2018.09.26
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新学習指導要領で求められる算数の授業(前編) 講義型授業から「主体的・対話的で深い学び」へ ―第14回関西算数授業研究会―

夏休みも終盤の8月25日、関西の地に根ざした研究会として立ち上げられた「関西算数授業研究会」(第14回)が国立大阪教育大学附属池田小学校にて行われた。これまでにのべ7000名を超える参観者が集まっており、広島や香川といった遠方からの参加者も増えている活発な会だ。
新学習指導要領に示される「主体的・対話的な深い学び」を展開するにはどうすれば良いのか。今回は小学校6年生「場合の数」の公開授業と協議会、および授業者インタビューを前編、後編に分けてお送りする。

授業を拝見!

公開授業レポート

学年・教科:小学校6年 算数
単元:場合の数(1時間目)
ねらい:すべての組み合わせを落ちや重なりがないように調べることができ、その調べ方についての理解を深める。
授業者:樋口万太郎 教諭
使用教材・教具:ワークシート、モニター

勝負は導入5分。調和的な雰囲気を作る

「元気ですか?」
「元気じゃなーい」
「元気じゃないの? 夜更かししたの?」

授業開始直後、樋口万太郎教諭は活発に声をかける。時折ジョークも交えながら児童の笑いを引き出し、緊張をほぐしていく。今回は研究会ということで、ほぼ初対面の児童たちに授業をする形。普段、担任しているクラスではないだけに、導入部分から「主体的・対話的」な雰囲気作りに力を入れる。

児童たちと挨拶を交わしたあとは本題に入る。黒板に「ラッキーナンバー占い」と書くが、緊張されたのか「ラッキー」が「ラッキ」となっていたことで児童たちから笑いが起こった。「あなたたちは、先生の間違いが大好きですねえ!」と冗談めかして反応する樋口教諭。

しかし、「児童は先生の間違いが大好き」はまさに真理。実際に、このあとの授業展開では「先生が間違い、子どもたちに訂正させる」テクニックを各所で生かし、ぐいぐい児童の関心を引きつけていくのだった。

  • 「本時のめあて」を指し示す樋口教諭。

  • 「ラッキー」を「ラッキ」と書き間違えてしまう。

子どもらしい反応も飛び出す『ラッキーナンバー占い』

「今日はみなさんに、1、3、5という3つの数を組み合わせて、三桁の数を作ってもらいます。同じ数字を何回使ってもOK。『これだ!』と思った数をネームペンで大きく書いて、黒板に貼りに来てください。」

「そのあと先生が『これがラッキーナンバーだ!』と発表します。ピッタリ当たった人はこれから2週間ラッキー!」

「占い」というキャッチーなテーマに目を輝かせる児童たち。さっそく、ワークシートに数字を記入し、黒板に貼りにいく。「ラッキーナンバーは何だと思う?」と樋口教諭が問いかけると、大阪らしく「551!(関西で有名な肉まん店、551蓬莱)」と答える児童もいた。

  • 児童が立ち上がり、カードを貼りに来る。

アイデアは吹き出しの形で板書

児童たちの書いたワークシートがすべて黒板に貼られた。「みんなは、これを見てどう思う? 感想を教えてください」との問いかけに、「111が多い」「315も多い」と素朴な感想が飛び出す。「111が多いんだね?」。樋口教諭は発言を拾い上げ、吹き出しの形で板書していく。

「じゃあ、ラッキーナンバーを発表します。」とモニターに注目させると、そこには「1」の表示。まるで宝くじの発表のように、児童たちの気分も盛り上がってくる。

児童A「終わったー!」
樋口教諭「終わった? 終わったってどういうこと?」
児童A「(自分の書いた数字は)1から始まってないから。」
児童B「いや、でもまだ分からへん! まだ(モニターには)スペースがいっぱいあるから、可能性はある!」
樋口教諭「いろいろ考えてるね。すばらしい!」

児童の予想通り、モニターに残りの文章が表示された。

「1、3、5を組み合わせてできる数のうち、真ん中の数」

つまり、1、3、5を使ってできる三桁の数(27通り)のうち、中央の数が本日のラッキーナンバーというわけだ。しかし、まだしっくりきていない児童もいる。

  • 黒板に貼られたワークシート。

  • 黒板に「1」のみが出された時点。このあと、 「1、3、5の三つの数で……」と全文が表示さ れる。

あえて間違え、児童に訂正させる

樋口教諭はここでも、「あえて間違える」手法を生かして児童たちの発言を促す。

樋口教諭「今日のラッキーナンバーはこれです。『1、3、5を組み合わせてできる数のうち、真ん中の数』。でも、真ん中ってどういうことなのかな。このへん?(黒板の中央あたりを指差す)」
児童「ちがう。」
樋口教諭「えっ? ちがうの?」
児童「全然ちがう!」
樋口教諭「そっか、先生は間違ってるんだね。」
樋口教諭「じゃあ、全員立ってください。今、先生は黒板の真ん中あたりを『ラッキーナンバー』って言ったけど、それはおかしいんだよね。その理由を、隣同士で話し合ってください。話し合いが終わった人から座っていってください。」

指示とともに、教室内は子どもたちの活発な声で満たされる。座学中心の授業、特に算数となるとなかなか見られない光景だ。熱量のある授業に、参観者も驚きを隠せない様子だった。

  • 人形を使い、あえて間違えた発言をする樋口教諭。

  • 吹き出しを使って児童の発言を拾い上げる。

机間巡視で、小さな工夫を拾い上げる

話し合いの時間が終わり、いよいよ本題へ。「落ちや重なりがないように、すべての数を調べる」にはどうすれば良いのか。

樋口教諭「111から数えればいいんだね。っていうことは、(「111」と書かれたカードを横に並べ)これで、1つ目、2つ目……」
児童A「ちがう!」
樋口教諭「ちがう? ちがうの?」
児童B「同じ数は1回しか数えちゃだめです。」
樋口教諭「なるほど! 『111』のカードはいっぱいあるけど、1回しか数えちゃだめなんだね。」

「じゃあ、ノートに書いて数えてごらん。真ん中の数は何になるかな?」と促され、鉛筆を走らせる児童たち。中にはうまく整理・表現できない児童もいる。樋口教諭は、机間巡視をしながらヒントを与えていく。

「なるほど。上から順番に書いている子もいれば、真ん中の数を見つけるために、番号をつけながら書いている子もいるね。」

「ちょっとわかりづらいなあとか、何か参考にしたいなあと思う子は教科書を開いてもいいよ。」

手の止まっていた児童たちも、ヒントを参考に書き始める。発見やまとめを書かせてみると、書ける児童はスラスラ書ける一方で、まったく手の動かない児童もいる。クラス内でアイデアを共有すると、書ける子は自信がつき、苦手な子も置いていかれずに済む。

  • 先にわかった児童から、耳打ちで答えを聞いてみる。

  • 机間巡視をし、すぐれたアイデアを拾い上げる。

高度な内容も「楽しみながら」扱う

黒板いっぱいに書かれた吹き出し。

樋口教諭「じゃあちょっと、黒板のカードを並べていこうか。(111、113の下を指して)次はどんな数字になるかな?」
児童たち「ワンワンファイブ!」
樋口教諭「どうしていきなり英語になるの?(笑)」

普通、6年生にもなると、低学年とはちがい、教師への反応は落ち着いてくる。気恥ずかしさや反抗心が芽生えてくる学年だからだ。ところが樋口教諭の授業では、教諭自身が積極的にふざけたり、間違ったりすることで、児童たちを巻き込んでいく。「楽しみながら、実は高度なことを学んでいる」という、新しい学びの空気だ。

児童たちの発言を拾い上げた吹き出しで、黒板はいっぱいになった。「1の位から数字を変えて(数えて)いく」「(1、3、5を)全体で同じ回数ずつ使う」。中央の数(=ラッキーナンバー)は「333」と発表され、「ラッキーナンバー占い」のアクティビティは終了した。

アイデアを共有することで、より深い学びに

五桁のパターンをノートに書き出してみる。

授業後半は、アクティビティを通して気付いた重要なことをノートに書く時間だ。ここで、これまでの板書が生きてくる。「わかりづらいなって人は、吹き出しを参考に書いてくれても構いません。」クラスメイトの気付き・アイデア(吹き出し)を使うことで、振り返りの内容が重層的になる。「百の位を1、3、5ごとに分けてきれいに書くのが大切。」という意見も出た。

いったん振り返りをまとめたら、それまでの学習内容を発展させる。1、3、5とは別の数字を使った「アレンジ問題」を児童に考えさせるのだ。クラス内からは「0、4、8」のパターンが出た。「同じ数は1回までしか使えません」という条件にしたところ、「408、480、804、840」の4パターンを数え上げてすぐに終わってしまったので、続いて「1、3、5、7、9」の五桁のパターンを取り上げた。「(五桁だと)書き出していられない」という気付きも出る。「書き出し」が非効率的だと気付くことで、次回以降に学習する、計算方法の意義が見えてくる。

振り返りを分析・強化

アレンジ問題を解き終わったら、最後の振り返りの時間だ。学んだ問題を抽象化し、別の数値に変えても応用して解くことができるようなまとめを目指す。

「今、みなさんには振り返りを書いてもらいましたね。では最後に、その内容を分析したり、強化したりしてほしいんです。さっき書いてもらった振り返りに対して、新しい発見があれば付け加えてください。さっきも書いたけど、やっぱりこれが大事! と思うアイデアがあれば、線を引いてください。」

最後のまとめをする。

アクティビティを交えた基本の学習 → 1回目の振り返り → 発展問題 → 振り返りのブラッシュアップという流れ。配布された指導案の隙間に、参観者が熱心にメモを取る様子が印象に残る45分間だった。
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指導案ダウンロード

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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