対話を通して探究し、「考え伝える力」を養う (後編) 「鳥羽の町は私たちが創る」という当事者意識を育む
6年生の児童たちが「鳥羽の町」の一員をとして、1年間まちづくりに参画し、自己表現などを学ぶプロジェクト学習に取り組んだ明石市立鳥羽小学校。地域住民や企業の方々、保護者との対話を通じて課題を見つけ、鳥羽の町をよりよくしていくためにさまざまな活動を行ってきた。
後編ではこのテーマを選んだ経緯や成果と課題、さらに教科横断的に取り組んだ平和学習、教職員による探究プロジェクトなどについて、友弘教諭に伺った。
対話から始まったプロジェクト学習
友弘 敬之 教諭
友弘教諭(以下、友弘) 実は、私自身が本校の6年生と本格的なプロジェクト学習に取り組んだのは今年度(令和6年度)が初めてです。これまで、総合的な学習の時間は、自然学校や修学旅行の準備の時間に充ててきてしまっていました。
「もっとこの時間で児童たち自身が課題を発見して、没頭できる学びの時間にしたい」と考え、今年度は児童との対話からスタートし、そこからテーマを決め、学習計画を練りました。

友弘 当初は教員間だけの仮のテーマとして、「明石の食」を設定し、学習ビジョンの図も作っていました。食なら誰もが魅力を感じるテーマですし、児童たちにもわかりやすい。しかし、児童との対話や街歩きを重ねていくうちに、食以外にも多くの課題が浮き彫りになってきました。そこでテーマを「鳥羽の町をよりよくしていこう」に変更し、食はプロジェクトの一つの要素として取り組むことにしました。
―児童たちとどのような対話をしたのでしょうか。
友弘 対象の6年生は、以前のコロナ禍の影響で、低中学年時に地域を素材とした学習ができておらず、校外学習の経験も少ないです。児童たちと街歩きをしたあとの対話で、自分たちが住む町のことすらあまり知らず、明石市よりも鳥羽の町の方が児童の実態に合っていることに気づきました。また、地域の人たちとの対話の中で、徐々に地域の課題が見えてきました。例えば「公園のゴミを見るとつらい」、「もっと明石に人を集めたい」などの意見です。そして1学期の終わりに、次の3つのプロジェクトが立ち上がりました。(詳細は前編を参照ください。)
友弘 鳥羽の町を愛する大人と触れ合うことで、自分の町に誇りを持つことができたように思います。そして彼らと新しいつながりが作れたことが成果の一つです。「あんな大人になりたい」という発言もありました。また、各プロジェクトに対して多くの児童が自分事として取り組めたこと。どのプロジェクトにも「まとめ・表現」の場を設けたことで、自分の考えを言語化する力の育成にもつながったと思います。
―課題もありましたか。
友弘 課題としては、たくさんのチームに分かれたため、それに関わる人も活動内容も異なり、スケジュール調整や打ち合わせなど、教員に負担がかかり、手が回りにくくなってしまったことです。また、すでに構築されている人間関係の上でチームに分かれていたので、意図的に崩しておけば、人間関係を広げるきっかけになったのではないかと思いました。それから、学習の進行状況が不明確になってしまったことが挙げられます。今後は学習プロセスをもっと意識できるよう、ある程度「型」に合わせたカリキュラムづくりに挑戦したいですね。
平和を捉え、広げ、深め、伝える
友弘 これまで修学旅行という活動のための活動だったものを、学びのための活動にしたいと考え、「何のために修学旅行に行くのか?」を出発点にしました。まず行き先が広島なので、必然的に平和学習が位置づけられます。平和教育には戦争が含まれるので社会科の歴史と組み合わせ、さらに平和や自由を含む資料があった道徳、戦争を題材にした教材があった国語を加えました。
児童の実態を知るため、日帰りの校外学習を設定したのですが、そこで見えてきたのが、グループで計画を立てたり見学したりする協働的な作業の大切さです。この結果から修学旅行の学びの目的を、平和について自分の考えを持ち、広げ、深めることと、グループで協働して学びの力を養うことに決めました。
社会科では戦前から戦争を経て、戦後までの我が国の様子を資料で調べて、平和について考えを深めました。道徳では本当の自由の大切さを解く「うばわれた自由」などの教材を通して、平和について考えることに加え、グループでの協働的な学びのあり方を考えることを軸にカリキュラムを立てました。
―友弘先生の専門でもある国語ではどのように組み込んだのでしょうか。友弘 国語の魅力は、幅広い自由な単元形成ができることだと思います。単に登場人物の気持ちを考えるだけでなく、「えんたくん」を使って児童と対話をしながら物語を読んでいくなど、創造性を発揮できることが魅力です。そこで国語科では、戦時中の様子に思いを馳せる「模型のまち」という物語を題材にしました。それを読んだあとに、「自分の考えをまとめて相手に伝える」授業を行いました。
締めくくりとしての「平和学習発表会」は、保護者や地域の人を招き開催しました。その準備では、「何を、誰に、どのように伝えるか」を意識して、児童同士で対話しながら発表資料を制作し、相互評価し合う時間を設けました。発表後の児童と来校者との対話の時間には、大人たちと堂々と対話する児童の姿に手応えを感じました。
教職員の探究プロジェクト「働(はた)ラボ」
―今年度の校内研究のテーマを「未来を築く子どもについて対話する学校創り〜教職員が対話する時間の創造〜」としたきっかけを教えてください。
友弘 私がこの学校に赴任して感じたのは、さまざまな経験を積んだ教員の層の厚さと何でもチャレンジできる雰囲気でした。そこでこの豊かな人材を題材に研究ができないかと思いました。5年ほど前から明石市教育委員会では、「みんなでラボ(熟議)ろう!!」という先生間の自由な意見交流が推進されていることもあり、教職員で3つの対話ラボを組織しました。そしてそのラボの活動自体を研究することにしました。
―どのようなラボを組織したのですか。友弘 「学年ラボ(学ラボ)」、「チームラボ」、「働(はた)ラボ」の3つです。「学ラボ」は学年団が総合的な学習の時間や生活科のカリキュラムづくりについて対話する場、「チームラボ」は学年を超えた3名の教職員で、目指す児童像について対話する場、「働ラボ」は教職員が対話する時間を創出するためにどうすべきか対話する場です。
対話する時間を設けるために勤務時間を超えたり、都合が合わなかったりと、参加できない教職員もいる。そんな状況でラボることが、逆に心理的溝を生み出す矛盾がありました。そこで、今年度はそれを改めるために研究推進部で「働ラボ」を組織し、最も力を入れて活動を行いました。
―「働ラボ」では実際にどのような働き方改革に取り組んだのですか。
友弘 月一回程度「時間を創造する」ための対話を重ねました。1学期にブレストを行い「フレックス勤務」「カリキュラムオーバーロード(学習内容過多)の是正」「アウトソーシング」という3つのプロジェクトを立ち上げました。
そして2学期に具体的な対話を重ねました。アウトソーシングは予算が発生することもあり、教職員の対話だけでは推進することができませんでした。しかし、フレックス勤務では、今後の可能性の幅を感じる対話ができました。また、カリキュラムオーバーロードの是正では、既存の業務の削減など成果がありました。私自身、探究のプロセスを実体験できたと思います。
―今後の研究の見通しを教えてください。
友弘 チームラボで、来年度は1時間×11回の時間を確保し、学年を超えた教職員4〜5人で「教育における探究の探究」をテーマに対話を重ねたいと思っています。働ラボの取組により、対話する時間を確保できたので、来年度、働ラボは解散する予定です。
―最後に今後の目標を教えてください。
友弘 明石市には「研究講座グループ」という任意の研修の場があります。そこで今回のラボ的なものを組織して、市内の他校の教職員と対話する場を設けることができました。それをさらに範囲を広げて、兵庫県内の他市町の教職員の方々と対話できるような組織を作っていきたいですね。そしてまたいつか大学院で学び、教員養成に関わる仕事もしてみたいです。
記者の目
友弘教諭から何度も出てきた「対話」という言葉。実際に対話するには、大人でも子どもでも、「考えをまとめ、表現する力」が必要だ。総合的な学習の時間だけでなく他教科を巻き込んだ対話の学びは、今後児童たちにとって実社会でも確実に役に立つことだろう。ただし、友弘教諭も危惧していたが、このような力を伸ばしていく学びの場を小学校以降の教育機関でも連携して設けいくことも重要ではなかろうか。
関連記事
取材・文・写真:学びの場.com編集部
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育リポート」の最新記事
