2024.06.05
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何でもある生活が当たり前?感謝の気持ちを忘れずに

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。現代の子どもたちは多くの物やサービスに囲まれ、何不自由なく暮らしています。今回は「何でもある生活が当たり前?感謝の気持ちを忘れずに」をテーマに考えました。

感謝の気持ちを教えることの重要さ

子どもに感謝の気持ちを教えるのは、小さなころからやっておきたいことです。日本にも貧困問題はありますが、他の国に比べれば恵まれている状況です。その恵まれている状況を当たり前だと思ってしまう子が多いのです。
私たちは豊かな社会にいることで、戦争で苦しんでいる国、かんばつで水がない国、貧困でご飯が食べられない国、学校に行けない子どもがいる国がたくさんあることを忘れてしまいがちです。「お小遣いが足りない」「ご飯がおいしくない」などと不満を口にして、そのありがたさに気が付かないのです。

感謝の気持ちが無ければ、いつも何か足りない気持ちで満足できなくなります。これは残念で悲しいことです。だからこそ、子どもが小さいうちから感謝の気持ちを教えることが大切なのです。
日本でも食事の前には「いただきます」と感謝しますが、形式的なあいさつとなってしまわないように注意することは大切です。親が作ってくれることは当たり前だと思っている子もいます。「ご飯を食べられるだけでもありがたい」ということをきちんと理解させましょう。

社会はみんなで協力して成り立っています。子どもであっても世界の現状を知り、私たちが恵まれていることを実感させることが大切です。
私自身も中学生の頃にボランティア活動を始めました。そして、さまざまな困難な状況にいる人たちと接するうちに、自分の不平や不満を恥ずかしく感じるようになりました。息子たちにも小さいころからボランティア活動を経験させています。息子たちが中学生のときに、海外の貧困国に行かせて、ボランティア活動に参加させました。そして、彼らなりに安定した生活が出来るありがたさを感じるようになったのです。日本国内でもたくさんのボランティア活動があるので、実際に経験してみることで子どもたちの考え方を変えるきっかけになると思います。

「お願いします」と「ありがとう」が言える子どもに

英語圏の人たちは、何かをしてもらうときには「お願いします」、そして何かをしてもらったら「ありがとう」と必ず言います。これは、家庭教育の基本です。
例えば、子どもが「ご飯が食べたい」「飲み物を取って」と言ったら、「じゃあ、まず何て言うの?」と聞いて、「please」と答えさせるのです。飴一粒もらうときでも、「please」と言わないともらえません。もらったら必ず「thank you」と言わせます。

「お願いします」「ありがとうございます」は、口癖のように子どもに覚えさせるのはとっても良いことだと思います。「飴ちょうだい」と言うときに「お願いします」が無ければ、もらったあとも「ありがとう」の気持ちは生まれません。言葉を口に出すことで、感謝の気持ちが芽生えます。日頃から子どもに教えることで、何かもらったり、やってもらったりするのは当たり前ではなく、感謝の気持ちを覚えられると思います。

感謝の言葉は、子どもだけでなく大人も心掛けるべきです。特に小さい子は親の真似をするので、親が率先して使うことが大切です。「そのぬいぐるみを箱の中に入れてね、お願いします」「ありがとう。きれいにできましたね」と言ってあげれば、子どもも自然に覚えます。そして、自分の行動に誇りを持つようになります。
私の孫は今1歳ですが、ゴミをゴミ箱に入れることが任務のようになっています。「お願いします」と言ってゴミを渡すと、ゴミ箱に入れます。そして、「ありがとう」と伝えると、誇らしく笑ってうれしそうにしています。誰かのために何かをして、感謝されるという喜びは子どもにもあるのです。

「ありがとう」「お願いします」は素晴らしい言葉なので、ぜひたくさん使ってください。身近にいるため、つい当たり前の存在となってしまいがちですが、お互いに感謝しあう家族は素敵だと思います。

ガザとソマリアで出会った感謝の心

私にとって忘れられない「感謝」は、日本ユニセフ協会の大使としてガザ地区に行ったときのことです。ガザ地区はそのころから戦争に苦しんでいて大変な状況でした。
ユニセフの施設は子どもたちが安全に遊べる場所なので、私が訪れたときには学校が終わった子どもたちが集まっていました。
現地の方が子どもたちに「アグネス大使に質問はありますか?」と聞くと、手を挙げた子の最初の質問が「東日本大震災の子どもたちはもう大丈夫ですか?」でした。彼らは自分たちがとても大変な状況なのに、日本の子どもたちを心配してくれたのです。その時は思わず涙がこぼれました。心から「ありがとうございます」の気持ちがあふれ出て、何度言っても足りないほどでした。お互いに思い合う気持ちがありがたく、感動しました。

また、アフリカのソマリアに行ったときのことです。子どもを連れて、紛争から逃げてきた女性がいました。彼女にはたくさんの子どもがいましたが、逃げてくる途中に2人の子どもを亡くしているとのことでした。やっとたどり着いた難民キャンプも、食べ物も何も無く大変な状況です。
それでも、彼女は「私はとても感謝している」と話すのです。私が聞き返すと「だって見てよ。私は生きている。生きているのは大感謝です」と言いました。

その言葉は私の心に深く残っています。そのたくましく尊い姿が忘れられません。私は今まで、何を小さなことにこだわっていたのだろうと反省しました。「生きているだけで感謝」という気持ちを忘れず、常に子どもたちにも伝えていかなければいけないと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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