2022.11.07
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「360°図鑑」みて、きいて、あるいて、世界に図鑑を届けよう(前編) 山口市立白石小学校~山口情報芸術センター[YCAM]×山口市教育委員会共同プロジェクト~

GIGAスクール構想にどう取り組むべきなのか。第19回(2022年度)日本e-Learning大賞 文部科学大臣賞を受賞した、山口情報芸術センター(以下、YCAM(ワイカム)とします)と山口市教育委員会が協働したスクールプログラム"「360°図鑑」みて、きいて、あるいて、世界に図鑑を届けよう"を取材した。

「360°図鑑」は、インターネット上に写真や動画などのメディアを盛り込んだ地域の図鑑を作成することで、他者との協働による調査方法やメディアの効果的な活用方法について学ぶスクールプログラム。2021年度にモデル校である山口市立生雲小学校においてスタートし、児童・教員らとともにYCAMと山口市教育委員会が共同で開発を進めてきた。

授業概要

学年:小学校6年生
教科・単元:総合的な学習の時間「360°図鑑」
授業者:YCAM連携担当 菅沼 聖氏
使用教材・教具:電子黒板、タブレット端末(1人1台)

導入:インターネットを開いてみよう

今回取材した出張授業は、6年1組の教壇にYCAM連携担当の菅沼聖氏が立ち、2~4組に配信するスタイルで、2時間の授業枠を使って行われた。

前年度に出張授業を行った、生雲小学校は、山間部の小規模校であり、1教室に全員を集めて話ができた。しかし白石小学校では、6年生4クラスの100人を超える児童に情報を伝えるため、オンライン授業へ変更し、各クラスのカメラで子どもたちの反応を菅沼氏が確認しながら、取りこぼしがないよう丁寧に進めていく。

初めて「360°図鑑」に触れる子どもたちのため、各教室で、教員やYCAMのスタッフ2~3名が指示やIT用語に戸惑う子どもをフォローしながら、まずはインターネットにアクセスするところからスタート。

菅沼氏より、「山口市から発信する、世界で使ってもらえるような図鑑づくりを、これから皆で始めます」と説明があり、全員に図鑑を開くためのURLとQRコードが配布された。

自分たちが住む地域をドローンで撮影した全天球画像が開き、指でぐるぐる回すと白石地域の景観が自由に動く。壮観な眺めと自由度の高い操作性に、「おおー」「普段見ている町の風景よりもカッコいい」と歓声が上がった。

1時間目:基本操作を覚えよう

1時間目は、図鑑作成の体験用デモを開き、動かしてみたり、地図にピンを打ち、そこにサンプルの蝶の画像をコピー&ペーストする練習を行った。

全員が一斉に地図にピンを打ったため、画面が固まり、自分のピンを見失う子どもも出た。なかなか画面が出てこなくて、ちょっと退屈そうになる子もいる。ネットワーク環境は全国の学校現場の課題だ。

「コントロールキーと一緒にコピーのキーを押してね」と言われて、サッと操作できる子と、「どれのこと?」と隣の席を振り向く子がいる。そこで分からないままにさせないために、繰り返し「できた人は手をあげて」「分からない人は手をあげて」「見つからない人は?」と細かに声かけが行われ、全員の足並みが揃うのを待ちながら進められていた。

2時間目:ドローン画像を開いて、自分の家を見つけよう

2時間目は、ドローン画像を開いて、自分の家を探すよう指示が出された。いつもより高い視点から撮影された町並みは「違う町みたいに見える」と、なかなかうまく見つけられない子どもが多く、菅沼氏や先生から「駅や小学校を最初に見つけると分かりやすいよ」とアドバイスが。

席を立って、分からないと手をあげた近くの子に自発的に教えにいく子が増えていき、授業は次第に積極的な空気を帯びていった。分からない子が取り残されることへの心配を、子どもたちが難なくクリアしたことに、大人たちが驚かされた格好だ。子ども同士によるハードスキルの獲得が、ソフトスキルの育成につながっていた。360°図鑑プロジェクトは、子どもたちの自律を促し、教育の新たな地図を描く役割も担えるようだ。

まとめ:共同編集のルールを学ぶ

次に、子どもたち一人ひとりが、事前に取材した内容を写真とともに図鑑に書き込んだ。全員が一つのノートの編集権限を持つため、他の人のコメントも編集しようと思えばできること、それはしてはいけないということを学ぶ。

「自分の名前をきちんと書き込んで、誰が、誰のピンにコメントを書き込んだかをはっきりさせなければいけません。編集して良いのは自分のコメントだけです」と、授業者を交代した山口市教育委員会の三時指導主事から情報リテラシーの第一歩を教わる。

家に帰ってからも図鑑作りの作業ができる本番用のURLを受け取る。このURLを知っている人は書き込みができるので、「家族にも完成してから見てもらってね」「SNSにこんなことしているよと勝手にアップすることもダメです」と三時氏より注意が入った。

「この360°図鑑は、山口市の誇りです。くれぐれも、情報の管理、情報モラルは守るようによろしくお願いします。360°図鑑を作ることで、こういった勉強をすることも一つの目標となっています。さて、これが図鑑作りのスタートです。皆さんよろしくお願いします」と締めくくられた。

これから子どもたちは卒業する3月までの間に、地域を調査し、撮影し、世界に発表できる360°図鑑を作り上げて行く。

授業終了後に子どもたちに感想を聞いてみると、「タブレットの操作で難しいところもあったけれど、皆と協力してやれることが楽しい。1人でやっていたら悩んでいたと思う」「皆と地域のことを調べるのが楽しみ」と、取組への期待を語ってくれた。

後編では、関係者インタビューをお届けする。

取材・文:学びの場.com編集部
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM](撮影:塩見浩介)

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop