2023.04.24
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教師とスクールカウンセラーの協働、どうすればうまくいく? 「スクールカウンセラーから見た教師✕教師から見たスクールカウンセラー」セミナーリポート

スクールカウンセラー(以下、SC)が1995年に導入されて以来、もうすぐ30年が経とうとしている。2022年度から高等学校の保健体育に「精神疾患の予防と回復」の項目が盛り込まれるなど、学校教育でも心のケアの重要性が高まっているが、SCを十分に活用できていないという声も少なくない。
特別な支援を必要とする子どもや保護者への対応、いじめ・不登校への介入をめぐり、教師とすれ違いが生じることも多い。両者が手を取り合い、協働していくにはどうすればよいのか? オンラインカウンセリングサービス等を提供する株式会社cotreeが開催した本セミナーで、現役の小学校教諭とSCが率直に語り合った。

講義

教師からみるスクールカウンセラー

東京学芸大学附属竹早小学校 教諭 曽根 朋之氏

最初に登壇したのは、東京学芸大学附属竹早小学校教諭の曽根朋之氏。10年のキャリアの中で6学年すべての担任を経験し、専門とする国語教育の研究も行っている。

ご存知のように、教師は多忙だ。曽根氏もまた、子どもたちの登校前と下校後の2時間半程度で、山ほどある自分の仕事をこなしている。この多忙さを前提として、曽根氏は自身の経験と知人の教師から集めた情報をもとに、教師から見たスクールカウンセラー(SC)について語った。

最初のころは、とにかくSCを認知するまでに時間がかかる。学校には様々なボランティアなど多くの人が出入りしているうえ、きちんと紹介される機会がない場合もあり、「SCが何をしてくれる人なのか、よくわからない」ことも往々にして起こりうる。子どもや保護者への対応はSCに任せやすく思えるが、そこには教師間の人間関係や日々の授業での指導、子どもの家庭環境などが関わってくるため、「何をどこまで相談してよいのか」がつかみにくいという。

「特に難しいのは、担任だけで解決してよいことと、そうでないことの線引き。相談には時間が必要ですし、『相談が多い=学級経営力がない』と思われるのではないか、という危惧もあって判断に迷います」(曽根氏)

また、SCのことがよくわからないがゆえに、担任へのクレームにどう対処しているのか、保護者や管理職の前で担任が悪者にされているのではないか、と疑心暗鬼になってしまうこともあるという。

やがてSCの存在に慣れ、相談する機会が増えていくと、頼りにする気持ちが芽生えるとともに、別の気になる点も出てくる。その一つが、「○○くんの様子、最近どうですか?」といった遠回しな質問から始まる、本題のつかめない世間話だ。

「気にかけてくれるのはありがたいのですが、自分の家庭の事情や、その時間に片付けたい仕事があったりするので、自分に問題意識がない場合、会話は短く済ませたいというのが正直なところです。」(曽根氏)

そもそも、教師には子どもの特性に応じた支援をしたい気持ちがある一方で、個別対応は最小限にしたいという思いもある。個別対応には労力を要するうえ、次年度の担任に同じ対応を求めることの難しさがあるためだ。それに加えて、個別に対応せずとも子どもたち全員が学べる授業をすることは、教師の力量の一つだという自負もある。

また、子どもを支援するタイミングについても、教師とSCとでは考え方が異なる。例えば片付けが苦手な子がおり、新しい担任は初めて接するが、SCは前年度から知っているという場合。担任は「まずは1人でやらせてみて、どこまでできるのか、何に困るのかを知りたい」と考えているが、それらをすでに把握しているSCは「ここからは自力では難しいだろう」というところで子どもに手を貸してしまったりする。 

「そんなときは『まだ手伝わないでほしい』と感じてしまいますが、手伝ってほしいとき・ほしくないときは教師の指導方針や忙しさによっても変わってくるので、難しいところです。また、SCが『この子にはまだ早い』と感じることを、教師はこれまでの経験から可能と判断していることもあります。SCを責めているのではなく、こうしたずれが、すれ違いを招く要因なのではないかと思います」(曽根氏)

スクールカウンセラーから見た教師

臨床心理士・公認心理師 /スクールカウンセラー 初川 久美子氏

次に登壇したのは、スクールカウンセラー(SC)として14年のキャリアをもつ臨床心理士・公認心理師の初川久美子氏。これまでに複数の小中学校でSCを務め、現在は自治体の教育相談室の教育相談員も兼務している。

初川氏はまず、「学校では心理専門職の常識が通用しないことが多い」として、次のような点を指摘した。臨床心理学では時間や場所などの「枠」を大事にするが、学校では自ら教室などに出向いて子どもの様子を観察し、「相談」を掘り起こしていく必要があること。会ったその場で保護者から急に相談が始まったりすること。多忙な教師へのコンサルテーション(以下、コンサル)は短時間・立ち話になりがちであること。心理専門職では守秘義務は厳守だが、学校では集団的守秘義務の考え方の下、時に情報共有が必要であること等々、心理専門職が大学院で習った面接室で行う従来型の心理援助との違いは枚挙にいとまがない。

しかし、心理専門職の人は「今ある環境によりよく適応する方法」を見つけるのが得意であり、初川氏もそれぞれの学校、教師に合わせて柔軟に対応している。SCは学校ではマイノリティであり、マジョリティである教員にやり方を変えるように要求するようなことは憚られるからだ。

「SCから見た教師は、熱意も体力もあり、マルチタスクで仕事こなしながら子ども1人ひとりをきちんと見ている、すごいとしか言いようのない存在。SCは学校の中でマイノリティであるため、仮にその先生のやり方や置かれた環境に何か難しさを感じたとしても、そこを気軽に口にはできません。一方でSCが業務上行う『助言』は、それをふまえて教員と一緒に対応を検討したいから伝えているのに、『指示』として機能してしまうことも多くあります」と初川氏は述べ、こうしたSCの置かれている「構造上の難しさ」が、SCと教師のすれ違いの要因になっているのではないかと指摘した。

学校は明確な縦割り組織だが、SCの位置づけは学校によって異なり、教師からすれば仲間なのか、外部専門家なのかがつかみにくい。また、SCは個や家庭、クラスなどを見立てる(仮説を立てる)ことはできても、集団の指導は専門外。一方の教師は集団に責任をもつ立場であり、個の対応に多くの時間を割いてもらうことは難しい。SCは勤務日数が週1~2日だけであったりと、学校にいられる時間が限られているにもかかわらず、話せるときに心理職の得意な「相談・コンサル」としてしっかり時間を取って話したいと考えがちであることも、多忙な教師とのコミュニケーションを難しくしていると考えられる。

加えて、SCが「何ができるか、何が仕事か」を説明しにくい存在であることも影響している。例えば、パニックを起こしている子どもを「ちょっとよろしくね」と相談室に託されることや、授業中に子どもを直接支援したり手伝ったりすることを教師から頼まれた場合、SC自身も「これは自分の仕事なのか」と迷うことが少なくないという。こうした場合、教員のニーズには出来る限り応えつつも、SCとしての文脈や意図(クールダウンを伝える機会/参与観察を行う機会として活かす)を持っている必要があります。

「こうした難しさに自覚がないと、SCは謎の人、機能しない存在(あるいは都合の良い存在)になってしまいます。 ただ、できること・できないことを説明して理解を得ようとするより、協働して相互理解を深めていく方がよいと考えています」(初川氏)

そこで、初川氏は年度始めに先生方にSCを紹介してもらったり、コンサルを職員室で行うようにして見える化したりして、自分の人となりや仕事ぶりが伝わるように工夫している。また、見立ては思考過程も含め、簡潔にまとめて共有するように心がけ、小さい見立てを都度メンテナンスするようにしているという。

「目指すのは『子ども・教師・家庭みんながそれなりにうまくいくところ』。SCと教師、それぞれ立場に難しさはあれど、目指しているのは同じところ。だからこそお互いの専門性を掛け合わせたところが最適解になるはず。その一助になれればと考えています」(初川氏)

架空事例検討

こんなときどうする? 教師とSC、それぞれの考え方

ここでは次のような架空事例を取り上げ、株式会社cotreeの原田陸氏も参加して、どう対応すべきか話し合いが行われた。

【事例概要】

小学校4年生男児(Aくん)。
衝動的な気持ちをうまくコントロールできない。
カッとなって「ばか」「死ね」という暴言を吐いたり、手が出たりすることもある。
文字を読んだり書いたりすることが苦手で、授業にはついていけないことも多く、そのストレスも感じている。

「教師なら誰もがAくんの抱えている困難を合理的配慮によって取り除き、『学校楽しいな』『勉強してよかったな』と思えるようにしたいはずです。ただ、そこにはやる気だけでは実現できない難しさがあります」と曽根氏は言う。

例えば、読み書きに困難があるAくんには、iPadなどのタブレット端末を使って勉強するという手立てが考えられる。しかし、ほとんどの小中学校に1人1台の端末環境が整備されたとはいえ、必ずしもiPadが導入されているわけではない。また、「iPadを誰が管理するか」「使い方がわからない」といった問題もある。このほかにも、 電卓、九九表、いろいろなマスの大きさのノート、個別の課題など、子どもの特性に合わせた合理的配慮はいろいろと考えられるが、それらを用意する教師の手間は増える。

「先ほどもお話したように、来年の担任への引き継ぎの問題もあります。来年度の担任に同じ対応を求めるのか。また、他の子どもは『あの子だけずるい!』と感じるでしょうし、『だったらうちの子も』と思う保護者もいるでしょう。そこで矢面に立つのは教師なので、対応策を講じたいと思いながらも一歩を踏み出せないジレンマを抱えています」(曽根氏)

これを受け、初川氏は教員の支援において「仲間がいれば/支援があればできる」という「発達の最近接領域」を見つけて手立ての幅を広げることをねらいとしながら、大枠としては「感情コントロール」と「読み書きの苦手さ」の2本立てで支援を考えていくことを提案した。初動としては、その2つの軸を念頭に置きながら、まずAくんへの支援のための行動観察と、保護者との連携のためのリサーチを実施し、担任はどうしたいか、SCができそうなのはどこかを相談していく。

可能であれば、感情コントロールについては、Aくんをカッとさせる要因を機能分析したり、Aくんがカッとなったときに自分で対処する方法を教えたりすることも検討する。読み書きの苦手さについても、Aくんに合った学習方法を考えていく。保護者とつながれそうなら、九九表やノートなどの準備を依頼。詳細なアセスメント(観察・分析)のために自治体の教育相談室へつないだり、通級/特別支援教室の利用検討も視野に入れる。

「他の子どもに対しては、例えば全員を特別扱いするなど、『あの子だけずるい』と言わせない学級経営を行う方法があります。他の先生方への対策としては、特別支援の校内委員会やSCの日々の活動記録、管理職への報告などでSCとしての見解を共有します。同時に、コーディネーター、養護の先生などからAくんのつまずきや対応策の理解を広げて『世論』を作り、学校全体としての支援レベルを上げることを目指します」(初川氏)

いじめや不登校へ進展したら?

このような事例は、いじめや不登校へと進展する可能性もある。曽根氏は次のようなケースを提示し、初川氏に対応策の提案を求めた。

Aくんの発達障害が原因でトラブルが発生。話し合いで表面上の解決はしたが、相手のBくんは『わかるけど、納得できない』ため、遺恨が残ってしまった。直接的ないじめには至っていないものの、BくんはAくんに対して距離を取っており、Bくんの仲の良い友達も同じくAくんに距離を取っている。AくんはBくんやその友達と仲良くなりたい気持ちはあるが、避けられていると感じ、「いじめられている」と担任に訴えがあった。

このような場合、どう対応すればよいのか。また、AとB、その周りの子どもたちの関係が改善されず、Aくんが不登校になってしまった場合、どうすれば根本的解決に向かえるか。長期化したら担任はどこまで関わればよいのか。また、不登校となっているAくんに、新たな担任はどう関わればよいのか。

「AくんとBくん、どちらの気持ちもわかるので、とても難しい問題。担任としてはきちんと関わりたいと思いますが、長期化すると対応が負担になり、悪循環に陥ってしまうかもしれません。また、不登校のAくんへの特別な対応を次年度の担任にそのまま継承してもらうか否かも難しいところです」と曽根氏。初川氏は、「いじめへと進んだ状況では、王道、正解、よくやる対応方法がいよいよ見えにくくなっています。こういうときには、教師として・大人としてどう考えるか、理想と現実のギャップが表に出てしまいがち。難しい状況だからこそ、早急に答えを出そうとするのではなく一緒に考えていきたい」として、次のような視点を提示した。

まず、「距離を取る」ことはスマートな解決法か、間接的な攻撃か、この立場による見え方の違いをどうしていくか。また、4年生にもなると「ごめん」「いいよ」で解決しない問題もある。「今はまだ許せない」という思いをどう尊重していくか。友達になりたいと願ったように必ず仲良くできるとは限らない現実をどう教えるか、または教えないのか。心の中で「嫌だな、苦手だな」と思うのと行動するのは別だが、それをどう子どもたちに伝えていくのか。

「こうした割り切れなさがあるときには、どちらの子どもの苦戦にも付き合っていかなくてはいけません。『もう仲直りしなさい』『離れなさい』という乱暴なやり方ではない解決方法を探していくこと、つまり正解のない状況や思いに付き合い続けることが大事です」(初川氏)

また、不登校になった場合の対応としては、まず担任にどのように関われそうかを聞き、Aくんが担任に会えないのであれば、SCに会いに相談室登校できるか検討する。もし担任が会えるなら、例えばクラス替えなどが復帰のチャンスとなるように、教師との良き関係を維持することが大切であると示した。

「この流れでの不登校突入はおそらく保護者が学校に対して怒りや不信を持つだろうというところで、保護者対応の方が大変なので、単に担任を悪者にしない文脈作りが必要。Aくんの今後の学校生活も考慮し、教師やSCが丁寧に関わり、傷ついた心をケアして学校・教師不信につながらないようにしたいです」(初川氏) 

最後に、曽根氏は「信頼関係を築き、SCの専門的な立場から教師の視野が広がるような提案をいただくことで、相乗効果が生まれていくと思います」と述べ、今後の協働に期待を寄せた。

記者の目

立場は違えど、教師とSCの目指すところは同じ。互いの視点を掛け合わせることで生まれる相乗効果は大きなものだろう。そこに至るには双方が歩み寄り、理解を深めることが求められるが、学校側にもSCの位置付けや役割・仕事の明確化、両者の日常的なコミュニケーション機会の設定といった対応が必要であると感じた。

取材・文・画像:学びの場.com編集部

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