2018.09.05
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「考える国語」で「深い学び」を実現するための提案授業(前編) 主体的で深い学びを目指す―「考える国語」研究会―

小学校国語科の次期学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」とはいったい何なのか? 具体的な指導法について考えあぐねている先生方も多いのではないだろうか。明星大学教育学部教育学科の白石範孝教授(元筑波大学附属小学校)、暁星小学校の野中太一教諭らが所属する「考える国語」研究会では、「子どもが思考する国語とはどのようなものか」を追究することで、主体的で深い学びの実現を目指す。今回は、同研究会が主催する「『考える国語』セミナー2018」で行われた2コマの提案授業をリポートする。テーマは「『考える国語』で深い学びを!」。考える国語とは、そして深い学びとは何なのかを問いながら読んでいただきたい。

授業を拝見!

提案授業1:「一文で書く」という課題を通して作品のテーマに迫る

学年・教科:6年 国語
単元: 『スイミー』(光村図書2年上)
目標:表現技法から伏線をたどり、作品のテーマに迫る
指導者:白石範孝 教授
使用教材: 国語教科書のリライト教材

明星大学教育学部教育学科 白石範孝教授

白石教授の提案授業では、低学年の作品『スイミー』を教材として深い学びを目指した。学習者は白石教授の元教え子である筑波大学附属小学校6年生の児童達。白石教授は児童達が2年生のとき、同教材を使った授業をすでに行っている。

今回低学年の作品を選んだのには理由がある。「表現技法から伏線をたどり、作品のテーマに迫る」というのは6学年の単元プランだが、実践するのはなかなか難しい。そこであえて2年生のときに一度学んだ教材を使用することで、理解を深めやすくしたのだという。

『スイミー』を段落ごとに分けたリライト教材を全員で音読した後、授業が始まった。

※以下の丸数字は段落番号を表す。


  
  
		

(1) 物語を一文で書かせる

授業ではまず、物語を一文に要約するとどうなるのか個別に考えさせるところからスタート。

「『中心人物』が『出来事・事件』によって『どう変わったのか』、考えてごらん。書けない部分は『?』でいいよ」 

児童達は下記のカッコ内に入る言葉を考え、ノートに書き出していく。読者の皆さんもカッコ内に何が入るのか、ぜひ考えてみてほしい。

(  )が
(  )によって
(  )になる話

ノートに書いた後、白石教授に指名された児童が次々と自分の考えを発表していく。

「スイミーが自分の兄弟と似ている魚達と一緒に泳いで、大きな魚を追い出した」
「スイミーが海のすばらしいものを見つけ、兄弟達と海で遊べるようになった」

児童達は作品の「中心人物」がスイミーであることは理解しているが、「中心人物がどう変容したか」については理解が浅いようだ。

一般的に本作品は、「みんなで協力し合うことによって大きな魚を追い出す話」。だが、この作品を深く読めば、単に「大きな魚を追い出す」だけの話ではないことが分かる。ここから白石教授は児童達の理解をどう深めていくのだろうか。

(2) 物語のクライマックスを探す

物語のクライマックスにあたる段落がどこなのかを考えさせる。白石教授はクライマックスを「中心人物が大きく変わるところ」と定義している。

「物語のクライマックスは『会話文もしくは描写の一文』」にあるよ」
とヒントが出されるものの、児童達はなかなか正解にたどりつけない。

この作品のクライマックスは㉘の「ぼくが、目になろう。」である。スイミーの変容が表現されているこの一文は、作品で最も大切な場面だといえる。

(3) 表現技法の効果を読む

白石教授は表現技法に着目させることで、物語の伏線に気づかせていく。
「最初読んでごらん。書き方が普通と違うでしょ。どんな工夫がしてある?」

作品の冒頭(①〜③)では「体言止め」と「倒置法」が使われている。そして、これらの表現技法には「強調」の効果がある。

「ここでは何が強調されているの?」
と白石教授が問いかけると、
「スイミー」
「まっくろ」
と児童達が回答。

「そう。ここで強調されているのはスイミーの身体の様子だよね。冒頭で強調したものがクライマックスへとつながっていくんだよ?」
白石教授は作品の冒頭で強調されている「スイミーの身体の様子」がクライマックスへとつながっていくことを解き明かす。


次に白石教授は、作品の中盤で使われている表現技法について問いかける。
「⑨〜⑮を四角で囲って読んでごらん。ここではどんな表現技法が使われているの?」

⑨〜⑮はこわくさびしい思いをしたスイミーが元気をとりもどす場面だ。ここで使われている表現技法は「比喩」「体言止め」「倒置法」「リフレイン」で、いずれも強調の効果がある。

作品の冒頭と中盤で使われている表現技法とクライマックスとの関連性を図で書き表したことで、この作品の構造が見えてきた。

(4) 作品のテーマに迫る

授業が始まって約40分頃、あらためて最初の問いに戻る。
「この話を一言でいうと、スイミーがどうなる話なの?」

児童達は自分の考えを次々と発表していく。

「スイミーが仲間を失い、海のすばらしさを知ることで、仲間と団結できるようになる話」
「スイミーが他の兄弟とは違う自分の身体を生かせるようになり、成長する話」

回答からは授業開始から児童達の理解が深まっていることがうかがえる。そして、作品のテーマである「自分を生かす」という言葉が出てきた。あと一歩。大きな魚を追い出したことによって、スイミーはどう変わるのか?

ある児童の
「スイミーが自分を生かして目になり、大きな魚を追い出すことによって、もとのたのしいくらしを取り戻す話」
という回答によって、授業は終盤へと向かう。

「『もとのたのしいくらしを取り戻した』話だと読むと、全部筋が通るね」

最終的に今回の提案授業でまとめられた「一文で書く」は、以下の通りとなった。

スイミーが自分を生かして、もとのたのしいくらしを取り戻した。

最後に、白石教授はこう締めくくった。

「作者のレオ=レオニにはほかにも『フレデリック』や『アレクサンダとぜんまいねずみ』といった作品を書いていますが、テーマはすべて『自分探し』。ぜひ読んでください。そして、あなた達自身の良さについても考えてみてください。そうするといい夏休みが送れますよ」

提案授業2:「文章全体を3つに分ける」という活動指示から「筆者の書き方の工夫」に迫る

学年・教科:6年 国語
単元:『にせてだます』(学校図書3年上)
目標:「」の意味から筆者の書き方の工夫を見つける
指導者:野中太一 教諭
使用教材: 国語教科書のリライト教材

暁星小学校 野中太一教諭

野中教諭の提案授業では、説明文『にせてだます』を教材として深い学びを目指した。学習者は白石教授の提案授業と同様、筑波大学附属小学校6年生の児童達。

授業では、『にせてだます』を段落ごとに振り分けたリライト教材が使われた。

※以下の丸数字は段落番号を表す。

(1) 作品の感想を一言であらわす

野中教諭はまず、「読んだ感想を一言で表現してみよう」と呼びかけた。

「そこまで興味がわかない。なるほどなで終わる」
「具体例があげられているとイメージがわきやすい」
「自分はすごいと思わなかったが、すごいと思う人がいるのは分かる」
などと児童達は思ったことを自由に表現していく。

そこから野中教諭は、「なぜ自分がそのように感じたのかを探る」ために「筆者の書き方の工夫を見つけよう」といった課題と提示する。

(2) 「文章全体を3つに分ける」という活動指示を出す

課題を提示した後、野中教諭は「文章全体を3つに分ける」という活動指示を出した。この活動指示にはどんな意図があるのか? 野中教諭の考えでは、「課題に答えはない。問題が生まれて解決する過程で、課題に対する考え方が児童達の中で形成されていく」ということだ。

児童達の回答を聞いたところ、③段落が〈はじめ〉と〈中〉のどちらに入るか、また⑧段落が〈中〉と〈終わり〉のどちらに入るかで意見が分かれた。

(3) 「問い」を解決する

活動指示によって共有された「③段落が〈はじめ〉と〈中〉のどちらに入るか、また⑧段落が〈中〉と〈終わり〉のどちらに入るか」という問いを解決するため、みんなで話し合う。

「③段落に問いがあって⑧段落に答えがあるんだから、③と⑧は同じ段落だよ」
「いや、⑧段落は答えだから〈終わり〉の段落に入るよ」

活発に意見が交換される中、野中教諭が問いを解決するための手立てとして「ぎたい」とぎたいの表記の違いに注目させる。

「③段落と⑧段落の外側の段落についても考える必要がありそうだね。②と⑨に出てくる『ぎたい』にはどうして『』がついているんだろう?」

野中教諭は「定義」と「活用」という用語を用いて、「ぎたい」とぎたいの役割の違いについて解説する。

「②段落の『ぎたい』は、言葉の意味を説明しているよね。このような辞書的な役割を『定義』といいます。一方で、③〜⑧段落では、しゃくとり虫とカマキリについて説明するためにぎたいという言葉が『活用』されています」

ここで授業の冒頭で提示された「筆者の書き方の工夫を見つけよう」という課題に戻る。

「⑨段落で筆者は『ぎたい』を再定義し、自分なりの解釈を述べています。このように、最初と最後で言葉を再定義するという書き方の工夫によって、筆者は自分の主張を伝わりやすくしているのです」

「」の意味を問い直すことで、「文章全体を3つに分ける」という「問い」は下記のように解決された。

〈はじめ〉①②
〈中〉③④⑤⑥⑦⑧
〈終わり〉

(4) 作品の感想を一言であらわす

最後に野中教諭が「作品の感想について、いまなら一言でどう表現しますか?」とあらためて問いかけたところ、

「『ぎたい』というテーマについて書き方が工夫されていて、読者に分かりやすくなっている」
と筆者の書き方について述べる児童もいれば、
「虫が苦手だから、ますます意識するようになってしまった」
と内容に終始した感想を述べる児童もいた。

なお、野中教諭が授業の始まりと終わりで作品の感想を聞いたのは、「授業を通して自分自身を見つめる目がどう変わったのか、もしくは変わってないのかを言語化させたかった」からだという。

野中教諭は
「説明文を読むとき、筆者の書き方とか形式に着目する人もいれば、内容に着目する人もいます。両方から読めるようになると、たくさんのことが分かるようになりますよ」
と締めくくった。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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