2019.12.18
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相手を意識したコミュニケーション力を身に付けるには(後編) 教室を「子どもが生きる」場所に

2010年に文部科学省の研究開発校に指定され、21世紀に求められる情報活用能力を育成するための「メディア・コミュニケーション科」という新教科を開設した京都教育大学附属桃山小学校。これにより、ICT(情報通信技術)環境の構築がスタートし、授業にICTが浸透してきました。前編では、同校で「子どもが生きる」授業を目指す若松俊介先生による、4年2組のメディア・コミュニケーション科の授業「プレゼンテーションで考えを伝えよう」を紹介させていただきました。後編ではこの教科の取り組みや授業のねらいについて若松先生にインタビューしました。

授業者に聞く

メディアを使ったコミュニケーションを考える

若松 俊介教諭

ーメディア・コミュニケーション科とはどのような教科なのでしょうか。

若松 俊介(敬称略 以下、若松) 知識基盤社会(変化が激しく、常に新しい未知の課題に試行錯誤しながらも対応することが求められる社会)を生き抜くために必要な資質や能力を育成する教科です。ICT機器やさまざまなメディアを活用して、効果的なコミュニケーションを図り、主体的、対話的で深い学びを実現することを目指しています。私が当校に着任した2013年には既にこの教科が存在していたのですが、立ち上げの際はゼロからカリキュラムを作っていったと聞いています。現在もより良い授業となるよう常に研究開発しています。

ー具体的にはどのようなカリキュラムが組まれていますか?

若松 例えばプレゼンテーションにしても、いきなり4年生でプレゼンテーションを学ぶというわけではありません。1年生はスピーチ、2年生は紙芝居、3年生はフリップボードを使って対面式で「伝える」ことを学びます。そういったことを積み上げながら、4年生はプレゼンテーション、5年生は動画を編集してCMを作ります。コミュニケーションのあり方は今後もどんどん変わっていくでしょう。6年生ではSNSを学ぶなど、学習内容も時代に合わせて少しずつ変わってきています。

相手を意識することの重要性

ーこの教科の授業における、一番のねらいはどのようなところにあるのでしょうか?

若松 相手を意識する力を養うことだと思います。5~6年生になると、自分の伝えたいことのために、ポスターやチラシ、スピーチなどから、どのメディアを使うか自分で選択します。そういった選択は大人でも必要になってくるものです。授業では、ただ単に機器操作などを学ぶのではなく、そこに相手がちゃんといるコミュニケーションについて学びますので、これから10年先に新しいメディアが開発されたとしても、学んだことを生かせると思います。それにこの教科では、“何か学んだ気になった”では終わらせません。今回は4年生のプレゼンテーションの授業を見学いただきましたが、4年生のプレゼンテーションも3年生に伝えるというところまでやります。伝えるものを作っただけではあまり意味がなく、伝えないと反応もありません。しかし、この教科ではひたすら伝えます。

ープレゼンテーション作成にあたり、事前にすごく準備していますよね。

若松 はい。京都・美山での農家宿泊体験学習のことは、国語の授業でリーフレットを作って3年生に渡していて、4年生は、リーフレットを読んだ3年生から手紙をもらっています。その手紙を読み、3年生がもっと知りたいことは何かと分析しました。リーフレットとプレゼンテーションの違いを踏まえながら、プレゼンテーションのよさを意識して作っているんですね。リーフレットとプレゼンテーションの違いについてベン図で比較したり、ウェビング(イメージマップ)を使って伝えたいことのイメージをふくらませてから、伝えたいことをピラミッドチャートにまとめたりすることを通して、たくさんの情報を自分たちで整理しながら考えていきます。こういったことが、情報活用能力の育成につながっています。

ー今日の授業のねらいを教えてください。

若松 相手が知りたいことを伝えられるかどうかが大事なので、相手意識を持ち、授業の冒頭で「伝える」が「伝わる」になるにはどうしたらいいかをまず考えてもらいました。また、プレゼンテーションの修正点を見つけたり、いいものを自分たちのものに取り入れたりという視点を最初に押さえながらグループワークに入っていけるよう意識しましたね。子どもらの中では最適解だと思ってできあがったプレゼンテーションですが、お互いに発表し合い、意見を聴き合って議論しながら、まだうまく伝わらず、伝えたつもりになっていることに気づくのが、今日の授業の学びです。

また、今日の授業のような活発な議論ができるように、事前にプレゼンテーションの内容がちゃんと自分事になるように配慮しています。もしグループメンバー4人で作って4人で前に出て発表するとなると、1人くらいさぼっていてもわからないですよね。人任せにならないように、グループをシャッフルして一人ひとり発表する機会を作っていますが、これだけでは活発な議論は起こりません。自分事にするために、1人ひとりの「伝えたい」が表れる場づくりを意識しています。だからこそ、他のグループの内容も気になって、自然と学び合っていくことができます。

大事なのは、教師のファシリテーションスキル

ー授業ではどのようなことを工夫されていますか?

若松 子どもたちの考えていることを受けとめ、誰と誰を組み合わせたら足りない視点に気づくかなど、意味のある話し合いが自然に始まるようなグループ分けを心がけています。例えば、伝えたい内容が異なるグループの子どもたちを一緒にするなど内容面も考えますし、子どもたちの個性や人間関係も見ています。これからの時代、授業を建設的に進行していくファシリテーションスキルを教師がしっかり持っていることが大事だと思っています。もちろん、全体で一斉にやらないといけないこともありますが、グループの場の作り方を工夫しサポートすることで、子どもたちだけでできることはたくさんあると思います。また、授業の最後には、振り返りの時間を取っています。グループワークもしますが、自分で考えることも、とても大切です。私の授業では“「個」→「グループ」→「個」”のサイクルを常に取り入れていて、最後は「個」に戻して振り返りをしながら、自分の考えや学んだことを「メタ認知」していくことにつなげていければと思っています。

注目してほしいことを子どもの言葉で小出しにする

ーホワイトボードに、議論を通して出てきたキーワードを書き出されていましたね。また、プレゼンテーションが終わるごとに問題提起をされていました。

若松 そうですね。毎回、子どもたちの反応を見ながら、出てきた言葉を板書していました。1回目、2回目、3回目と少しずつ分けて書き、その時々で話題にしたのも、一つひとつ考えてもらうためという意図がありました。3回あったグループでの発表を一気に単調に進めるだけでは、わけがわからないまま終わってしまいます。振り返る視点、見直す視点について、子どもが飲み込みやすいように子どもの言葉を使いながら小出しに挙げていくと、それをもとにして議論しやすくなります。また、修正したいことが出てきた子どもの意見をその都度ちゃんと言わせてあげたり、まねしたいことを確認してあげたりすると、プレゼンを発表した子どもも発表して良かったと思えるでしょう。また、相手のプレゼンをあまり何も考えずに聴いていた子どもが次を聴くのにちょっと意識するものです。しっかり聴こうと態度が変わりますよ。

ーグループでの話し合いの時間をたくさん取られているのが印象的でした。

若松 メディア・コミュニケーション科だけでなく他の教科でも、子ども同士が一緒に考え意見を出し合うスタイルを取り入れています。進級したばかりの頃は隣の子と1分間話すことすら難しかったのが、だんだん言えるようになり、話し合いになり、聴き合いになります。子ども同士がいっぱいしゃべってアウトプットが多いほど学ぶことが増えてくるでしょう。だからと言って教師が何もしないのではなく、何を言うのか、何を言わないのかが大事です。プレゼンテーションができた時点で私が言いたいことはいっぱいありましたが、きっと子どもたち同士で議論しながら解決、修正していけるだろうと思っていました。むしろその自分で考える力が、育っていく力になる。じわじわと育っていってくれたらと思います。

ー子どもたちが活発に議論や発言をするようになった、効果的に学べていると実感することはありますか?

若松 そうですね。相手の意見を聴けるようになることで、さらに学べるようになったかなと思います。大勢の前で発言するのは大人でもしんどくて、挙手をためらいますよね。私は、挙手していなくても子どもを当てるんですよ。どう思っているのか知りたいですし、そうしたらみんな、人前で発言することをあまり気にしなくなってきて。また、子どもの意見を尊重するようにしていて、1グループのプレゼンテーションと意見交換の時間を6分にしようというのも、子どもと相談しながら一緒に決めました。わりと選択権を子どもたちにゆだねています。子どもでも大人でも、自分で選択したことはがんばろうと思いますよね。

自分事にすることが学びの原動力に

ー今後の抱負を教えてください。

若松 子どもたちが、学びながら考えを深め理解していく場を作りたいのですが、あくまで自然な形でそういった場を提供したいと考えています。どんな場を作っていくか、どう活性化させるか、教材研究をしながら見極めて、教室を「子どもが生きる」場所にしていきたい。今回、見学していただいた授業でも、子どもたちはかなり自然体でいきいきしていたと思います。そういう場をもっと作っていくことで、学習がどんどん自分事になっていき、中学や高校、そして大人になっても学び続けることにつながるのではないかと考えています。自分自身も楽しみながらやっていきたいです。

若松俊介(わかまつ しゅんすけ)

1985年京都府生まれ。2008年、大阪教育大学小学校教員養成課程教育学コース卒業。大阪府の公立小学校で5年間の勤務を経て、現在、母校である京都教育大学附属桃山小学校教諭・児童指導部主任・三校園連携教育研究主任。「国語教師竹の会」の事務局を務める。「授業力&学級づくり研究会」会員。「子どもが生きる」をテーマに研究・実践を積み重ねている。主な著書に「『深い学び』を支える学級はコーチングでつくる」(共著、ミネルヴァ書房、2017年)、「対話を生み出す 授業ファシリテート入門」(共著、ジダイ社、2019年)がある。

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