2019.12.04
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練馬区をより安全で住みやすい街へ! 公民的資質を育む「模擬請願」授業(後編) 練馬区立豊玉中学校・谷信彦 教諭

練馬区立豊玉中学校では、東京青年会議所や練馬区青年会議所などの地域団体と連携し、「模擬請願」をテーマとして、社会科の単元・地方自治を体験的に学ぶ授業(全7時間)を実施。授業を担当した谷信彦教諭に取り組みの背景や授業の工夫などについて、またチーム学習による「学力向上プロジェクト」についてお話を伺った。

授業者に聞く

民主主義をより身近に学ぶため「模擬請願」を導入

谷信彦教諭

ー今回の授業の狙いを教えてください。

谷信彦(敬称略 以下、谷) 一番の狙いは「主権者意識」の芽生えです。教科書の本来の順番では国政が地方自治よりも先なのですが、国の政治は生徒たちの生活とあまりにもかけ離れているので、学んでも言葉だけの認識になると考えました。そこで順番を変えて、民主主義をより身近に学びやすい場として練馬区を題材にしたのです。しかし教科書を使って言葉を伝えるだけでは民主主義への理解が浸透しにくいため、模擬請願という体験的な学びを実施しました。

ー授業で工夫したポイントを教えてください。

 「学校/教科書」と「リアルな世の中」を結びつけたことが大きなポイントです。学校の教室の中をリアルな世の中と結びつけるのは本来難しいものですが、身近な生活をテーマとしたことで実現できたと思います。生徒たちにとって、自分の意見が世の中に反映できるということを実感するのは大きな意味を持つのではと考えます。

ー授業ではインターネットを活用するケースも多いのですか。

 今年の夏から普通教室でインターネットと電子黒板が使えるようになったので効率も格段にアップしました。今回の授業のようにちょっと調べたいときにコンピュータ教室まで行く必要が無くなり、本当に便利になりましたね。

生徒だけでなく教員にとっても良い機会に

ーどのようなきっかけで青年会議所と連携したのですか。

 今年の夏ごろに、青年会議所からの模擬請願の出前授業に関する案内チラシが本校に届いたのがきっかけです。その内容にとにかく惹かれて、すぐ連絡しました。自分でもすごい飛びつきだったと思います。

本校では数年前から、外部の資源をどんどん使っていこうと地域連携を推進しています。外部の人を招くことは子供たちにとってもいい刺激になるだけでなく、われわれ教員にとっても新しい視点をもらえるという良い機会でもあります。

ー模擬請願のテーマを練馬駅にした理由を教えてください。

 青年会議所の方からは「通学路」という提案を当初いただきました。しかし本校の通学路は整備されていて危険な場所も特になかったので、最寄り駅の練馬駅をテーマにすることになりました。

前々時(「地方自治」の単元3時間目)に青年会議所の方にお越しいただき、「請願とは何か」オリエンテーション的な雰囲気で学年合同の出前授業をしていただきました。それを受けて4時間目でチームごとにテーマを選び、理解を深めていきました。

ー他にどのような地域と連携した授業を行っていますか。

 社会科では模擬選挙を実施しています。また弁護士や芸術家などの専門職の方に来校いただき、生徒にお話やアドバイスをしていただくという機会も設けています。

ー今後も青年会議所と一緒に活動する予定ですか。

 何かしら連携して継続的に行っていきたいですね。青年会議所の方々は皆さん本業をお持ちで、その忙しい中で練馬区をより良くしようという目的で活動する、いわばボランティア的な組織なんです。そんな高い志を持った大人たちと触れ合うことで生徒も刺激されるのではと期待しています。主体的に社会を変えようとする市民を育てることが最終目標です。

モチベーションを高める「パフォーマンス課題」

ー「パフォーマンス課題」を設定すると、どのようなメリットがあるのですか。

 各単元のはじめに「単元見通シート」というワークシートを生徒に配り、単元の目標とパフォーマンス課題・評価基準を最初に確認してもらっています。これによって単元で学ぶポイントや最終的なゴールが見えやすくなり、さらにモチベーションを高めることもできます。

毎時間の授業で学んだキーワードについて右欄に自分の言葉でまとめ、単元の最後にパフォーマンス課題を書き上げます。これを導入したことによって私が黒板に書いた内容をノートに写すよりも、明らかに生徒の思考力が高まり、知識の定着率も上がっています。

ー「パフォーマンス課題」を設定した授業をやってみようという先生方に向けて、アドバイスをお願いします。

パフォーマンス課題作りのポイントは、①身に付けさせたい力が含まれていること、②単元全体を貫く問いであること、③取り組んでみたくなるような面白いものであることです。できれば④何かに活かされる場面があると、さらにいいですね。なるべく今回の授業のように学校外の人や後輩に発表する場というアウトプットする機会を設けるようにしています。

ー地理や歴史分野ではどのようなパフォーマンス課題を設定しているのですか。

 地理で中部地方を学んだときに、“2泊3日の旅行プランを提案する”というパフォーマンス課題を設けたことがありました。ちょうど旅行会社に勤める知り合いがいたので、その方にプレゼンしてフィードバックしてもらうという内容でした。旅行を取り上げたことで生徒たちはいつもより楽しそうに取り組んでいる様子でしたね。関東地方を学んだときは「オリンピック・パラリンピックで来日する外国人に東京の良さを伝え、不安を解消してもらおう」、ヨーロッパを取り上げたときは「ジョンソン首相がイギリスのEUからの離脱をあきらめるように説得する文章を作ろう」というパフォーマンス課題を設けました。

びっしり書き込まれた単元見通シート
  • 1年生「ヨーロッパ州」

  • 1年生「ヨーロッパ州」

  • 3年生「日本国憲法と人権」

  • 3年生「地方自治」

チーム学習による「学びの主体者」の育成

思考力の深化に最も重要なのは「対話」

ーチーム学習の狙いは何ですか。

 生徒の思考力を育てるために、これまでいろいろな手段を試みてきましたが、その中でも「対話」が一番であると感じました。現在本校では「学力向上プロジェクト」という取り組みを行っており、研究主任として学校全体で“議論して考える”ことを目的としたチーム学習を推進しています。

グループ学習は授業の一部分で話し合ったりするだけという単発的なものですが、チーム学習は単元のゴールまでチーム全体で責任を持って成し遂げられるのが特徴です。

実験的に3年生の社会科でチーム学習をスタートしましたが、必然的に対話をする場面も多くなるので、以前よりも生徒の思考力が深まっているように感じています。学力下位層の生徒も積極的に考えて発言する姿が見られるようになりました。

ー「会話」ではなく「対話」になるように、チーム編成で工夫していることはありますか。

 チームの編成は生徒たちに任せていますが、「司会ができる子」を1人、「ツッコミができる子」を1人必ず入れるように指示しています。ツッコミ役とは批判的に何かを言うということではなく、「わからないことをわからないと正直に言える子」を意味します。ツッコミによって話題が広がるので、ツッコミ役は班編成において重要なポイントですね。ツッコミが得意なのは誰か、司会が得意なのは誰か、そういうことは生徒同士がよくわかっているので、今のところバランスよく編成できている状況です。他の生徒はホワイトボーダー(書記)や発表を担当します。

グループ学習は以前から実施していましたが、どうも学びが深まらないと感じることが多々ありました。その理由を改めて考えたところ「ファシリテーターがいない」ことがわかりました。きちんとファシリテーションできる子が育っていないと、生徒それぞれが意見を言うだけで授業が終わってしまう。今後も生徒それぞれの“役割”を重要なポイントとして展開し、“議論して考える”機会の充実を目指したいと考えています。教師にも、ファシリテーターとしての役割がより求められるようになりますね。

記者の目

教科書で、ただ文字を読むだけではなかなか頭に入りにくい「民主主義」。大人でも改めて聞かれると正確に説明することは難しいのだから、生徒たちにとってはなおさら理解の浸透が容易ではないだろう。自分たちが日頃利用する“駅”という身近な存在を題材にした「模擬請願」授業は、民主主義や地方自治を学ぶにあたって理想的な手段であったに違いない。
練馬区立豊玉中学校では今後も、青年会議所をはじめ外部の資源を積極的に取り入れるという。生徒にとってますますより広い世界や多様な視点、さらに新しい価値観に出会える重要な機会になるだろう。

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