2026.03.02
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

地域とつながる防災学習「田原の防災マップをつくろう」(後編) どの教員も探究のサイクルを意識した指導計画に取り組める校内組織を

東京都台東区立田原小学校年生(令和6年度)が、総合的な学習の時間の70時間を使って、大単元「田原の防災マップをつくろう」に取り組んだ様子を、田中百恵先生(前 台東区立田原小学校 主幹教諭・4年担任/現 東京都北区立西ケ原小学校 副校長)にご寄稿いただきました。
後編では、防災マップコンクールへの挑戦からPR動画制作と地域への広がり、振り返りまでを紹介します。

防災マップコンクールへの挑戦と社会的評価

情報活用と協働編集の学び

一つのマップにまとめることの意義に気付き、発信したい意欲が高まっている様子を見て、大きな目標が欲しいなあと思い、日本損害保険協会 第21回「ぼうさい探検隊マップコンクール」に出品することにしました。

グラフィックデザインツールを使い、1枚の防災マップを共同編集するというゴールを掲げたことで、主体的な学びが次々と展開され、情報活用の実践面でも学びがありました。

例えば、誤って情報が消えてしまったことがありました。他者と情報を共有する際のネチケットを実体験を通して学ぶこともできました。また、分かりやすくて扱いやすい記号の必要性や地図の概念に気付いたり、防災関連の地図記号の注釈を対話しながら一つ一つ作成したり、情報を協働で扱うことの楽しさや醍醐味も味わいながらマップを制作していきました。

防災マップコンクールでは2組の作品が佳作に選ばれ、東京新聞やタウン誌にも取材されました。実際に社会から評価を受け、「自分たちの取組が地域の課題解決につながる」と初めて意識するようになりました。インタビューでは、「この防災マップが体の不自由な方やお年寄の役に立ってもらえれば。」と答えていたと後で記者に伺いました。2回のフィールドワーク後の気付きです。高齢者障害者疑似体験活動(区の取組)により、その視点もマップ作りに反映させることができました。「地域の人に役立つものにしたい」、「自分たちの活動が社会につながっているんだ」と互いのスキルを認め合ったり、情報が価値化された事実に満足感を味わっていました。

④発信する

PR動画制作への挑戦

ICT支援員・番組ディレクターなど映像プロから学ぶ

防災マップをより多くの人に広め、活用してほしいという思いから、児童たちはPR動画作りに挑戦しました。単にマップの内容を伝えるだけでなく、どうすればこのマップを見てもらえるかを考え、マップ活用へのモチベーションを呼び起こすための動画にするという目的で取り掛かりました。

例えば、あるグループのコンセプトは、「このマップを手に取って地域に出かけ、危険な場所や安全な場所、一時集合場所を確認してほしい」という、未来の行動を促すことでした。児童たちは「ぼくたちが作ったマップを持って歩く人々」のイメージを膨らませ、好事例となるシーンを自分たちで演じて動画に収めました。

ICT支援員の方からは絵コンテの描き方を学び、テレビ番組のディレクターからは動画のアプローチや伝え方の工夫について、プロの視点でアドバイスや相談役を担ってもらいました。実際のプロモーションVTRを見せ、冒頭の3秒で視聴者を引き付ける法則を紹介しながらのレクチャーはとても説得力があり、ものづくりや表現することへの意欲をさらに掻き立てました。

しかし、ここでもまた想定外の方向転換がありました。当初は1本のCM動画にまとめるつもりでしたが、全グループの大事なエッセンスを1本の動画にまとめるのは至難の業であるとわかり、各グループの伝えたい趣旨や表現方法が多様であることから、「それぞれが完結した1本のPR動画」を仕上げることになりました。

「防災フェスティバル」の開催

学習の集大成、地域・行政との連携と広がり

学習の集大成として、「防災フェスティバル」を開催しました。各ブースに分かれ、児童たちで、一年の学びのエッセンスを織り交ぜた企画運営を行いました。例えば、避難リュックに何を入れると役立つのかを体験するコーナー、自作のダンボールヘルメット着用して頭を守る地震体験など、バラエティーに富んだ活動となりました。また、自助共助公助の視点を自助共助公助の視点を織り交ぜた防災マップや防災ポスターを区の危機災害対策課の方にも評価していただき、「地域の安全を願う思いはみんな同じ」ということを実感していました。

また、クラス代表の児童と区の方とが語り合った「防災シンポジウム」では、「ペットは大事な家族の一員だから避難所にペットも過ごせないか」という意見が出たり、「今ここの避難所で生活すること」を自分事として語る児童が見られました。防災を「自分ごと」として捉え、地域の課題に主体的に向き合う姿が育っていることを確信しました。

「みんなで考えて、作って、発信して、地域の人に伝わったのがうれしい」「これからも自分たちで地域のことを考えていきたい」と、自分たちの学びが地域や社会の課題解決につながることを実感していました。

まとめ

探究的な学びでは、教室の中だけでもなく、地域や社会とつながりながら、知識や技能の習得だけでなく、「自ら課題を見つけ、仲間と協力しながら解決策を考え、社会に発信していく力」を育てていくことができます。この70時間の児童たちの「やってみたい」「伝えたい」という思いが、未来の地域社会をより安全で豊かなものにしていくと感じています。

次期学習指導要領の改訂に向けて、探究の学びをどう進めていくのかが注目されているところです。探究の概念が整理されたり、活用例が提示されたりするような国の兆しもありますが、どの学校のどの教員にも、探究のプロセスが分かりやすく身近になればよいなと考えます。国をあげてのシステム作りを土台に、何らかのアドバイザーも利用しつつ、自分の学校の特色ある単元指導計画を、楽しみながら作っていけることを期待しています。

正直なところ、探究を扱う校内研究の1年目の日々は、校内の混乱もあり、探究は難しく未知なものという負担感がありました。しかし、これまでの既成のテーマで進めていた総合ではなかった異学年同士の交流が児童の声から設定されたり、教員間の進捗報告会が必然的に行われたり、児童にも教師にも活発な学び合いの場が数多く生まれました。

総合の校内研究のまとめでは、「児童の願いを拾いあげて、学習を広げることができた」「全校や地域に知らせたいという児童の願いが叶ったことでの達成感」「発達段階に応じた全校的な思考ツールの活用で考えを広め、深めることができた」「先を見通して計画する力が育成できた」など、前年踏襲の総合では体得されない図り知れない成果がありました。単元開発シートを作成しながら、どの教員も探究のサイクルを意識した指導計画に取り組める素地が校内組織として整備されたことが、私にとって一番の成果だったと感じています。

田中 百恵(たなか ももえ)

東京都北区立西ケ原小学校 副校長
徳島県小学校教諭として、情報教育を三好市で学び教員をスタートさせる。総合的な学習で「川」や「食育」を実践。『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)いちごの実践を執筆、『環境教育指導プラン』(ぶんけい)川の実践を執筆。2008年度より東京都で教員となる。前任校の台東区勤務では、誰もが実践できる総合的な学習・探究学習のすすめ方を学ぶ。現在、コミュニティ・スクール西ケ原で地域と協働する学校づくりを目指している。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop