地域とつながる防災学習「田原の防災マップをつくろう」(前編) 地域や学校の特色を生かす総合の単元開発
東京都台東区立田原小学校4年生(令和6年度)が、総合的な学習の時間の70時間を使って、大単元「田原の防災マップをつくろう」に取り組んだ様子を、田中百恵先生(前 台東区立田原小学校 主幹教諭・4年担任/現 東京都北区立西ケ原小学校 副校長)にご寄稿いただきました。
前編では、単元開発から導入、フィールドワーク、中間発表会までを紹介します。
単元開発
出発点として、私事ですが、徳島県で教員をしていたときは、総合的な学習の時間は、「自然」や「食」といった1題材に一年間を通してダイナミックに取り組むものでした。東京に来てからは、単発的な単元が数展開されることが多く、違和感を持っていました。地方でも都市でも、地域や学校の特色を生かす総合の単元開発が急務ではないかと考えていました。
そんな中、似た価値観をもつ管理職と出会い、浅草ならではの題材を扱えていない学校の実態や学年相互の系統性の整備不足といった課題意識を共有することができました。そこで、管理職のリーダーシップの下、総合的な学習を専門とした指導主事に継続的にご指導いただきながら、令和6年度の校内研究として単元開発することになりました。
本単元は「防災について調べる」「地域を歩く」「マップを作る」「発信する」という4つの小単元で構成し、地域のリソースも活用して、専門家からの学びを設定し、展開しました。
| 小単元 | 時期・時数 | 目標 | しかけ | 校内研究 (講師の助言指導) |
|---|---|---|---|---|
| ①防災について調べる | 5月中旬~6月中旬 (8時間) |
自然災害ついて知り、災害から身を守るための考え方や社会の仕組みを知り、活動の見通しをもつ。 | ・避難所開設運営委員 ・保険会社の防災教室 |
・探究学習・単元づくり講話(3月) ・単元づくり報告会・相談会① |
| ②地域を歩く | 6月中旬~9月中旬 (12時間) |
防災についての地域の課題を捉えるためにフィールド調査を行う。 | ・フィールド調査①(保護者調査協力) ・在校生調査 |
― |
| ③マップを作る | 9月中旬~12月 (25時間) |
課題解決に必要な情報を探究的な協働を通して、自分や他者の考えを生かしながら協働して取り組む。 | ・フィールド調査②(保護者調査協力) ・中間発表会(避難所開設運営委員・保護者参画) ・ぼうさい探検隊マップコンクール出品 ・高齢者障害者疑似体験活動 |
・単元づくり報告会・相談会② |
| ④発信する | 1月~3月 (25時間) |
防災のために自分でできることに取り組み、自分と身近な災害とのかかわりを考え発信する。 | ・ディレクター・ICT支援員の協力 ・アナウンサーの防災教室 ・防災フェスティバル(区危機対策課とシンポジウム) |
・校内研究授業(51/70時) ・今年度の実践報告会・振り返り・まとめ |
①防災について調べる
地域との出会い
避難所開設運営委員との交流から地域の課題を知る

近年の大地震や地域の防災意識の高まりを背景に、「自分や友達、地域の人の命を守るために何ができるか」を考える探究的な学びがスタートしました。児童一人ひとりが「自分ごと」として防災を考え、行動する力の育成を目指しました。
新学期間もなく、スクールサポートスタッフでもある避難所開設運営委員の方を招き、田原町の防災対策の実態を学びました。児童たちは「田原町は水害よりも地震が課題であること」「一時(いっとき)集合場所という、広域避難場所へ避難する前の中継地点として一時的に集合する場所が各地域で指定されていること」を初めて知り、驚きの声をあげました。
災害が起きたら、自治会が自分たちの学校に避難所を開設すること、そのための資機材が学校に保管されていることなどを実物を通して知り、「身近なスクールサポートスタッフは地域の防災の担い手となる人物であること」を初めて知り「スクールスタッフさんが防災のプロだったなんて知らなかった」と衝撃的な出会いもありました。

また、自然災害や防災について体験を通して知るために、日本損害保険協会の出前授業を活用しました。事前学習(災害についての一人調べ)を踏まえて、ゲストティーチャーから地震のメカニズムや過去の大震災について改めて学ぶことで、納得しながら学習する様子も見られました。また、様々なキットを準備していただき、家庭でできる防災、仮設トイレの体験活動も行うことで、生活の中で防災にどう取り組んでいくか考えるきっかけにもなりました。
②地域を歩く
1回目のフィールドワーク
体験的な活動から中核的な概念の明確化へ

授業では、課題設定→情報収集→整理分析→まとめ・表現の4つのステップで学びをすすめていきました。意図的に思考ツールを活用して可視化し、児童同士が自分の考えを深めたり、グループで意見を交換したりする場面を多く設けました。
例えば、イメージマップや短冊、ベン図、ピラミッドチャート、クラゲチャートなどを使いながら、「防災マップのよさ」「身近にある危険と安全」「避難所の役割」などを整理し、一定のスキルを育成することができました。振り返りには、「自分の考えをまとめるのが楽しくなった」「友達の意見を聞いて新しい発見があった」「地図にシールを貼ると分かりやすい」などの考えが綴られていました。
〇課題設定
- イメージマップ・・・身の回りの災害を出す
- くらげチャート・・・防災の課題を出し合う
- 座標軸・・・学習の見通しを立て共有する
〇フィールドワーク
- ピラミッドチャート・・・地域の危険と安全を出し合う

1学期の終わりには、「田原町は水害よりも地震が課題」「一時集合場所の存在」「学校が避難所として機能する」「地域の防災担い手の存在」といった中核的な概念が児童の中で明確になっていきました。これらは、地域の方との交流や保護者と一緒に自宅周辺や通学路を歩いたフィールドワークの体験によって、より身近に「自分ごと」として防災を捉えるきっかけとなりました。
③マップを作る
2回目のフィールドワーク

2学期には、2回目のフィールドワークを実施。児童は通学路や自宅周辺を歩き、危険箇所や避難所を調査しました。住民へインタビューから「住民の人が教えてくれたことを地図に書きたい」と意欲を高めたり、写真で記録する際には「写真の撮り方は、ルーズとアップで撮ると分かりやすい」と収め方を意識するようになるなど、身に付けた情報活用能力を現場で発揮する姿が見られました。
灯ろうや軒を連ねる土産売り場、歩道に電光の看板が立ち並ぶ飲食店街など、浅草ならではの光景や閑静な住宅地、大通りに面したオフィスビルやビジネスホテルなど、現地調査で特色をしっかり掴んでいました。タブレットや地図アプリ、グラフィックデザインツール(Canva)を活用して、集めた情報を可視化しました。
学年解体での中間発表会
2学期の土曜授業で中間発表会を開催。発表グループは、2学級の垣根を超えて、テーマごとに編成しました。地域の方や保護者からアンケートフォームにリアルタイムで外部評価をもらいながら進めていきました。地域の方から、「大地震の際はマンホールが危険なのか?」という質問に返答できず、裏付け調査の大切さに気付く場面もありました。
一概に高い建物は倒れてきたら危ないのではなく、「耐震基準は時代とともに変化している」「阪神淡路大震災の前か後かが建物の安全性のキーワードになる」など、新たな気付きが生まれました。児童同士でのプレゼンテーションで相互評価することは探究プロセスをより意味あるものにし、「質問に答えられなくて悔しかった」「もっと調べてみたい」「建物の安全って、昔と今で違うんだ」と、他のグループの発表内容から、気付きや新たな問い、意欲が生まれ、学びの連続性がスパイラルしていることが見取れました。
何のために地域を調べているのか、今調べたことをどうしたいのか、つぶやきからグループごとの考えに発展し、話し合いの質が高まっていると感じたのがこの頃でした。また、授業の最後に行う毎回の振り返りでは、教師のねらったことだけでなく、地域の実態に応じた課題やまだ調べ足りない内容が書かれることも増えてきました。
一斉の課題提示ではなくなり、学びの裏付けを自分たちで見つけていきました。例えば、狭い路地にある自動販売機が倒れて危険だと判断していたが、設置会社にその危険性を問い合わせ、大震度にも耐え得ることを知るなどの展開もありました。
私自身の課題として切実だったのは、問いと解のサイクルをを自分たちで回せる児童が増えてきた一方で、一部の児童たちは振り返りが全く書けないままであることでした。一言も書けない児童の学びを置き去りにしないために、校内研究の中学年分科会で検討し、育成を目指す資質・能力の見える化を図ることにしました。小単元のルーブリックを作成し、授業の初めに「今日のつけたい力」を児童と共有する時間を設けるようにしました。≪後編へ続く≫
田中 百恵(たなか ももえ)
東京都北区立西ケ原小学校 副校長
徳島県小学校教諭として、情報教育を三好市で学び教員をスタートさせる。総合的な学習で「川」や「食育」を実践。『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)いちごの実践を執筆、『環境教育指導プラン』(ぶんけい)川の実践を執筆。2008年度より東京都で教員となる。前任校の台東区勤務では、誰もが実践できる総合的な学習・探究学習のすすめ方を学ぶ。現在、コミュニティ・スクール西ケ原で地域と協働する学校づくりを目指している。
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