仕事の経験を通して、自分と社会との係わりを見つめ直す授業、「職業実習"PRAO"」 スウェーデン
「将来、つきたい仕事は何?」 子どもの頃、何度も聞かれるこの質問。ほとんどの子どもは、あこがれや夢を思い描いているだけで、その職業が本当は何をしているのかよく知らないのが普通でしょう。でもその仕事を実際にやってみるチャンスがあったらどうでしょうか。しかも、それが学校の授業だとしたら。
スウェーデンでは、中学2、3年生に対して、職業実習という授業があります。各学年ごとに2週間、実際に職場に通って仕事を手伝うのです。もちろん給与はでませんが、2週間の実習後には、ちょっとしたプレゼントを用意してくれる職場も多いそうです。
Praktiska Arbetslivs Orienteringen (略してPRAO。実際に仕事を経験するためのオリエンテーリング)と呼ばれるこの授業は、すでに30年以上も実践されています。実習先の現場は、パン屋さんといった"手に職"系から、国会秘書といった"エリート"系までさまざま。なかには早速、将来の夢を叶える子ども達もいます。
「将来はこの仕事に就くと2年前に決めてたの。ここで実習できて最高」と言うのは、中学2年生のマーリン・Hさん。彼女の夢の実習先は、ストックホルムの観光名所、野外博物館スカンセンにある馬小屋。仕事はずばり、馬の世話。餌を食べさせ、ブラシをかけ、散歩に連れていくことです。これらは、6歳から乗馬を始めたマーリン・Hさんには、お手のもの。実習を前に「先週から緊張していて、ちょっと寝不足ぎみだった」という彼女。馬小屋の中とはいえ、外気温がマイナス2度というあいにくの天気もなんのその。スカンセンを訪れる子ども達を乗せて、園内を回って来た馬の鞍をてきぱきと取り外し、ブラシを丁寧にかけていました。
同じく中学2年生のイサベルさんとマーリン・Wさんは、学校の近くの保育園で実習。イサベルさんは学校を通して、マーリン・Wさんはこの保育園で働いている友達のお母さんからの紹介です。
将来は人と関わる仕事がしたいイサベルさん。「子どもと一緒に過ごすのは楽しそうだから保育園を選んだの」だそう。マーリン・Wさんは、銀細工を初めとした工芸品の創作を仕事にしたいと思っています。しかしそういった仕事の実習先を探すのは難しく、保育園も面白そうだと思ったことからの選択です。「ここでの実習は、なかなか楽しいわ」と口を揃える2人ですが、学校での授業と違って、とても疲れるそうです。
この授業は生徒にとても好評なようです。ある学校のアンケートによると、実習を始める前は、選んだ実習先に満足しているのは生徒の3割強でしたが、実習後の満足度は実に9割以上。普段は会わないような人との交流が、とくに満足度を高めています。
実習の後は、仕事の内容や感想をレポートに書いて、学校(社会科とスウェーデン語の先生)と実習先に提出。このレポートに対して、成績がつきます。教育省の指導要項によると、職業自習の目的は「生徒が将来に向けて、幅広い選択の可能性を持てるよう、十分な知識と経験を与える」、「地域社会とそこでの仕事、市民活動、文化などを洞察できるよう指導する」こと。学校は知識を教えるだけのところではなく、その一部として、社会と深く係わりを持っていくべきだとの考えから行われています。
この授業は、生徒が将来、本当にやりたい仕事を見つけるきっかけになるかも知れません。ただ夢を見ていただけの元中学生は、少しうらやましくなりました。
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ストックホルム在住/船渡和音
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