)」で学びます。知的障害のある子どもを対象とした「適応基礎学校」など一部の例外を除き、自閉症(ASD)やADHD、学習障害、言語障害、移民・外国籍の子ども、不登校傾向のある子どもなど、多様な背景を持つ子どもたちが同じ基礎学校で学ぶことが特徴です。
こうしたインクルーシブ教育を支えているのが、「生徒の健康チーム(Elevhälsa)」です。学校医や看護師、特別支援教育士などの専門職が連携し、子どもたちを支援しています。また、2014年の法改正以降は、担任教員が必要な合理的配慮を判断できるようになり、一人ひとりのニーズに応じた環境調整が進められています。

基礎学校のなかでも特に手厚い支援が行われるのが、「リソース学校」です。カリキュラムは一般の学校と同じですが、特別な支援を必要とする子どもに対し、きめ細かな環境調整が行われています。2026年に再訪したストックホルム郊外にある神経発達症(ADHD・自閉症スペクトラムなど発達障害の新呼称)に特化したリソース学校では、子どもの特性に応じた学習環境が整えられていました。
注目すべきは、集合教室のほか、一人ひとりの特性に応じた個別教室が設けられていることです。照明を抑えたり、吸音パネルで音環境に配慮したりするなど、子どもの状態に合わせた環境調整が行われています。また、不登校やひきこもり傾向のある子どもを対象とした「ディスタンスクラス」も設置されています。教員が自宅訪問から支援を始め、段階的に登校へつなげていきます。
一方、公立小学校においても、教室内の座席配置や家具、照明などを子どもの状況に応じて調整し、必要に応じて支援教室や少人数学習の場を設ける取り組みが進められていました。
教室の隣に設けられた学童保育室は、日中は支援や少人数学習の場として活用され、放課後は学童クラブとして利用されています。また、校長の判断で新たな支援教室が設置されるなど、環境整備も進められていました。
教室内でも、集中に困難のある児童には机に目隠しを設けたり、座席の向きを変えたりするなど、一人ひとりの特性に応じた環境調整が行われていました。
リソース学校で見えてきたのは、子どもを変えるのではなく、学校側が環境を調整するという考え方です。また、公立小学校でも合理的配慮や支援空間の整備が進み、「子どもが教室に合わせる」のではなく、「教室が子どもに合わせる」という考え方が広がっていました。
今回の調査を通して見えてきたのは、スウェーデンの学校が「子どもを学校に適応させる場」から、「学校が多様な子どもに適応する場」へと変化していることです。そのため、多様な子どもたちを受け止め、一人ひとりに応じた環境調整を可能にする柔軟性が学校建築にも求められているといえるでしょう。
クラスがもし100人の大集団だったら?
中・高の学習集団を問い直す

名城大学 理工学部 准教授 下倉玲子氏
今回は、「クラスがもし100人の大集団だったら?」という視点から、学習集団と学校空間のあり方について考えてみたいと思います。現在の中学校や高等学校は、40人程度の学級を基本単位として運営されています。校舎も、64〜72㎡程度の普通教室が廊下に沿って並ぶ構成が一般的です。
ご存知のとおり、生徒一人ひとりの興味や関心、進路に応じた学びが求められるようになり、学習の個別化が進んできました。こうした流れは学習指導要領にも表れており、高校では選択科目が増えているほか、「総合的な探究の時間」が設けられるなど、生徒自身が課題を設定しながら学ぶことが重視されています。
例えば、川崎市立川崎高等学校では、探究学習を1年生では12のゼミ、2年生では10のゼミに分かれて進め、3年生で卒業論文としてまとめていると聞きました。このような学びが広がるなかで、クラスという単位の捉え方を、今あらためて問い直す時期に来ているのではないかと思います。

従来のモデルでは、1組、2組、3組、4組などにそれぞれ40人程度の生徒が所属し、学年全体で活動する際には「学年合同」という形を取ります。一方で、まず80人や100人といった学年や大括りの集団を設定し、そのなかで学習内容や活動に応じて、Aクラス、Bクラスなどのグループへと分かれていく考え方もあるのではないでしょうか。
つまり、「クラスから学年合同へ」ではなく、「学年や大括りのクラスからの解体」という発想です。その方が、授業運営や校舎計画もうまくいくのではないかと考えています。そのような考え方を実践している事例を3つ紹介したいと思います。
京都市立開建高等学校では、1クラス80人を一つの学習集団として捉え、可動式パーティションを活用しながら、学習内容に応じて空間を分けたりつなげたりしています。空間構成は「田の字型」で昔の農家の家のように多人数のときはパーティションを設けず、3クラスに分かれるときはクローズして使ったりします。パーティション、机、椅子を活動に応じて動かすので、生徒も教員もスキルが必要です。
ドルトン東京学園のサイエンスセンターでは、約100人の学年集団を対象とした授業が行われています。物理室・化学室・生物室に加え、講義室やグループ活動スペースが一体的に配置されており、生徒はそれぞれ異なる課題や実験に取り組みながら学習を進めます。
この空間構成は「共用部求心型プラン」と名付けましたが、中央の共用部から各室の様子を見渡せることが特徴です。大人数による学習と、個別やグループでの演習活動の同時展開を両立できる点が大きなメリットといえます。
ノルウェーのリングスタベック中学校では、1クラス75人を一つの学習集団として編成し、4~5人の小グループの集合になっています。グループは定期的に組み替えられ、多様な仲間と関わる機会が設けられています。
校舎は「典型クラス開放型プラン」と名付けましたが、大・中・小のさまざまな学習空間が用意されています。授業内容や活動規模に応じて空間を使い分けることで、学びを支える環境が整えられていました。
以上の事例から、大きな学習集団を基盤としながら、柔軟に学習集団を編成する仕組みが実際に機能していることが見えてきました。
こうした仕組みを実現するためには、多様な空間構成と、生徒を見守る教員の存在が重要な鍵になると捉えることができます。
質疑応答から

講演後は、質疑応答の時間が設けられた。ここではその一部を紹介する。
——校内に小さなスペースを増やすと、教員の目が届きにくくなるという懸念があります。海外の学校では、視認性や安全性をどのように確保しているのでしょうか。
柳澤要氏 私が見てきた海外の学校では、基本的には教員の目が届きやすいように計画されています。ユニットごとに教員スペースが設けられ、ガラス張りの教室やオープンスペースも多く見られます。日本では管理や視認性を重視する傾向がありますが、海外では子どもに一定の自由を委ねる考え方も強いです。全体としては、「見守ること」と「居場所をつくること」を両立させている印象を受けました。
記者の目
今回紹介された事例に共通していたのは、「子どもを空間に合わせる」のではなく、「空間を子どもに合わせる」という発想だった。日本でも不登校や特別な支援を必要とする子どもが増えるなか、学校建築の役割はこれまで以上に大きくなっていきそうだ。
取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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