2024.08.26
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やさいや米をそだててエコを学ぼう(前編) 静岡市立中島小学校・わかば学級授業リポート

静岡市立中島小学校「わかば学級」のペットボトル稲の授業の様子を取材した。「わかば学級」は、知的障害や自閉症・情緒障害があり、単独では登下校を含む外出、物品購入などをしたことのない児童もいる特別支援学級である。学校の枠組みを活用して、体験の積み重ねを図っており、本単元では、子ども特有の動植物への関心の高さと、継続的な栽培体験を通じて主体的に追究できる力を養い、将来のキャリアの充実へつなげることを目指している。

【授業概要】

学年:小学校1年生〜6年生(わかば学級4クラス27名)
教科:総合的な学習の時間
単元名:「やさいをそだててエコを学ぼう(やさい作り・米作り)」(4/10)
単元の目的:ペットボトルの容器を再利用した米作り体験を通じ、環境情報と育てるための努力や生産者の思いを知る。
達成が期待されるSDGs:8 働きがいも経済成長も、11 住み続けられるまちづくりを、14 海の豊かさを守ろう、15 陸の豊かさも守ろう
授業者:渡邊 満昭 先生
使用教材・教具:ペットボトル・水性顔料マーカー・稲・スコップ・モニター

汚れたペットボトルはどこからきたの?

普段はクラス別に授業を受ける1年〜6年生のわかば学級の児童が一堂に会した学習室は、廊下に出たり、教室に入ったりと自由な雰囲気だ。大賑わいの教室にチャイムが鳴ると、「静かに!」と呼びかける高学年児童の声を合図に各児童が席につく。

渡邊先生が箱からペットボトルをおもむろに取り出し、「ジャーン!これは何かな?」と大げさにジェスチャーしながら児童に見せる。

児童:「ペットボトル!水入れるやつ!!」
渡邊先生:「どこから持ってきたと思う?」
児童:「海!だって汚いから!!」
渡邊先生:「なぜ汚いから海なの? 捨てられているところを見たことあるの?」
児童:「砂がついているの、見えたよ」

投げかけた質問に対し、自由な雰囲気の中で答える児童とのバトンリレーが何度も続き、他の児童たちの視線もペットボトルに釘付けだ。まずは最初の狙い通り、海洋環境問題へと踏み込んでいく。

海岸のゴミ問題の実態を知り、どうすべきか考える

児童の興味が高まった時点で、今度は中国語と思われるラベルがついたペットボトルを見せる渡邊先生。「何語かな?」と言う渡邊先生の問いに、考え出す児童たち。

「これは海岸に流れ着いたペットボトルだよ。」そんな渡邊先生の言葉から、どうやら子どもたちも異国と日本の海がつながっていることに気がついた様子だ。

「このようなペットボトルが海にあるって、なんかいいことある?」

「ない!魚が住めなくなっちゃう」「海が汚れる」「自然な環境じゃない」「捨てられると邪魔になる」と、児童たちの意見は活発だ。「地元の清掃工場に行き、ペットボトルが処理される様子を見たことがある」と言う児童の話も飛び出してきた。

モニターを使い、海辺にたくさんのゴミが集積した写真を見せる渡邊先生。

「わ!めっちゃ汚い」「確かにペットボトルがあるね」と、まさに目の前にあるペットボトルがどこからやってきたのか、おおよその場所を児童たちはつかんだようだ。

このように、海岸へゴミを捨ててはいけないことを児童が再確認した時点で、渡邊先生の次なる狙いは「リユース」だ。使い終わったらゴミとなるだけなのか、違う使い道があるのかを児童と一緒に考えていく。

渡邊先生:「使い終わったペットボトル、みんなの家ではどうしているの?」
児童:「スーパーで集めているところに持っていく」
渡邊先生:「集めてどうするのだろうね」
児童:「リサイクル!4Rだよ」
渡邊先生:「リフューズ(Refuse)・リデュース(Reduce)・リユース(Reuse)・リサイクル(Recycle)の4つのことだね。すごい!よく知っているな」

渡邊先生に褒められ、照れた表情をする児童。先生たち大人が「できる」を認めることで、児童は自信を持てる。児童の気持ちが高まったところで、「リユース」を実践する段階に入っていく。

今の気持ちを色鮮やかに可視化

ペットボトルをどう活用できるのかを問う渡邊先生に対し、答える児童たち。この単元の目的を理解している児童は、ペットボトルを使った野菜の栽培方法を提案する。その流れを汲み、渡邊先生が問いかけた。

渡邊先生:「今日は何か食べられるものを、このペットボトルで作ろうよ。何がいい?」
児童:「すいかを作りたい!」
渡邊先生:「いいけど、大きさが大丈夫かな」
児童:「お米!」
渡邊先生:「おっと、きたね!そうだ、ペットボトルに今の気持ちや絵を書いてから米作りをしよう」

この活動の目的は、リユースを実践することだけではない。自分の思いや授業から得たイメージをアウトプットする目的も兼ね備えている。一人ひとりに配られたペットボトルに8色の水性顔料マーカーを使い、好きな言葉を書いたり、絵を描いたりと、児童たちは、夢中になって手を動かしている。

クジラやウミガメ、イルカにカニなど、海の生物のひらめきを渡邊先生と児童たちで共有する。ペットボトルに描く「自分へのメッセージ」をたやすく頭に浮かべられるための工夫の一つとなっている。ウミヘビを描いたり、イエロー一色に染めあげようとしたり、木や魚を細やかに描いたりする工程の中で、多くの児童に筆選びや描くモノへの迷いが感じられない。

渡邊先生の狙い通り、児童の色づかいは青や緑に黄色を基調にするなど、どこか自然を意識しているようにも感じた。

校庭へ移動して、ペットボトルに稲を植える

ペットボトルのペイント創作が終わった児童たちは校庭へと移動すると、いよいよ米作り体験の時間だ。さまざまな野菜作りを経験した高学年の児童たちはすでに慣れた様子で、こちらも作業に迷いが見られなかった。

土を入れて水を張り、稲を植えるといった工程は、大きな稲田を小さなペットボトルに見立てたやり方だ。

土の感触や稲を植える前の田に水を満たして土をならす「しろかき」、土と水分の最良なバランスを整え行う「田植え」と同じやり方を、リユースしたペットボトルで行えるという工程を、今でなくともいつかの児童に理解が届くようにと渡邊先生は願っている。

台車から土をスコップですくって、ペットボトルに詰め、水を入れ、発泡スチロールに入った稲を取りに行く。渡邊先生以外に5人の先生と地域スタッフ1人がサポートし、「ちょっと水が多いな」「いっぺんに稲を植えたらだめだよ」などと児童に声をかける。全員が滞りなく稲を植えることができた。

「次なる課題は、自分が植えた稲が育つ過程へ主体的に関わる気持ちの芽生えです」と渡邊先生。後編では、特別支援を必要とする児童たちと長年関わってきた渡邊先生へのインタビューを行う。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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