教科書がない?!意外なハワイの教育事情
多くの日本人観光客を迎えるリゾートの島、ハワイ。住んでみると意外な一面が現れる。そのひとつが教育熱の高さ。越境通学や有名私立小学校受験など、もしかすると日本以上に熱心かもしれない。そんなハワイの学校の先生たちはどんな授業をしているのだろうか。
「リゾート」や「楽園」の別称をもつ観光地ハワイ。今まで旅人として何度となく訪れていたこの地も、実際居を構えてみると、様々な表情を持つことが分かる。
なかでも特筆すべきは教育熱の高さ。日本以上ではと思ったりすることもしばしば。それは、越境してよりよい公立小学校に通わせたり、学年を下げても有名私立小学校を受験させる親たちの態度に如実に現れている。今ごろはちょうどサマースクール選びの時季で、いずれの親も夏休み中の適切な勉強コース探しに真剣。夏休みだって遊び呆けているわけにはいかない、というのがハワイの小学生だ。
このような状況で、学校が好成績を収めているのはなぜか。教師は一体どのように授業をしているのだろうか。
「以前は教科書を使っていたんですよ。でも教科書代は実に高い。そこで学校が買い取って貸し出す方策をとった時期もありました」とは息子の通う学校区の教育長エステル・ウオンさん。
「ところが、そこまでしても、内容的に不変の算数以外は、時々刻々と変化する事象においついていない教科書が多い。それに学力の違う一人一人の生徒に対応することもできない。そこで、教科書は使わず、学力の程度に即した教材を準備して授業を行うのが最近の傾向です。教育省から示された指導ラインを守る原則以外は、すべて各学校と各教師にゆだねられます。指導の到達度を見る指針として年度末に一斉テストをし、この結果が教師へのフィードバックになります」という。
では、現場の教師はどうしているのだろうか。昨年度の担任で息子が大好きだったパブロ・コーテッツ先生に聞いてみた。話の発端に日本の教科書を数冊見せたところ、「ワオ! こんなにきれいな教科書があるなんて。ちなみに誰が代金を払うんですか?」と逆に質問されてしまった。基本的には生徒たちの負担はないことを伝えると信じられない様子だ。
「教科書は高い。ですから、教師の分だけ理科の実験用キットなどを購入し、それらをフル活用して教えています。予算の関係で一つのキットしか購入できないので、学年の各先生同士で共用、それを3,4年使い続けるんですよ。」
「しかし、小学一年生で私が力を入れたいのは『書くこと』で、教科書はいらない。まず話をきちんと聞き、考え、書くという作業が中心ですから。私が話をするときは、いかに子どもたちを退屈させないか留意します。興味深いリアルな話が始まると、子どもたちの目がキラキラ輝き、こちらもワクワク。それから皆で考えます。自然界のこと、自分たちの身の回りのこと、さらに世界の出来事も踏まえた実践的な授業を心がけています」と話す。
例えば、昨年末起きたインドネシア沖地震による津波についても、クラスで話し合った。それは、多くの被害者を出した悲しい出来事だっただけに、デリケートな授業となったようだ。「地図上で被災地を確認し、何が起きたか説明しました。ハワイに住んでいる私たちにとっても決して他人事ではない惨事ですから、津波について知ることは大切。でも、子どもたちを怖がらせてはいけない。メディアがショッキングな映像を次々と流す時代なので、そうしたものから如何に子どもを守るか考慮しましたねエ。」
先生は、毎朝6時には出勤し準備にあたる。「教科書がないかわりに、反復学習が必要な練習問題などはできる限りコピーして配ります。低学年から評価はテストに頼っているのが現実ですから、やるべきことはやる。でも、私はテスト以外の面でも評価してあげたい。子どもは、テストの結果だけでなくトータルに見てあげるべきじゃないですか。」
そうした先生の思いを反映するように、クラスの子どもたちは積極的に授業に参加する。不定期だが頻繁にもたれる「Show & Tell」の時間には、子どもたちが持参した「特別なもの」をクラス全員に見せて、それが何かを説明する。息子も「クラスの皆に見せるんだ」といっては、ずいぶん色々なガラクタ(?)を持参した。珍しいところでは、借家の庭の片隅に見つけた動物の頭蓋骨(!)などがある。こうした機会を通じて、教師は生徒を知ると同時に授業に幅を持たせ、結果として多角的に一人一人の芽を伸ばそうとしているのだろう。
教科書がない学校が抱える背景には高額な教科書代があった。そして、その現実により、いかにして活気に満ちた面白い授業を展開すべきかという教師の苦悩があり、知恵があり、努力があった。手元に何かがないと教えることも学ぶこともできない気がしていた私は、自分の視野の狭さを指摘された思いだ。
「年をとったら『ああ、私の教え子は皆いい子たちだった』と笑いながら振り返られるようでありたい。そのためには一年、一年、自分自身も前進していかないとネ」と暖かな目で話すコーテッツ先生。学校の成功の秘訣は教師のガッツにあるようだ。
関連情報
http://gogo.chips.jp/kakibito/
海外書き人クラブお世話係 柳沢有紀夫さん の本もご覧ください!
『オーストラリアの小学校に子どもたちが飛び込んだ.』
ホノルル在住 荒川玉野
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