2005.02.22
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

自然教室で情操教育

今回はフィンランドのケラヴァ在住の靴家さちこさんより大自然の中で行われる自然教室についてのレポートです。

真剣な子どもたち

真剣な子どもたち

フィンランドのケラヴァ(ヘルシンキから電車で30分のところにあるベッドタウン)にあるアフヨ小学校のモットーは「生徒達をできるだけ外に連れ出す」ことです。「できるだけ」というのは文字どおり、できるだけ、時間の許す限り。コンピューターの授業など、どうしても室内にしか機材がない場合を除いて、いつでもお天気さえ良ければ、すぐ外に「自然授業」に出かけます。

机と椅子にしばられないですぐ外に出られるなんて、なんともうらやましいお話ですが、先生方にとってこの負担はかなりのもの。教室の中だったらすみずみまで届く声も森の中では叫ばなければならないし、毒キノコやベリーや蜂など、森の中は危険でいっぱいだからです。

味見

味見

「毒キノコを見つけても、それを指差して『これが毒キノコです。危ないので食べないでください』とは言いません」

とアニタ先生。その心は?

フィンランドの大自然

フィンランドの大自然

「『危ない』と言ったとたんに、それを試してみたくなる生徒が必ずいるからです」

なるほど、ベテランは心得ていますね。それでも、ヘルシンキのすぐ北のベッドタウンであるここケラヴァですら、自然と隣り合わせで暮らす子ども達はあまり教えなくても大抵のことは心得ています。ただ、家庭によってその自然の中でベリーを摘んだり、キノコ狩りをする家庭とそうでない家庭の隔たりが大きいので一概に子ども達が全てを知っていると安心しきってはいけないのだそうです。

例えば、フィンランドの国花であるスズランのオレンジ色の実が有毒だというのはご存知ですか?これはフィンランド人の中ではほとんど常識と言われているぐらい知られていることなのですが、アニタ先生のクラスでは一度、それを「うっかり口に入れてしまったかもしれない」と言った生徒がいて、救急車を呼ぶか呼ばないかの大騒ぎがあったそうです。

木に登ったよ

木に登ったよ

また、国土の70%が森林のフィンランドではその中の61%を占める私有地にでさえ、誰でもが自由に出入りできる権利があります。が、それゆえに森でのマナーを知っておかなければなりません。ベリーやキノコは自由に摘んでよくても、ベリーを根こそぎ持って行ってしまうのはいけませんし、木は切り倒すのはもちろんのこと、枝やまつぼっくりでさえ、勝手に持って行ってはなりません。火を起こしたり無許可で地面を掘るのは禁止ですし、キャンプも許可なしでは一晩しかやってはいけません。

 自然教室は、このような自然そのものについてや、マナーを学ぶのも目的ですが、第一の目的は子ども達の「情操教育」です。本に書いてある鳥のさえずりや、木の描写を教室の中でただ読むのと、実際に五感で感じるのでは大きな違いがあるというのが、先生方の一致した意見です。

自然教室は、まず子ども達がそれぞれの「自分の木」を決めることから始まります。子ども達は1年かけてそれぞれの木のお世話をし、それぞれの木についてありとあらゆることを調べ、「自分の木」のエキスパートになります。それだけでなく、木にハグをしたり、順番にそれぞれの木について、それがどんな性格の木なのか、どんなことを考えている木なのか、木になったつもりでお話や詩を作って発表します。

「子ども達が意外にも詩人なのでびっくりします」

と、アニタ先生。この子ども達の木の文学を最も堪能しているのは先生方だそうで、こういった文学的なプロジェクトが終わった次の日の職員室はその話題で盛り上がるのだそうです。

私の木

私の木

お勉強も大事

お勉強も大事

また子ども達はこの「自分の木」のプロジェクトをとても気に入っていて、それぞれの木が誰のものであるかがわかるように木に名札をつけてはいるものの、誰もが名札なしでも「あ、私の木だ」「僕の木が大きくなってる!」と遠くからでもすぐ見分けることができるのだそうです。なるほど、単なる成長記録だけではなく、想像力を働かせて自分の子どものように大切にすることから「情操」が育つわけです。
大きなお魚

大きなお魚

昨年10月には先生方の手作りの「自然週間」が企画され、一週間まるまるかけて、子ども達はじっくり自然と触れ合い、その成果を発表しました。目玉の一つにはアニタ先生のご主人、エリッキさんが釣ってきたばかりのお魚たち(!)が登場しました。学校のすぐ後ろが森、家から歩いて30分以内のところに必ず森がある環境に住んでいるとはいえ、現代っ子達にとって、釣りたてのまだ生きている大きなお魚を見るのはめったにない機会です。ほどんどの子どもたちが息をのんで棒立ちになって見ていました。紅葉のまぶしい秋空の下で、元気に学んで森と一体化する子ども達。自然を愛し、自然から離れて生きられないフィンランド人の心の土台が作られる場面を垣間見たような気がしました。
関連情報
記事協力:海外書き人クラブ  
http://gogo.chips.jp/kakibito/

海外書き人クラブお世話係 柳沢有紀夫さん の本もご覧ください!
 『オーストラリアの小学校に子どもたちが飛び込んだ.

フィンランド(ケラヴァ)在住:靴家さちこ
地図画像著作権:白い地図工房&学びの場.com

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

pagetop