2026.08.24
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生徒が作る道徳の授業(前編) 前橋市立粕川中学校「橋の上のおおかみ」授業リポート

小学校では2018年度から、中学校では2019年度から教科化された「道徳」。今年度は中学校3年生まで、小学校1年生から週1回「特別の教科 道徳」の授業を受けてきた世代となる。
2026年6月、第32回上廣道徳教育賞 最優秀賞(2023年度)を受賞した瀬戸山 千穂先生の授業を取材した。生徒が進行する授業の初回となる。

【授業概要】

学年:中学校1年
教科:特別の教科 道徳
教材名:「橋の上のおおかみ」(東京書籍)
授業のねらい:優しい行動の原動力は相手の幸せを自分の喜びにできる心であることに気づき、相手の思いをくみ取って行動しようとする思いをふくらませる。
事前指導:司会役の生徒に教材を読んでおくよう促し、教師とともに発問を考える場を設ける。
授業者:瀬戸山 千穂 教諭

優しい人って、どんな人?

進行役の生徒4名が教卓の前に並び、授業が始まった。

事前に本時の司会者の希望を募ったところ、15名が挙手したという。2~3名を想定していたが、「是非、初回にチャレンジしたい」という生徒が4名残ったそうだ。

瀬戸山千穂教諭(以下、瀬戸山)「皆さんに以前話をした通り、司会をやりたいと⾔ってくれた4⼈の皆さんの進行で、授業を進めてもらおうと思います。 初めてなので、たまに私が⼊るかもしれません。」

司会「優しい⼈ってどんな⼈だと思いますか? 話し合う時間が必要ですか? では 1 分話し合ってください。」

話し合いの後、挙手した生徒を司会が指名し、次のような意見が出た。

生徒「自分のことを気づかってくれる人」
「相手の気持ちがわかる人」
「視野が広い人」
「心が広い人」

瀬戸山「『視野が広い⼈』と、『⼼が広い人』は、両方『広い』ですが、違いはありますか? 今⽇はこの辺も考えられるといいですね。」

瀬戸山教諭が、教材「橋の上のおおかみ」を読み聞かせた。この教材は、小学校の教科書にも掲載されているため、ご存じの方も多いと思うが、あらすじを紹介する。

あらすじ

おおかみは、一人しか渡れない一本橋の上で待っていて、渡ろうとするうさぎやきつねを追い返し、自分が先に渡る意地悪を繰り返していた。ある日、大きなくまが来たので、道を譲って戻ろうとしたところ、くまが抱き上げて後ろにそっとおろしてくれた。次の日、おおかみは、うさぎが来たので、くまの真似をしてみたところ、意地悪よりずっといい気持ちになることに気づいた。

優しい⼈はいましたか?

司会「お話の中に優しい⼈はいましたか? 優しい⼈は誰か、どんなところが優しかったか発表してください。」

生徒「くま」
「戻さないでそのまま持ち上げたところ」

司会「他にいませんか? くまだけですか?」

生徒「最後はおおかみも優しくなった?」

司会「おおかみは優しくなったと思いますか?  変わったと思う人は手を挙げてください。」

生徒「前半はおおかみが威張って、みんなを引き返えさせていたけれど、後半になったらくまの真似をして通してあげたから、変わったと思います。」
「最初はみんなから怖がられたり意地悪してきたけれど、最後はその優しい気持ちに気づいて優しくなったから、最終的には優しい⼈だなって思います。」
「最初はちょっと意地悪な気持ちがあったけれど、くまに優しいことをされて、⾃分も優しくならないとって気づいた。」

いつ優しくなった?

瀬戸山「おおかみには、もともと優しい気持ちはゼロですよね?こんなに急に変われるんですかね? 近くの⼈と1 分くらい話してみてください。」

生徒「変われないと思う。くまに優しくされたから、優しく返したくなっただけだと思う。」
「うさぎに謝っていないから、優しいとは言えない。」
「好奇心で真似してみたかっただけで、心は変わっていない。」
「猫を被っている。」

瀬戸山「やっぱり変わってないのかな。司会の皆さんは、どうですか?」

司会「前よりずっといい気持ちになったから、変わってはいるとは思う。」

瀬戸山「もう一度聞くけど、おおかみさんは変わってないと思う人? 1人もいない? 変わってないがいなくなっちゃった。じゃあ、どう変わった? いつ優しくなったと思いますか? 先生が手を動かすので、ここだと思ったところで、手を挙げてください。」

生徒「くまの中の優しい気持ちがおおかみに伝わったとき」
「うさぎを抱き上げたとき」
「前よりずっといい気持ちになったとき」

司会「前の悪い方のいい気持ちと、こっちのスッキリしたいい気持ちではどんな違いがあると思いますか?」

生徒「意地悪して感じる面白さは自分だけいい気持ちだけど、優しさは相手もいい気持ちになる。」
「感謝されてうれしかったから、またやろうっていう気持ちになれた。」

司会「なぜおおかみは優しくなれたと思いますか? 理由が言える人はいますか?」

生徒「他の⼈にも優しさを分け合いたいと思ったから、真似したんじゃないかな。」
「優しいことをされて、自分にもともとあった優しい気持ちに気づけたんじゃないかな。」
「いたずらは自分のためだけど、人のために行動するといい気持ちになると気づいた。」

瀬戸山「今すごい発想ができたの分かった? おおかみに相手を気づかう気持ちが生まれて、うさぎとの関係性が変わった。」

ロボットに優しくされたら?

司会「もしもくまに会えなかったら、おおかみは、ずっと優しくなれなかったのでしょうか? (AIで作成した中央上の挿絵を提示して)こんなロボットに会った場合でも、変われたと思いますか?」

生徒「ロボットは優しいとか、うれしいとか無いから、変わらないと思う。」

瀬戸山「(複数名挙手した様子を見て)今、手を挙げていた人で、付け足しできる人?」

生徒「ロボットはプログラムされたことしかやらないから、心とか感情が無い。」

瀬戸山「くまは、自分より大きいパンダに会っても、すれ違えなかったら、道を譲ってそうですね。みんなが最初に言ったのは、これなのかなと思いました。『視野が広い』というのは、相手までよく見えていて、相手の気持ちがわかるということかもしれませんね。」

改めて、優しい人って、どんな人?

司会「今だったら、優しい人ってどんな人だと思いますか? ノートに書いてみてください。意見がある人は手を挙げてください。」

生徒「自分だけでなく、周りの人も大切にする人」
「すぐに行動できる人」
「相手が喜ぶ行動ができる人」

瀬戸山「授業の初めより、広がったと思いませんか? 今日の発問は前の4人がお休みの日も使って考えてくれたものです。頑張りに拍手をお願いします。一生懸命考えた自分にも拍手!」

今日、発見したことや、なりたい自分について振り返りを書いて提出するように指示があり、授業が終了した。

振り返り(抜粋)
  • 相手の気持ちをきちんと考えて行動するようにしたい。 困っていたら助けてあげたいです。 人の影響って大きくて力があると思いました。 こうやって優しさがつながっていって優しい世界にしていけるのかなと思いました。 司会の人もわかりやすい質間をしてくれて、スムーズに進んでいっていいと思いました。 相手も自分もいいきもちになれるのが本当のやさしさだと思いました。 相手のことを考えながら行動するだけで、相手も自分もいいきもちになれるのは、うれしいと思いました。
  • いじわるをする人でも、優しい人に変われるんだなと思いました。 自分は自分のことに集中してると、周りが見えなくなってしまうことがあるので、そんな時でも周りに気づけるようがんばりたいです。 先生ではない、クラスメイトが司会をするのは新鮮で楽しかったです!
  • 優しい人ってどんな人?ときかれると、すぐ答えられそうなのに、よく考えたら難しかった。 周りの人を気づかえる人や、すぐ行動できる人という意見が出て共感しました。 自分も、周りを大切にできる優しい人になりたいです。 今日前に出てくれた4人が本当にすごかったです。 質間も自分達で考えたと知っておどろきました。 尊敬します!
  • 自分のためじゃなくて人のために行動できる人が本当の優しい人なんじゃないかなと思いました。今回のくまとおおかみみたいに、だれかが優しくしていたら、他の人も優しくできると思いました。 私も周りの人に気を配って、その時の状況に応じた対応ができるようにしたいです。
  • 人の優しさにふれると他の人にも優しくできることが分かった。 自分も相手も、大切にできるのが優しさだと思った。 自分がされてうれしいことを相手にもしてあげようと思った。 司会の人の質問は、新しい視点で考えることができたので、色々なことに気づけた。
  • オオカミさんは最初いじわるだったけど、くまさんのおかげでやさしい気持ちが分かった。 人はいつでも変われるんだと思った。司会の人もちゃんと自分から案を出していてそれに自分たちで考えていてすごいと思った。 助け合う気持ちが大事だと分かった。
※一部漢字表記に変更

授業者インタビュー

司会の生徒と事前に発問をつくる

生徒が作成した発問計画

——本時のねらいについて教えてください。

瀬戸山  教科としてのねらいは、「相手の喜びを自分の幸せとして感じられる」ことがわかることです。教育活動としてのねらいは、「司会の生徒たちを中心に生徒が主体的に学びを深めること」です。

——今日、司会の生徒さんたちは台本を持っていました。どのような事前指導をしたのでしょうか。

瀬戸山 生徒に授業進行してもらう取組は、戦後の社会科から道徳が誕生した頃に出版された『子どもらが道徳を創る : 子どもの自由と集団の規律』(蜂屋慶・宇野登著 黎明書房・1957)に触発され、3年前から始めました。授業を⾃分で作るんだ、⾃分が発言するんだという思いから参加意欲が高まり、自信にもつながるので、教育的にも効果が⾼いと思っています。普段あまり発言しない子も、仲のよい子が司会だと発言しようと頑張ります。司会できそうな子をこちらから指名するのではなく、希望者にやってもらうので、事前指導には時間をかけています。

今回は初めてなので、わかりやすい教材を選び、1週間前から、昼休みや朝の時間に3回の事前指導をしました。1回目は5分くらいで、「この教材で親切について考えたいから、⾃分が聞きたいこととか、みんなで考えるために必要な質問を考えてきてね」と4人に投げかけました。

2回目は7分くらいで、発問を「優しい人とは?」に決め、流れや役割分担を相談しました。3回目は10分くらいで、予行練習もしました。

発言を促す工夫

——初めは台本を読んでいましたが、だんだんスムーズになっていましたね。

瀬戸山 今日一番成長したのは司会の子たちです。途中で私が入って、「そう思う⼈?」「思わない⼈?」のように、2択あるいは3択で投げかけたら、授業の終盤で一人が同じように言い始めました。こうした⽅がみんなが発⾔しやすいということに気づいたのでしょう。

——発⾔を促す問いについても事前指導されていたのですか。

瀬戸山 今回はそこまでできませんでした。「なぜ」と聞かれて答えるのはすごく難しいのですが、「いつ変わったの?」と聞くと少し答えやすくなります。「なぜ」を「5W1H」に変えていくというのは、問う際に私が意識していることなのですが、今日の授業では生徒まで下ろせなかったなという反省が残りました。

司会以外の生徒たちも、同意見だったら拍手して満足してしまうのではなく、その意⾒に対して付け⾜したり、そういう意⾒もあるけど…みたいに反論したりできるように指導していきたいです。

後編では引き続き、瀬戸山千穂教諭へ、道徳の授業づくりや、道徳教育推進教師・学年主任としての取組、「中1ギャップ」などについて、インタビューをする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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