2011.09.06
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中学生の性をどう指導する?

第29回目は「性行為そのものに最も関心が高まり、過ちを犯しやすい中学生への性教育をどうするか?」についてアドバイスします。

長い休みの後の心配は……

昨年8月に、「いまどきの子どもの男女交際、問題は?」という記事で、各年代の子どもたちに合った性教育の必要性を書きました。今回は、中でも性行為そのものに最も関心が高まる中学生に対して、どう指導すべきか考えてみたいと思います。

中学校の先生方にとって長い夏休みが終わる9月は、生徒たちが休み中、何事もなく過ごせたかどうか心配しながら迎える時期。生徒が妊娠などをしていないかという心配もあるでしょう。

日本の15~19歳の中絶率は、1970年代半ばから上昇傾向となり、1990年代後半に急上昇。2000年には女性全体のレベルを上回り、2001年には人口1000人当たり13.0件、その後は徐々に率が下がり、2007年には人口1000人当たり7.8件となりました(厚生労働省「保健・衛生行政業務報告【衛生行政報告例】」より)。これは、性教育の効果により避妊が成功しているためかもしれません。しかし、全体的な傾向からすると、性行為の低年齢化に歯止めがかかったとは言えないと思います。

身体は成長し大人になっていても、精神面ではまだ成熟しているとは言い切れない中学生の性、どう捉え、導けばよいのでしょうか。

安易な性行為がもたらすリスクを知らせる

私たち人間は生き物ですから、子孫を残すことは生きる目的の一つ。第二次性徴期を迎えた中学生に性的欲求が生じるのは、正常であり健康な証拠です。ただし、中学生がその欲求に任せるがまま性行為をしてよいのかと言えば、決して「よい」とは言えないでしょう。

なぜなら、中学生の性行為には「利用されないこと」と「粗末にしない・されないこと」という注意点が常に伴うと考えるからです。自分の性的欲求を満たすために中学生をその対象にする、という事実が社会にはあります。その中には買春などの性犯罪もあります。

また、男子生徒が自分の性的欲求を満たすために、女子生徒をおろそかに扱う。あるいは、女子生徒が性行為への興味から簡単に応じてしまう。そして結果、自分の心と身体を粗末にしてしまうということもあるでしょう。

このようなリスクを防ぐためには、まずは「自分の身体は自分で守る」という意識を子どもたちに持たせる必要があると思います。具体的には、性行為は妊娠に直結する行為であること、またHIVや性病をはじめ、将来にわたって自分の身体をむしばむ可能性のある病気の危険性、さらに犯罪に巻き込まれる怖さなどを、保護者や先生はしっかり教えなくてはならないと思います。

「心から愛し合っていれば」性行為をしてもよい?

「心から愛し合っていればセックスをしてもいいよね」と言う中学生がいるかもしれません。「避妊をすればいいのでしょう」と言う子もいるでしょう。そうでしょうか。中学生の年齢で、親になる覚悟はできますか? また避妊をすると言っても100%安全な避妊具などありません。こうした様々な面から考えて、私は「中学生は、性行為をしない方がよい」と思っています。

理想的な性行為とは、大人になってから本当に好きな人と出会い、愛し合って、お互いに子どもを望みながら行うものだと思います。また、その「本当に好きな人」というのは、人生の中でそう何度も出会えるものではありません。ですから、特に女子生徒には、将来本当に好きな人と出会った時に、自分はどんな身体でいたいのか、ということを考えさせてみてはどうでしょうか。

中学生くらいの年代で、興味本位で性交をして性病や子宮頸がんのウィルスなどに感染してしまい、本当に好きな人と出会った時には妊娠が難しい身体になっている可能性もあります。処女性を問う相手である場合もあるでしょう。このような様々なケースがあることを率直に伝え、考える機会を子どもたちに与えてみましょう。

それでも、性行為に及んでしまい、妊娠などの事態に陥ってしまう子もいるかもしれません。そんな時は、その生徒を先生や保護者が差別することだけはやめてください。心身共にボロボロに傷ついているはずです。温かく抱きしめ、受け止めてあげて、先のことを一緒に考えてあげてほしいと思います。

「性教育をすると、寝た子を起こすことになる」と言われることがありますが、私はそうは思いません。メディアを通して誤った性の知識が氾濫する今の社会では、むしろ正しい知識を大人が子どもに伝えなくては、地図を持たせずに真っ暗な道に子どもを放り出すのと同じことになってしまいます。性行為を目的に子どもを標的にする犯罪者がいることを認識し、子ども自身が自衛できるよう、大人が助けてあげる必要があると思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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