2023.03.20
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

SNSのよりよい利用の仕方を考えよう(後編) GIGA端末活用推進・育休を振り返って

GIGAスクール構想による11台端末の整備、スマホ利用の低年齢化など、子どもたちがインターネットを利用する機会は年々増えている。この動きはさらに加速すると予想され、ICTモラル教育の重要性は一層高まると言えるだろう。今後、学校や教員はどのように指導すべきなのだろうか。

今回はICT教育を積極的に行う、東京都東大和市立第八小学校での実践を取材した。  後編では授業者の宮澤大陸教諭、ICT研究主任の山﨑怜教諭へのインタビューを紹介する。

全員の考え方を共有するためにICTを活用

宮澤大陸教諭

―本時の授業で工夫した点を教えてください。子どもたちの反応はいかがでしたか。

宮澤大陸教諭(以下、宮澤) 

ロイロノートのシンキングツールを活用したことです。授業の内容的には紙での学びも可能ですが、ロイロノートならば全員の意見を知ることできるうえ、次の授業へつなげやすいのが魅力に感じています。

前の授業ではSNSについて「楽しい」「楽しくない」と分けましたが、本時では座標軸を「プラス」「マイナス」に変更しました。これは少し曖昧な基準を持たせることで、議論が深まると考えての手立てです。

また、子どもに大人気の「スプラトゥーン」を取り入れることで、自分が楽しい話題が「みんなにとって楽しいかどうかはわからない」という気づきを与えることも狙いでした。スプラトゥーンが好きな子はプラスに置きますが、スプラトゥーンを知らない子はマイナスに置きます。結果的に、子どもたちがじっくり話し合っていたので有効であったと言えるでしょう。

―GIGA スクール構想以前の宮澤先生の ICT 活用について、教えてください。

宮澤 10年ほど前、三宅島の小学校に勤務していた際に、iPadを持たせてもらったことが自分のICT教育の始まりと思っています。当時はiPadとテレビをつなげて表を見せたりと、実物投影機として使っていました。教員へのiPad配布により多くのメリットが生じたことで、子どもへの導入の検討が始まり、2014年に1人1台端末が実現しました。

ICT活用推進は学校全体で挑戦することが何より肝心

右:山﨑怜教諭

―東大和市立第八小学校では、1人1台端末の導入にあたり何から始めましたか。

山﨑怜教諭(以下、山﨑) 教員に情報活用能力を身につけてもらうことが第一歩でした。整備にあたって、本校では反対意見が多かったのが正直な話です。端末を使った授業への経験がないという理由から、従来のやり方を好むという教員も少なくありませんでした。そこでまず教員向けに研修を実施し、端末に触れてもらいながら、どのように授業を取り組むのかを考えていきました。ルールについてもここで意見を出し合いました。この“教員から変えた”ということには大きな意味があったと感じています。

宮澤 ICT 推進のカギは、教員全員がチャレンジする姿勢だと思います。子どもたちの成長にエネルギーを注げる同僚や、それを見守ってくれる管理職が本校に集まっていたことも推進に深く関係していますね。

―授業外ではどのように端末を活用していますか。

宮澤 委員会活動で意見をまとめる時に端末を活用しています。委員会ごとにTeamsやロイロノートに投稿しながら、相談しているようです。

山﨑 連絡係が何かを伝達する際に使用しています。帰りの会では「明日の図工の持ち物はロイロノートを見ておいてください」と伝えています。以前、持ち物を一つひとつ連絡帳に書いていたのと比べると、時間も手間もだいぶ省けるようになりました。

―端末の導入にあたり、最も苦労したことは何ですか。

山﨑 端末使用の許容範囲を学校としてどう定めるかで苦労しました。端末で「やってはいけないこと」は教員それぞれで見解が異なり、例えば「サッカーが上手くなりたいからサッカー動画を見る」を許容する教員がいれば、そうでない教員もいます。私たちはできるだけ許容したいのですが、やみくもに規制したがる教員もいるので、今なお悩んでいるところです。何でもかんでも規制してしまっては、子どもの可能性を潰しかねないと思うので。

―では、一番のメリットは何だと感じていますか。

山﨑 今の社会は端末なくしては成り立たないので、1人1台整備によって将来への準備が確実にできるということですね。端末の活用で得られる魅力をしっかり伝えながら、必要な知識と技術を教えるように心がけています。子どもが社会に出て困らないよう育成するのが私たちの使命ですから。

―一番の変化を教えてください。

山﨑 教員の意識が変わったことですね。端末の導入で、どれくらい効果が出たのかというのはまだわからないところ。だからこそ、失敗を恐れずにチャレンジしてみるという姿勢が目立ち始めたように感じます。

また、学校の役割が明確になったことも大きな変化です。極端な話、端末があれば自宅で学習することも可能ですが、面と向かってディスカッションするとなるとやはり学校という空間が必要。整備によって「学校=知識を結びつける場」という意義が深まったと感じます。子どもたち自身も同様に捉えていることでしょう。

―子どもに情報モラルを教えないと無法地帯になってしまいがちと聞きます。先生のクラスでの具体例を教えてください。

宮澤 私が受け持ったクラスでも初めはロイロノートやTeams上に、「死ね」「おつ」といったコメントがあふれ、明らかに炎上していました。一方で、頭ごなしに叱るということは敢えてしませんでした。というのも、「先生に叱られたからやめる」というのは思考停止となり、子どもの成長につながらないからです。

子どもの目線に立つべく、発信する場を作った

―オープンチャット「目からウロコのひらめき2分テスト」について、簡単にご紹介いただけますか。

宮澤 子どもに情報発信を教えるからには、自分も何か発信しなくてはいけないと考え、オープンチャットを作りました。もともと趣味で作成したWeb サイト「クイズ大陸」がベースとなっています。“誰にでも考えることを楽しんでほしい”という想いからスタートし、不定期出題ではありますが 100 問に達しそうなところです。

自分自身の世界を広げたいと考え、育休取得を決断

―12月まで 3 人目のお子さんの育児休業を取得されていたとのことですが、その背景や感想について教えてください。

宮澤 約8ヶ月、育休を取らせていただきました。正直なところ、育休に否定的な同僚もいましたが、「家族との時間を取れるのは今しかない」と思い決断しました。かねてより「自分から新しい環境に飛び込んでいく」をモットーとしており、周りの男性教員で育休を取る人がいなかったというのも理由の一つです。

1人で3人(5歳・3歳・1歳)の面倒を見るという大変さは、育休を取らなければ絶対にわからないことでした。それまで気づかなかった育児の苦労が身に染みてわかり、家内に心から感謝するようになったのも大きな変化です。

また、育休パパ仲間もでき、いかに自分が狭い世界で偉そうに過ごしていたかがわかったのも貴重な学びでした。ファイナンシャル・プランナーなどの資格も取ったので、いつかは子どもたちに還元できたらいいなと思います。取得すべきか迷っている男性教員の皆さんには、ぜひ一歩踏み出してほしいですね。

―4月から海外の日本人学校(ドイツ・フランクフルト)に赴任されるとお聞きしました。現地ではどんなことチャレンジしたいですか。

宮澤 積極的に地域に出ていきたいと考えています。ドイツならではの文化に触れたり、また現地の子どもたちと交流し、お互いの国について学び合いたいですね。また、教員としてこれまで学んだことを最大限活かしてみたいと思います。東京の下町、伊豆諸島、国立大学の附属小、そして本校と、さまざまな地域で素晴らしい経験をし、多くの方々に支えていただきました。海外でも変わらず子どもたちと一緒に成長できたらいいなと思っております。

記者の目

授業を取材して、想像以上に子どもたちがネットやSNSに触れていることに驚かされた。気軽に調べることができ、情報の交換という点でも便利なツールではあるものの、使い方を一つ間違えば、大きなトラブルにつながる可能性も高いだろう。小学生でもYouTubeやTikTokへ投稿することが珍しくない昨今だからこそ、教育現場でリテラシーを高めることが非常に重要であることを実感した。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop