2009.11.03
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アグネス+現役教師3人が語り合う(vol.2) 良い教育を子どもたちに実践するためには学校は、家庭は、何ができるだろうか? (後編)

今月は特別企画として学びの場.com会員の北川誠さん(埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校教諭)、鷺嶋優一さん(栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭)、川上康則さん(東京都立港特別支援学校教諭)の現役教師3人とアグネスさんとの座談会の後編です。テーマは「学力問題」。本当に低下しているのか、どう取り組めばよいか、熱く語り合います。

アグネス・チャンさんが学校や家庭教育に役立つアドバイスをお届けする連載コーナー。今月は特別企画として学びの場.com会員の北川誠さん(埼玉県朝霞 市立朝霞第十小学校教諭)、鷺嶋優一さん(栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭)、川上康則さん(東京都立港特別支援学校教諭)の現役教師3人とアグネ スさんとの座談会の後編です。テーマは「学力問題」。本当に低下しているのか、どう取り組めばよいか、熱く語り合います。

子どもたちの「学力」はどうなっているの?

子どもの学習意欲や学力を向上させるには

アグネス・チャン

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。

司会 コミュニケーション能力と並んで、最近よく話題となるのが「学力」です。子どもたちの学力について、現場ではどう感じていますか?

鷺嶋 まず、「学力」という言葉の定義が高度経済成長期の頃とは変わってきていると考えます。昔は一斉授業で、 先生が「これを覚えなさい」と言われたことを覚えていけば、高校、大学へ進学し、就職もできました。その後、とくに21世紀になってからは、たくさんの情 報の中から、自分に必要なものを取捨選択し、活用していくという力が求められています。学力の定義が変化しているのに、現場で教えている私たち教師は、ま だ自分が受けてきたような知識伝達型の授業をしてしまっているのではないかと自戒しています。

アグネス 日本で「自分で考える」教育が全国的に始まったのは、まだここ数年くらい。すぐには定着しないでしょうから、教える側は根気強く続けていく必要があると思います。

北川 私は、子どもの勉強時間が確実に減ってきているように感じます。全体的にというよりは、勉強をする子としない子の差が激しくなってきているという意味で。

アグネス 私も日本の大学で20年以上前から教えていますが、最近になって二極化ということをとても感じます。すごく積極的に勉強する学生と、まったくしない学生がいるのですよね。

北川誠

北川誠(きたがわ まこと)
埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校教諭。1957年生まれ。東海大学・近藤卓教授の主催する「子どもといのちの教育研究会」運営委員であり、子どもたちの自己肯定感(セルフエスティーム)を高める教育実践にも取り組む。

北川 中国などアジア各国の子どもたちは、日本の子どもたちよりも熱心に勉強しているという印象がありますが、なぜでしょう。

アグネス 中国について言えば、経済的、地理的な理由で、高校や大学にいけない子どももまだかなりいるので、こうした学校へ進学できることが、「将来、大手企業などで正規採用のサラリーマンとして働けることに直結する」という動機があるからだと思います。

鷺嶋 問題は「学ぶ意欲」というか、子どもたちを「勉強したい」という気持ちに、我々がいかにさせていくかだと思います。

北川 課題意識を持っている子は一生懸命やっていますからね。一方、今の子どもたちは要求が多いという特徴も見 受けられます。「先生の教え方、下手」、「それじゃわからない」などとはっきり言ってきますよ。自分のせいではなくて他人のせいにする傾向と、依存心が強 いという傾向もあるのでしょう。

アグネス 私が教える大学生にも、「進学したのは、親や先生がそうしろと言ったから」という受け身態勢の子が結構います。教師側の課題として、「授業レベルの基準がどうしても学習意欲の高い子になりがち」という点があるかと思いますが、皆さんはどうしていますか?

北川 私は子どもの様子を見ながら“日々工夫”といった感じです。たとえば、一回の授業の中で前半は基礎基本 を、後半は発展的にしたり、あるいはグループで話し合う場面や書く場面を効果的に使い分けたり、時にはゲーム化してやってみたりと工夫しています。ただ、 勉強って、わからなかったことがわかるようになるのが喜びなので、最初からわかりやすくしてしまうことによってますます勉強しなくなるというジレンマがあ ります。なかなか難しいですね。

鷺嶋 私は、授業前に子どもと遊ぶようにしています。一緒に遊ぶことで、子どもの様子がよくわかり、それが授業にもよい影響を与えます。

アグネス そうすると、授業中の態度も変わるのですか?

鷺嶋 変わりますね。何か問題を抱えている子というのは、一対一のコミュニケーションを求めていることが多いので、簡単なジャンケン遊びだけでもいいのです。休み時間に一緒に遊ぶことにより、次の授業での集中度が変わるのですよ。

川上康則

川上康則(かわかみ やすのり)
東京都立港特別支援学校教諭。1974年生まれ。障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援コーディネーターとして、全国の学校での講演や相談に熱心に取り組んでいる。

川上 子どもは、一人ひとり「学びのスタイル」が違いますから、それぞれに応じた形で教えて良さを引き出してあ げると、グンと伸びると思います。たとえば、大抵の授業では子どもが教師の話を聞き、書いたもので評価しますが、実は、聞くよりも見るほうが理解しやすい 子や、書くよりも話すほうがうまく表現できる子もいます。子どもそれぞれの特徴を見極めて対応していくことも、学習意欲や学力を向上させる上で必要な技術 だと思います。

アグネス そうですね。それから、子ども一人ひとりが目標を立てることがとても大事だと思います。それも自分のためだけでなく、「これを勉強することで何か人の役に立つ」といった、社会と自分との関わりの中での目標を立てると、より勉強を頑張るのではないでしょうか。

より良い教育を実現するためにできることとは

鷺嶋優一

鷺嶋優一(さぎしま ゆういち)
栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭。1964年生まれ。「ネットの向こう側の人への思いやりとは」をテーマに、子どもと携帯電話・インターネットなど情報教育関係について研究。

司会 それでは、より良い教育のため、私たちがすべきこととは何でしょうか?

川上 アグネスさんもおっしゃる通り、子どもは親の思い通りには育ちません(※前編参照)。 子どもは親とは違う人格を持っているということを、我々大人は自覚してサポートしていくことが大切です。そして、子どもに「困ってもいいんだよ」「失敗し ても大丈夫」ということを伝え、課題にしても活動にしてもできるだけハッピーな状態で終われるよう、学校も家庭も工夫していくことだと思います。

鷺嶋 私は、教師としてだけでなく、二人の子どもの父親としての立場から思うのですが、父親の育児参加の重要性をもう一度確認したいですね。川上先生のお話にもありましたが、母親の育児ストレスが子どもにも悪影響を与えてしまう(※前編参照)という現象を、私も学校現場にいながらも日々感じることが多いです。これは、父親が育児にもっと積極的に参加できれば改善できる問題だと思います。

内田洋行教育総合研究所 佐藤徹也

司会
(株)内田洋行教育総合研究所 佐藤徹也

北川 アグネスさんに質問があります。私は「いのちの教育」というテーマで、授業中、テロや戦争の話題を取り上 げることがあります。子どもたちはとても熱心に聞いてくれるのですが、その授業直後の休み時間、友だち同士で些細なことからすぐに「お前なんか死ね」とい うトゲトゲした言葉が平気で飛び交っているとガッカリします。これはどうしたらいいのでしょうか。

アグネス 私もこんな経験をしました。パスポート申請の待合室で、ちょっとした失敗をした母親に対して娘さんが 「死ね」と言ったのです。私はびっくりしてとてもショックを受けました。それで、近くにいた自分の息子たちに大きな声で、「もしもあなたたちがママに“死 ね”と言ったら、ママはここで舌を噛み切って死ぬからね!」と言いました。先程の母子は、ハッとしてこちらを振り向いていました。言葉は武器にもなりま す。私は「発するときにはそれなりの覚悟を持ちなさい」と、息子たちに言いたかったのです。「相手が実際にそうなったら、自分はどうなのか」を、小さいと きから考えさせることが大事ではないでしょうか。

北川 なるほど、そのように丁寧に噛み砕いて、根気強く、子どもたちに伝えていくべきなのですね。

アグネス 今日は先生方とお話しができることをとても楽しみにしていました。もっと、もっと、お話ししたいですね (笑)。教育は永遠の問題です。頑張っている先生方に対して、親はもっと感謝の気持ちを持たなければと思います。そして、我が子のことは親自身に責任があ ると自覚したいですね。
 学校は、「さまざまな目標に向かって頑張る場所」であると思います。先生方は、その頑張りをサポートしてくださっていま す。一方で、一人ひとりの子どものペースを大事に守ってあげるのは主に親の役目です。大変なことも多いのですが、先生と親が協力して、それぞれの立場から 子どもたちを見守り、育ちのサポートをしていければと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

取材・文:菅原然子 写真:柳田隆晴 イラスト:あべゆきえ

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