2009.10.06
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アグネス+現役教師3人が語り合う(vol.1) 良い教育を子どもたちに実践するためには学校は、家庭は、何ができるだろうか?(前編)

10月と11月は特別企画として学びの場.com会員の北川誠さん(埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校教諭)、鷺嶋優一さん(栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭)、川上康則さん(東京都立港特別支援学校教諭)の現役教師3人とアグネスさんとの座談会です。前編は「子どもたちのコミュニケーション能力」について現状や対応策を探ります。

アグネス・チャンさんが学校や家庭教育に役立つアドバイスをお届けする連載コーナー。10月と11月は特別企画として学びの場.com会員の北川誠さん (埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校教諭)、鷺嶋優一さん(栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭)、川上康則さん(東京都立港特別支援学校教諭)の現役教師 3人とアグネスさんとの座談会です。前編は「子どもたちのコミュニケーション能力」について現状や対応策を探ります。

最近の子どもたちは人間関係づくりが苦手?

社会環境の変化が与える親子関係への影響

アグネス・チャン

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。

司会 今日は、アグネスさんと、学びの場.com会員の3人の先生方に、子どもたちにより良い教育を実践するためには、学校と家庭は何ができるかを話し合っていただきます。
まず、子どもたちの現状について、人間関係づくりが苦手、コミュニケーション能力が低下しているなどと言われますが、いかがでしょう。

北川 子どもの本質的な部分は今も昔もそれほど変わっていないと思いますが、子どもを 取り巻く環境が激変していると感じます。たとえば経済状況の悪化でお父さんがリストラに巻き込まれたりすると、子どもながらに基本的な安心感や信頼感が欠 けてしまい、「自分はこのまま、ここにいていいのかな」と不安を感じ、自己肯定の気持ちが低下してしまうのです。そうした自分への自信のなさが、他の子へ のいじめなどにつながってしまうケースがあります。

アグネス 確かに、子どもを取り巻く環境は変わってきていますね。同時に、親の意識も 変化していると思います。私が小さかった頃は貧乏な家庭が多かったので、見栄を張ることもそれほどなかったのですが、今は他の家庭と自分の家庭を比べて、 見栄を張る親が増えてきたように感じます。そうすると、子どもへの要求も際限なく高くなっていき、子どもはいつまでも頑張り続けなくてはなりません。

北川誠(きたがわ まこと)

北川誠(きたがわ まこと)
埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校教諭。1957年生まれ。東海大学・近藤卓教授の主催する「子どもといのちの教育研究会」運営委員であり、子どもたちの自己肯定感(セルフエスティーム)を高める教育実践にも取り組む。

北川 社会が複雑になり、母親の一人の人間としての自己実現欲求が高まって積極的な社会参加が増え、その結果、我が子を肯定的に捉えにくくなってしまっているのかもしれませんね。

鷺嶋 家庭教育の目標レベルが高まっていることは私も感じます。その結果、家族みんなでのんびり過ごす、という何気ない交流の大切さを忘れてしまっている家庭が増えてきているような気がします。

アグネス ウチは“強制的団らん”をしています(笑)。夕食が終わっても、それぞれの部屋にすぐ戻らず、「はい、団らんするよ」とみんなでおしゃべり。それによって家族みんなでいることをエンジョイし、コミュニケーションを楽しむのです。

北川 最近の親は、そういった団らんの時間をとっていない分、普段の罪悪感からか、何 か家族でイベントをするとき、必要以上に子どもに過干渉になっている気がします。本来、アグネスさんの家族のような、何気ないつながりのほうが子どもに とっては嬉しいものなのですが。この解決は学校だけ、家庭だけ、地域だけが頑張っても無理。社会全体で考えなくてはいけない問題ではないかと思います。

鷺嶋 私は校内で情報教育を担当していますが、インターネットや携帯電話の普及によっ て、子どもが人と対面してコミュニケーションする機会が減ったと感じています。便利な世の中になっても、直接会って話すことで得られる情報に勝るものはな いので、その影響も少なからずあると思います。

川上 私は発達障害の子どもと向き合うことが多いのですが、子どもたちの周りの人たち との関係づくりを見ていると、やっぱり不器用な子が増えたと感じています。ただ、一人ひとりの子に合ったサポートを適切にしていければ、コミュニケーショ ン能力については、誰でも伸びる要素を必ず持っているとも考えています。

司会 家族関係が発達障害の子どもに与える影響は何かありますか?

鷺嶋優一(さぎしま ゆういち)

鷺嶋優一(さぎしま ゆういち)
栃木県河内郡上三川町立本郷小学校教諭。1964年生まれ。「ネットの向こう側の人への思いやりとは」をテーマに、子どもと携帯電話・インターネットなど情報教育関係について研究。

川上 子どもに発達障害があると「育てにくい」と感じる母親が多いのですが、それを父親である夫に言ってもあま り真剣に向き合ってくれないケースが多々あります。すると、ますます母親にストレスがたまり、そのストレスが子どもへぶつけられてしまうという悪循環が生 まれがちです。父親を子育てにどううまく絡ませていくかが課題だと思います。

アグネス 実は、私の弟は知的障害を持っています。現在、50歳を過ぎ、母と一緒に暮 らしています。母は「この子が一番親孝行。みんな私のところから巣立っていったけれど、この子はずっと一緒にいてくれるから」と言っています。きっと、母 は穏やかな育て方ができた人なのですね。川上先生がおっしゃる通り、障害のある子も適切なサポートを受ければ立派に育ちます。カナダにいる親戚の子どもも 発達障害がありますが、行政の手厚いサポートによって専門家の助言や手立てを受け、一流大学へ進学した後、就職もしています。

川上 適切な支援があれば、発達障害の子も社会で活躍できます。そのためには学校と家 庭ができるだけ早い段階で対応すること。行政のサポートも重要です。本人は一生懸命やろうと思っている子がほとんどですが、「頑張れ」と言われても頑張れ ない事情を持っている子たちです。その子の特性を理解し、適切な手立てを設定し、実践後も評価と修正を行うことが大切です。

友だちとのコミュニケーション能力を高めるには

川上康則(かわかみ やすのり)
東京都立港特別支援学校教諭。1974年生まれ。障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援コーディネーターとして、全国の学校での講演や相談に熱心に取り組んでいる。

司会 では、学校での友だち関係づくりについて、子どもたちの現状はいかがでしょう。

北川 友だち関係も放っておけば、携帯メールやチャットなどでの非対面コミュニケーションに偏る傾向が窺えます。

鷺嶋 そうですね。また、子どもたちも忙しくなり、加えて不審者対策などのために昔のように放課後遊べるという機会が減ってしまいましたから。

アグネス 12歳になる私の三男が、学校で新入生のメンター役を務めています。入学前 から、一人の新入生に一人の在校生がついてお世話をする役目です。誰かがそばにいてくれるだけで、子どもは安心してその場所で過ごすことができますから、 学校がメンターのような仕組みを提供するのも一つの方法かなと思います。

鷺嶋 そういう子どもたち同士の関わり方はすごく大事ですよね。特別支援教育の考え方でも重要かと思いますが、川上先生、いかがですか?

司会 内田洋行教育総合研究所 佐藤徹也

司会
内田洋行教育総合研究所 佐藤徹也

川上 役割がその子をすごく成長させてくれるというのはあります。ですから、あえて「あなたにはこういう役割があるからね」と設定してあげることは有効です。

アグネス 低学年の子のお世話役に選ばれたこと自体、嬉しいと感じるのでしょう。

北川 子どもたちは、子どもたち同士関わることで成長し、セルフエスティームが高まるのかもしれませんね。

アグネス 日本の子どもはセルフエスティームをなかなか持てないというのは、本当ですか?

北川 それはすごく感じます。セルフエスティームの低い子が自分に余裕がなくなり、他の子を攻撃して足をひっぱり、いじめにつながってしまう例を多く見ます。

鷺嶋 優越感を持とうとしてしまう結果ですね。

川上 セルフエスティームを高めるためには、役割を与えることに加え、「僕はここにいていいんだ」という安心感を持たせてあげることがすごく重要になってきます。

アグネス その通りですね。子どもを丸ごと受け入れるというのは、親の大事な役目だと思います。親子関係、友だち関係 も含めて、子どもは大人が思っている通りにはなかなか育ちません。半面、一人ひとりの成長ぶりは独特で本当に面白い。いつも驚かせてくれるびっくり箱みた いです(笑)。親はついつい我が子を他の子と比べて相対的に見てしまいがちですが、気をつけたいものです。
まずは親子の対面でのコミュニケーションを、親がリードしながらとっていくこと。私のウチの食後の団らんのように、最初は強制的であっても、親のその姿勢 が子どものコミュニケーション能力を徐々に高めていくと思います。そして、それが土台となって、学校での友だち同士のコミュニケーションにも良い影響を与 えていくことでしょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

取材・文:菅原然子 写真:柳田隆晴 イラスト:あべゆきえ

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