2024.05.01
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子育てしながら働きやすい社会をつくるために

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。夫婦共働きの世帯が増加し、子育てと仕事を両立する人が増えています。今回は「子育てしながら働きやすい社会をつくるために」をテーマに考えました。

子育て中の従業員が会社に期待すること

日本の企業では以前から、従業員が結婚したり子どもが生まれたりすると家族手当や扶養手当を支給するなど金銭的な援助をすることはありました。
それも助かるのですが、子育て中の親が安心して働き続けるためには、働きやすいように企業がサポートすることも必要です。

私から提案したいのは、子育て支援専門の相談員を配置することです。保育園に入れない、通勤に時間がかかる、子どもを預かってくれる家族がいないなど、子育ての悩みはいろいろあります。さらに、子どもの年齢や人数、手伝ってくれる祖父母の存在などの状況も家庭によって違います。一律な対応が、すべての親に合うとは限らないのです。
社内に子育ての制度を把握している相談員がいて、それぞれの状況に合わせて「あなたの住んでいる地域にはこんなサービスがあります」「会社の制度を利用できますよ」などと相談にのってくれれば心強いと思います。

企業の規模によっては、専門の相談員を雇うのは難しいかもしれません。その場合は、社内の誰かが専門知識を学んで、相談員の役割を兼任してもいいと思います。
そして、男性も女性も育児休暇を取得しやすい環境があれば、夫婦で協力して子育てできるようになります。子どもが小さいうちは在宅勤務が選べて、徐々に職場に復帰できるような仕組みも助かります。

子育て中の従業員でグループを作ることも良いアイデアです。アメリカには子どものいる親たちがグループを組み、お互いに助け合っている企業もあります。安心できる保育園に子どもを預けるために、通勤圏内の保育園を見学して、情報を共有し合っているそうです。従業員同士で状況が分かっていれば、「この季節は行事が多いから、それまでにプロジェクトを終わらせよう」といった調整もできます。

必ずしも、企業に多額の費用を負担してほしいというわけではないのです。社内に親身になって考えてくれる人がいて、お互いに助け合う輪があるだけで、働きやすさは違います。子育ての場合、お金だけでは解決できない問題がたくさんあります。すでに子どもを持つことにためらう人たちが増えている現状を考えると、企業も子育て中の従業員のために役割を少し広げる必要があると思います。

子どもの病気や平日昼間の学校行事などは働く親にとっては大きな問題

企業だけでは解決できないことも多くあります。
例えば、働く親にとって最も困る問題は、子どもを預けられないことです。特に、子どもが病気になったときには預けられる場所が見つからず困ってしまいます。病児保育施設もありますが、まだ数は多くありません。そして、子どもはいつ病気になるか分からないため、あらかじめ予約しておくこともできません。
そのため、子どもが熱を出したり怪我をしたときには、親は仕事を休むしかないのです。また、保育園に通い始めたばかりの子どもは病気にかかりやすく、親は頻繁に仕事を休むことになります。

病児保育施設が充実している地域に若い世帯が移住しているという話も聞きます。病気の子どもを預けられる施設が近くにあれば、親も安心して働くことができるでしょう。企業側も子育て中の従業員が突然休むのは特別なことではなく、想定内のこととして対応してほしいです。

また、日本の学校は先生との面談や懇談会、PTAなど、ほとんどの行事が平日の昼間に行われます。
アメリカでは、学校のイベントは夜にやることが一般的です。アメリカの映画で、子どもたちの劇や発表会を見るために夜、学校に集まっているのを観たことがないでしょうか? 小中学校だけでなく、幼稚園の行事も夜や休日に行われるので、働く親でも参加しやすいです。
日本の学校は、働く親たちのことを考えて作られたスケジュールではないように思います。家庭に専業主婦がいることが前提とされているように感じます。働く親でも参加しやすいように学校が変わるか、平日の昼間でも学校行事に参加できるように企業が対応するしか方法はありません。

これからの社会を支える子育て世代を温かく見守ってほしい

私が子どもを育てていたころは、子育てをサポートしてくれる制度はほとんどありませんでした。子どもを育てながら働くことは自己責任という風潮が強く、周りに迷惑をかけないことが何より重要でした。最近では子どもを産んでからも仕事を続ける女性が増え、社会的な理解も広がっています。

一方で「子どものいる人ばかり優遇される」といった不公平感もよく問題となります。子どものいる世帯への給付金や就学支援金などに反対する声もあります。しかし、私としては道徳的に賛成できません。自分が困っていないからといって、困っている人たちが助けられるのを「ずるい」と感じるのは少し違うように思います。

子育てする親を支援するのは、お互いに助け合う社会の一環です。将来の日本で誰が働き、税金を納め、社会生活を支えてくれるのでしょうか? それは今、一生懸命子育てをしてくれている人たちの子どもです。働く親たちはある意味で、社会のために頑張っているのです。感謝の気持ちを持って、見守ってあげてほしいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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