2024.08.26
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やさいや米をそだててエコを学ぼう(後編) 特別な支援が必要な児童にも様々な経験を

前編では「わかば学級」4クラス合同で実施したペットボトル稲の授業の様子を紹介した。後編では、発達障害やインクルーシブ教育などに関する情報がまだ少なかった時代から、公立小学校で特別支援教育に取り組んできた渡邊満昭先生に、特別支援学級の授業づくりや、通常学級との連携、また、環境カウンセラーとしての活動などについて伺った。

特別支援学級と通常学級のスムーズな連携

渡邊 満昭 先生

―静岡市立中島小学校の特別支援学級について教えてください。

渡邊満昭先生(以下:渡邊) 発達がゆっくりであったり、知的ハンディー、個性豊かで独特なこだわりや行動様式を持っていたりする児童が学習するクラスです。通常学級のように同学年クラスではありません。

例えば、私が担当する「わかば2組」は4・5年生で5人構成。2・6年生の6人で構成したクラスもあり、変則的です。特別支援学級1学級の上限児童数8人の中で、「どんな児童の組み合わせなら授業をスムーズに進行できるか」「自己表現ができるか」などを児童ファーストで考えたクラス編成をしています。

―わかば学級と通常学級との交流についてはいかがでしょうか。

渡邊 わかば学級では「家族っぽい」雰囲気を心掛けています。特徴的なのは、児童のことを先生が1対1の関係性ですべて把握できていることです。例えば、「この児童は通常学級のこの授業には問題なく参加できそうだな」と感じた場合はさっと加われ、違和感なく行えることが本校の特徴です。このようなスタイルにすると、わかば学級と通常学級の児童の交流が自然と生まれます。教科学習以外の活動についても「わかば学級の児童が委員長に立候補したり、役を自分から率先して引き受けたりしている」と通常学級の先生から報告があるので、手探りではありますが、今はこのスタイルが適切だと思っています。

将来の就労などに役立つような体験を

海の生き物のイラスト

―単元「やさいをそだててエコを学ぼう」について教えてください。

渡邊 特別支援を必要とする児童は単独での外出がなかなか難しいため、体験数がとても少ないのです。できれば将来の就労などに役立つような体験の場を学校というフィールドで作りたいという思いから、栽培活動を単元に取り入れています。1~3時目ではジャガイモの栽培を、4時目の本日は米作りにしました。

―どんな工夫をされましたか。また児童の反応についてはいかがでしたか。

渡邊 日常的に児童の好き嫌いを把握できているので、「誰が前に出てくるかな」と予想しながら授業の構成を考えました。それぞれの個性を活かせるよう、児童の持ち味に合わせた学習内容を組み入れたり、興味・関心を最優先したりと、児童がどこまでも追求できるようにしています。児童の反応としては、きちんと話が通っているか心配ですが、ペットボトルに書いた内容を見ると、海の生き物のイラストや日常的に大切なものなど、今日の授業の趣旨から決めたようにも感じましたので、その意味では話が伝わっただろうと思います。

―エコに対する学びも伝わったように感じますか。

渡邊 そうですね。リサイクルや4R(Refuse・Reduce・Reuse・Recycleの4つの頭文字を取った総称)の話が特に違和感なく児童の口から出てきましたね。ペットボトルを持ってくる過程についても、割ときれいに洗ってあるものはリサイクル用、汚れたものはゴミなど、それがどこにあったかを想像できていたように感じます。そのステップを踏んでから、海岸に流れ着いたゴミの問題やペットボトルのリユ―スについて触れることを意識しました。

校内にあるビオトープ

―校内にあるビオトープも環境教育の一環として活用しているのでしょうか。

渡邊 いえ、まだこれからの段階です。といいますのも80年以上ある本校の歴史の中で、ビオトープは忘れられた存在になっていたのです。植生保全の整備もできておらず池も漏水の修理をしたばかりですが、わかば学級の児童にとってはカエルがやってきたり、トンボが産卵してヤゴが育ったりする様子を自由に観察して楽しんでいるようです。学校のビオトープの理想的な姿についての協議が児童の間で始まっていますが、今はここに誰かが必ず訪れることを継続するようにしています。

特別支援教育の情報が増え、新たな学びが多い日々

―機能的な校内の支援体制構築に関する研究などもされていますが、特別支援教育コーディネーターの役割について教えてください。

渡邊 私自身も10年以上の特別支援教育コーディネーターのキャリアはあるのですが、本校では私ではなく、大変優秀な教員が任命されています。具体的には、学校全体の把握や特別支援学級としての方向性の検討、配慮が必要な児童と他の児童との関係や考え方の調整などの役目があります。

また、保護者対応や児童が抱えている課題と障がい名、その内容についてどのような傾向と対処が必要かをおおよそ把握して道筋を立てることや、通常学級の先生たちとの内部調整、校長・教頭先生との情報共有、スクールカウンセラー・教育相談コーディネーター・スクールソーシャルワーカーとの連携、外部スタッフとの話し合いなど、数多くの役割を果たす立場です。

―キャリアのある渡邊先生、頼りにされるのでは。

渡邊 アドバイスをする立場ではなくて、本校の特別支援教育コーディネーターに教えてもらってから考えるシチュエーションの方が多いですね。

私は黎明期のコーディネーターの1人ですが、当時は手探りでした。現在では特別支援教育に関する文献が多く、過多と言えるほど情報があります。得た情報を選んで組み合わせるなど、特別支援教育コーディネーターのやり方も少しずつ変わってきています。私はできるだけ前に出ず、よりディープでコアな児童を担当しています。

―渡邊先生のご経歴の中で、特別支援教育とどのような出会いがあったのでしょうか。

渡邊 教員になったのは39年前、現在は再任用教員となり2年目です。児童指導に尽力していたのですが、家庭環境や成長スピードの個人差だけでは説明がつかない児童の存在に気づきました。試行錯誤した結果、「そのような児童と一緒に過ごせる」「学校で対処ができる」といった感触を得られ、自分なりの理念で学校経営・学年経営をしたら割と上手く回り出した頃に、全国でも児童の個性や発達障害に対する概念が広がってきました。そんな時期に通級指導に携わり、その後は特別支援学級にどっぷりと浸かりながら現在に至ります。

―教員になってから、公認心理師や学校心理士、環境カウンセラーなどの資格を取得されたそうですが、教育現場でどのように活かされていますか。

渡邊 児童の表情や動きから今どういった状態にあるのか。おおよその背景を予想しつつ、関わるタイミングを冷静に判断し、対応するように今までもしてきました。心理学的な知見を得られれば、取組が間違いではなかったと確認できるだろうと思い、答え合わせのような形で資格を得ました。

環境カウンセラーとしては、校内で特に目立った活動はしていないのですが、ビオトープに集う児童たちが動き出せるようなお膳立てはしているつもりです。障がいのある子どもたちを山に連れて行き、自然に親しめる活動や講演会など、学校以外の活動も数多くしてきましたので、少しは貢献できていると思います。

児童と多くのことを情報共有できる関係性がポイント

―教員を目指す未来の先生や後輩教員たちへアドバイスをお願いします。

渡邊 児童に対しては壁を作らず、同じ立場の姿勢を示すと気軽に話しかけてくれるようになります。児童と多くのことを情報共有できる関係性が、我々教員がスペシャリストとして求められているポイントだと思います。

教員として壁にぶつかった際は、悩みを言い合える同僚を見つけられるといいですね。自分の頭の中だけで堂々巡りをするよりも話すことで悩みの再確認ができますし、そこからつながるご縁もあります。同僚と悩みを解消できる立場を確保することで、私も救われてきました。「新しいことに一生懸命に取り組む先生の姿から何か感じてもらい、それを児童のやる気につなげられたら最高じゃん!」というモチベーションで乗り越えていきたいですね。

記者の目

渡邊先生の教え子は、大学や就職先でもなぜか環境教育分野に進路を決めたケースが多く、その理由は「小学校時代に植物と触れ合った授業が印象的だったから」と話してくれるそう。「子ども時代に打てば、大人になって響く人もいる。教員を長年やって良かったなと思います」と微笑む渡邊先生の言葉に、児童の将来をも見据えた学校教育の尊さを改めて感じた。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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