2024.07.03
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公共の場で泣き叫ぶ子どもに困っています

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。電車の中や病院など静かにしなければいけない場所で、子どもが泣き止まずにいたたまれない思いをすることがあります。今回は「公共の場で泣き叫ぶ子どもに困っています」をテーマに考えました。

子どもが外出先で泣き止まないとき

電車やレストランなど公の場で大泣きする子を見かけることがあります。先日、泣き叫ぶ子どもと、対応に困っている親を目にしました。
若い夫婦と、2歳くらいの小さな子どもです。長い行列に並ぶ間、その子はずっと泣いていました。床に座り込み、抱っこしようとしても暴れます。なぜ泣いているのか、何が不満なのか分かりません。なんとかなだめようとしていた親御さんも、最後には「いい加減に泣き止みなさい!」「ここに置いていくよ」と怒ってしまいました。

それを見て私は、なぜ泣いているのかを子どもに聞いたほうがよいかもしれないと思いました。それくらいの年齢の子どもは、やりたいことがたくさんあります。すべてが新鮮で驚きです。何でも試してみたいのに、早く歩けないし、言葉もうまく出ません。だからイライラしやすいのです。もっと大きくなれば言葉で伝えられて、足もしっかりして、好きなところに走っていけるようになります。でも、1歳から2歳くらいの子どもはじれったい思いをしがちだということを、大人は理解してあげる必要があります。

でも、何が嫌で泣いているのか聞いても、その年齢の子どもはまだ上手に話せません。自分でうまく言葉にすることはできなくても、相手が何を言っているのかは分かっているので、こちらから選択肢を与えてあげると良いでしょう。
「暑いの?」「寒いの?」「外へ行きたいの?」「家に帰りたいの?」「何か食べたいの?」といった具合です。子どもがうなずくまで尋ねて、子どもの気持ちを理解してあげることが大事です。
そして、その場で解決できる問題なら解決し、解決できない場合は説明してあげるべきです。泣いている子は悪い子でもなければ、ただ甘えているわけでもありません。必ず理由があるので、それを探ってあげるのです。

泣き叫ぶ行動をやめさせるためには

最近、香港に行ったとき、空港の手荷物受取所で小さな子どもが泣き叫んでいるのを見かけました。私は思い切ってその親子に話しかけました。泣いていた子は最初、人見知りをしていましたが、知らない人に話しかけられて気分が変わったようです。
そこで、私がターンテーブルを見ながら「見てごらん。たくさん荷物が流れてくるよ」「これ何かな?黒いカバンだね」「次は黄色いケースがくるよ」と話すと、その子は興味を持ち、泣き止みました。
そして、また叫ぼうとしたときに、私はすかさず「小さい声でやってみよう」と提案しました。すると、その子は小さな声でお母さんを呼んだのです。それを見たお母さんは大喜びです。その子もお母さんが喜ぶのがうれしくて、繰り返しやってみせました。私が「ほらね。小さい声で呼んでもお母さんは聞こえるよ」と言うと、その子はもう叫ばなくなりました。

子どもが泣いたり叫んだりするのは、「かまってもらいたい」「疲れた」といった原因があるのです。だから、子どもが泣き叫ばなくてすむようにほかの方法を教えてあげなければいけません。
所かまわず泣き叫ぶという行為は、子どもにとっては単なる習慣なのです。その子にとって、叫び声は言葉と同じです。まだ上手に話せないので、「こっちに行きたい」「飽きた」という気持ちをすべて叫びで表現するしかないのでしょう。
泣き止ませるためにタブレットで動画を見せたり、お菓子を与えたりする方法もありますが、子どもは「泣き叫べば望むものが手に入る」と学んでしまいます。望ましくない行動をしたときにご褒美が与えられると、子どもはその行動を繰り返すようになります。正しい表現方法をしたときにこそほめてあげて、正しいことをすればよいことがあると教えなければ、行動は変えられません。
泣き叫ぶのではなく、手を振って合図をしたり、洋服の裾を引っ張ったり、小さな声で呼んだりするなど、違う表現で自分の意思を伝える方法を教えましょう。「泣いてはダメ!」「静かにしなさい」では解決しません。

泣き叫ぶストレスが子どもの成長に与える影響

泣き叫ぶ表現方法は子どもの成長にとっても良くありません。小さな子どもにとって、ストレスはいろいろな悪影響があります。ストレスを感じると分泌されるストレスホルモンは炎症をおこしやすく、子どもが病気しやすくなってしまいます。
また、ストレスのかかった状況が続くと、脳の発達にも障害が出るほか、血管が収縮して血圧が高くなるなどの問題があります。小さなころに受けたさまざまな悪影響が、将来的に大人になってから現れる場合もあります。

小さな子ができるだけストレスホルモンを分泌しなくてすむように、穏やかな日々を過ごせるようにしてあげましょう。親にとっても、子どもが泣き叫ばないほうが気持ちは楽でしょう。公の場で子どもが泣きわめいて慌てたり、恥ずかしい思いをしたりしなくてすみます。小さな子どもでも大声で泣いたり叫んだりする必要はなく、違う表現もあるということがきちんと分かります。子どもの理解力を信じて、教えることが大切です。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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