2018.09.05
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「考える国語」で「深い学び」を実現するための提案授業(後編) 「問い」を論理的に解決していく「問題解決学習」を目指して―「考える国語」研究会―

「『考える国語』で深い学びを!」をテーマに行われた「『考える国語』セミナー2018」。前編では、白石範孝教授と野中太一教諭による提案授業の模様をリポートした。提案授業の後に行われた協議会では、セミナーに参加した先生達が「授業が『考える国語』であったか」という視点と、「授業が『深い学び』であったか」という視点から意見交換を行った。後編では協議会で出た意見や質問を交えながら、「考える国語」研究が目指す「深い学び」について白石教授へのインタビュー形式でお伝えする。

実践者に聞く

「考える国語」とは「論理的に考える思考活動」のことである

「対話的で深い学び」を目指す前に「主体的な学び」について考えよう

―― 次期学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」について、どのように考えていますか?

白石範孝(敬称略 以下、白石) 「対話的で深い学び」を得るためには、まずは「主体的な学び」について考えるべきでしょう。児童が主体的になるのは「問い」をもったときです。「なぜ? どうして?」と疑問が生まれたとき、児童は初めて主体的な「問い」をもちます。そして、主体的に学ぶためには、問いに対して自分の考えをノートに書くという過程が必要不可欠です。「対話的な学び」を目指してすぐにグループで考えさせる授業が多いようですが、自分で考えるという過程をはさまなければ「深い学び」は得られない。「対話的で深い学び」を目指す前に、児童が主体的に「問い」をもてるような課題を提示するのが教師の役割だと考えます。

― 白石教授は授業の冒頭で物語を一文に要約させましたが、どんな狙いがありましたか?

白石 授業の冒頭で物語を一文に要約させると、児童達の回答はバラバラになります。ここで起きる「思考のズレ」こそが児童がもつ「問い」です。「考える国語」研究会では、この「問い」を論理的に解決していく「問題解決学習」を目指しています。

―― 「物語を一文で要約させる」という手法は多くの先生が取り入れていますが、実際にやってみると難しいという声が多く聞こえてきます。協議会でも『スイミー』の要約について、先生方の意見が割れていました。特に、「自分を生かす」という部分が「出来事・事件」ではなく「どう変わったのか」の部分にあたるのではないかという意見が多いようでした。

白石 その点については解釈が割れると思います。自分はこの作品が「自分を生かせるようになった」話で終わるのではなく、「その結果どうなったか」という部分が不可欠だと考えました。ただ、協議会で先生から受けた「スイミーが取り戻したのは『もとのたのしいくらし』とは別のたのしいくらしなのではないか?」という指摘はごもっともだと思います。今回は授業を1時間で終わらせるために「もとのたのしいくらし」という児童から出た回答を使って一文にまとめましたが、協議会で得た気づきをもとに、授業づくりを改善する必要があると感じています。

また、時間内におさめるために省略せざるをえなかったのですが、「自分を生かす」というテーマだけでなく、「知恵を働かせる」というポイントについても押さえる必要がありました。読者の先生方には、ぜひこのポイントも授業に盛り込んでいただければと思います。

「再構成の読み」を得ることで「深い学び」に至る

―― また、協議会では「作品が正しく読めていたのか」という点についても議論が交わされました。「正しく読む」ためにはどのような段階を踏めばいいのでしょうか?

白石 「深い学び」を得るためには、前段階として書かれていることを正確に再現する確かな読みが必要です。私はそれを「再構成の読み」と定義しています。「再構成の読み」とは、筆者の思考過程をたどり、その意図を正確に再構成していく段階のことです。ここでは、読み手としての思いは入れないで、筆者が何をどのように述べているのかを正確にとらえることが大事です。この「再構成の読み」の過程を飛ばし、いきなり筆者の考えについて自分の意見を書かせる授業も多いようですが、それでは「問題解決学習」になりません。

そして、「再構成の読み」に欠かせないのが、「知識・技能」としての「用語」「方法」「原理・原則」です。『スイミー』では体言止めや倒置法といった表現技法に着目させ、それらの表現技法がもつ強調の効果について教えながら、作者が意図的にはった伏線に気づかせました。

この段階まで来て初めて、「深い学び」に至る思考活動が可能になります。「再構成の読み」を土台とした論理的な読み方から自分なりの結論や作品のテーマに迫り、新しい読みや学び、発見を得ることが「深い学び」だといえるのではないでしょうか。

―― 今回のセミナーを通して見えてきた課題について教えてください。

白石 一番感じたのは、児童は学んだことをすぐに忘れてしまうということです。登壇してくれた児童達は2年生のときに『スイミー』を一文でまとめたことがあるにもかかわらず、ほとんど覚えていないようでした。 算数の授業では、計算を繰り返すことで足し算や引き算といった知識を定着させていきます。国語でも同じように、大事なことは何度も何度も繰り返して教え、活用させていく必要があるのだと痛感しました。

児童が表現技法や記号に目を向けられるような指導をしてほしい

―― 最後に、読者の先生方へのメッセージをお願いします。

白石 国語ではいままで内容に特化した読み方が重視されてきましたが、これからは一歩引いた客観的な視点こそが重視されるべきです。「用語」「方法」「原理・原則」といった「知識・技能」を確実に押さえ、作品を論理的に解明していくことが指導者の役割だと考えます。

そのためにも、まずは指導者である我々が教材をしっかりと分析しましょう。教師が教材の特徴をつかんでいなければ、授業を論理的に展開することは不可能です。

私は児童達が表現技法や「」といった記号に目を向けられるようになってほしいと考えています。児童はこれからさまざまな作品と出会うでしょう。そのとき、自身が持つ引き出しを開けながら技を取り出し、論理的に読解できるように指導するのが我々教師の責任です。一緒にがんばりましょう!

研究会について

「考える国語」研究会は、「考える国語」の趣旨に賛同する全国の研究会が個別に活動しています。
東京地区では、「千尋の会」(会長 白石範孝)が、活動しています。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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