2018.09.26
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新学習指導要領で求められる算数の授業(後編) 講義型授業から「主体的・対話的で深い学び」へ ―第14回関西算数授業研究会―

国立大阪教育大学附属池田小学校にて行われた「関西算数授業研究会」(第14回)。
新学習指導要領に示される「主体的・対話的な深い学び」を展開するにはどうすれば良いのか。後半では引き続き、授業後の協議会の様子と、授業者インタビューをお届けする。

授業内容を踏まえ、研究協議会へ

廊下、別室をも満たした熱意ある教員たち

授業が終わり、児童たちは教室から退出した。休憩を挟み、授業内容に対する協議会が始まった。司会は、四條畷市立岡部小学校の福井輝明教諭だ。

「どうすれば授業力が上がるのか? どうすれば指導力が上がるのか? もっといろいろな先生と学びたい! そんな思いから、この研究会は立ち上がりました。みなさんと本音で語り合う会です。様々な視点から授業を見ていただき、それぞれが何かを見つけ、熱く語り合い、明日の子どもたちのためになればと考えております。」

この頃になると、教室内は参加者でいっぱいに。廊下に設けられた席にも座りきれず、二つの別室にも参加者が集っていた。「明日の子どもたち」への熱意で会場が満たされる。

  • 協議会の司会を務めた福井教諭。

  • 廊下まであふれる参加者。

  • 別室で中継を見る参加者。

塾通いが当然の児童を、どう乗せていくか

授業者である樋口教諭から、本日の感想と授業意図が発表された。

「本日はですね、やっぱり授業って面白いなと思う反面、うまくいかないな、どうすればいいのかなとも思いながら、子どもたちと接していました。」

「本日のポイントは二つでした。一つ目は『子どもがアクティブになれる教材であったか』。二つ目は『振り返りのプロセスは有効だったのかどうか』。たとえば今日は、三つの数を組み合わせて数字を作る活動をしましたけれども、何通りありますか? と聞くだけだと、それで終わりになってしまいます。塾に通っている児童がほとんどですから、すぐに答えを出してしまうんですね。」

塾での先取りという問題については、多くの先生が悩まれていることである。今回の単元で言えば、3通り×3通り×3通り=27通り、と計算で答えを出してしまう。すべてを書き出して「重なりや落ちのない数え方」を考えさせ、「樹形図」へ誘導するのがかえって困難なのだ。本時はそれを「ラッキーナンバー占い」という題材にすることで、子どもたちがアクティブに考えられる仕組みになっていた。

二つ目の問題、振り返りについては、樋口教諭が独自に行ったアンケート結果を踏まえた発表がなされた。学生からベテランまで150名を対象に、「算数における振り返りをしているか」を調査したところ、6割近い教員が「毎時、振り返りをしている」と回答。一方でその内容については、これも6割近い教員が「納得していない(もっと深い振り返りにできるのでは)」と感じている。

よりハイレベルな振り返りを書かせるために

樋口教諭は振り返りを、5段階のグレードで整理する。

①振り返りが書けない。ペンが動かない。
②情意的な感想。(楽しかった、つまらなかった等)
③本時の学習課題に沿った振り返り(授業内容のメモ)
④学習課題や、他者・自己への気付き。
⑤本時の学習だけでなく、新しい課題を発見する。(習ったことを抽象化)

※参考:太田誠・岡崎正和(2015). めあてと振り返りの連動による自律性の育成に関する研究

樋口教諭が4年生のクラスを対象に授業を行った際、①に留まったのは1名。もっとも多かったのは②で、20名程度。③が13名、④になると、よくできる児童が2名ほど書けた程度。⑤の段階へ到達できたのは0名。教師人生を通しても、1名しか見たことがないとのことだ。

「どうして振り返りを書けないのか。それは授業展開が、振り返りを生かせるものになっていないんじゃないか。子どもたちは本来、振り返りながら学習をしているはずなんです。それをどう書けばいいいのかわからない。」

「この時間で何を学んだの? 今日の中で、共通している考え方はなんだったのかなあ。吹き出しを参考に書いてもいいよ。友達と話しながら書いてもいいよ。そう促すことで、少なくとも、②の(情意的な)感想を書く子はいなくなるはず。『四捨五入、楽しかった』と書く子はいなくなるんじゃないかと。」

忌憚なき意見を交換し、それぞれの学級へ

発表が終わると、各参加者でのグループディスカッション、および質疑応答の時間が取られた。「解き方を一般化・抽象化させるという目的からすると、後半の『アレンジ問題』では、条件を変えずに、同じ数を複数回使って良い、『1、3、5』と同じルールの方がよかったのではないか?」など鋭い質問や、「発言できる子を中心に進んでしまっていた気がする」「途中で、児童を立たせて意見を言わせていたけれども、あの内容にもっと授業のどこかで触れたほうが良かったのではないか」など、もっとこうすれば良かったのではないか、という意見が飛び交う。

「自分も授業に取り入れたいなと思います。」
広島県からの参加者はそう語る。忌憚なき意見を交わし、それぞれが各学級にアイデアを持ち帰るのだ。

  • グループディスカッションをする参加者。

  • 質問に応じる樋口教諭。

  • 質問に応じ、板書のポイントを説明する樋口教諭。

実践者に聞く

京都教育大学附属桃山小学校教諭 樋口万太郎氏

児童のノートをチェックする樋口教諭。

教師と子どもが「上下関係」になってはいけない

—まずは、率直な感想を伺えますか。

純粋に楽しかったですね。僕は常々、子どもたちの笑顔を引き出したいと思って算数の授業をしています。この思いは、教師になった原点でもあるんです。そのためには、教える自分自身がまず楽しまなければと感じています。

—「楽しみながら学ぶ」という観点は、新たな時代の学びにとって大切なことですよね。

従来の教育では、教師と子どもの関わり方は「上下関係」でした。でも、これからの教育では、子どもたち同士がコミュニケーションを取り合って、気付いたことが繋がって、学びになるのが理想かなと思います。

今日は初めての児童を相手に授業をしたので、僕からの声かけも多くなりました。でも、自分が担任している学級であれば、もっと黙っていたかもしれないですね。とぼけたり、発言を促したりする回数はもっと減っていたでしょう。

僕は、わからないことを恥ずかしがらず「わからない!」と言える学級って素敵だなと思っているんです。だから授業中も、もっと子どもたちが自由に喋ってもいいと思っていて。今日も途中、子どもたちが自発的に英語で数字を言い始めた場面がありましたが、ああいった空気も個人的にはOKなんです。

漫画・アニメにもアンテナを張って題材を探す

—「ラッキーナンバー占い」という題材も良かったですね。小学生の興味・関心に近い題材だと感じました。

それに関しては、常日頃からアンテナを張るようにしています。子どもたちの見るものは、なるべく見る。漫画やアニメなどもです。そこから、授業に使えそうなアイデアを思いつくこともあります。

—子どもの声を拾うことに関して言えば、板書もかなり工夫されていますよね。たくさんの先生が写真を撮っておられました。

板書はかなり緻密に計画を立てています。授業中は消さずに、1面で見せるように。吹き出しに関しては、先輩で利用されている方がいて、見よう見まねで取り入れました。

正直なところ、最初の頃は単なる真似に留まっていたと思います。最近ではしっかりと用途・目的を意識しながら書いています。

毎日触れる教科だからこそ、楽しんで授業をしてほしい

—協議会の雰囲気が、かなり活発で驚きました。

算数という教科は、担任を持っていれば必ず毎日教える教科なんです。だから、それぞれの先生方が苦しんでいること、うまくいったことの蓄積が多い。議論が深まりやすいし、新たな視点からの気付きも与えていただきやすい教科だと思います。

—授業において大切にされていることはなんですか。

僕は昔、先輩から「なんで、そんなに偉そうに授業してるんや?」と叱られたことがあります。僕自身は、偉そうにしているという自覚はまったくありませんでした。でも確かに、授業や子どもとの接し方がしっくり来ていない時期があって。

「こんなに一生懸命教えているのに、なんでわかってくれないんだろう」と考えてしまっていたんだと思います。でもそれは、自分の教え方が良くなかっただけですよね。今から思えば、とても傲慢な考え方でした。

ですから今は、子どもたちの顔をしっかり見るようにしています。子どもの理解度は、表情にはっきり出るんです。一生懸命考えているときは、眉間にシワが寄っている。「わかった!」というときは、ぱっと笑顔になる。

発言にしても、本当に「わかった!」というときは、自然と口から出てしまうものなんです。手を挙げて発表をすることはできないけれど、ポロリと「わかった!」が出る。それを大切にしたい。突き詰めると「子どもたちと日々笑いながら、楽しんで授業をする」のが一番大事だと考えています。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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