フィンランドのケラヴァ(ヘルシンキから電車で30分のところにあるベッドタウン)にあるアフヨ小学校のモットーは「生徒達をできるだけ外に連れ出す」ことです。「できるだけ」というのは文字どおり、できるだけ、時間の許す限り。コンピューターの授業など、どうしても室内にしか機材がない場合を除いて、いつでもお天気さえ良ければ、すぐ外に「自然授業」に出かけます。
机と椅子にしばられないですぐ外に出られるなんて、なんともうらやましいお話ですが、先生方にとってこの負担はかなりのもの。教室の中だったらすみずみまで届く声も森の中では叫ばなければならないし、毒キノコやベリーや蜂など、森の中は危険でいっぱいだからです。
「毒キノコを見つけても、それを指差して『これが毒キノコです。危ないので食べないでください』とは言いません」
とアニタ先生。その心は?
「『危ない』と言ったとたんに、それを試してみたくなる生徒が必ずいるからです」
なるほど、ベテランは心得ていますね。それでも、ヘルシンキのすぐ北のベッドタウンであるここケラヴァですら、自然と隣り合わせで暮らす子ども達はあまり教えなくても大抵のことは心得ています。ただ、家庭によってその自然の中でベリーを摘んだり、キノコ狩りをする家庭とそうでない家庭の隔たりが大きいので一概に子ども達が全てを知っていると安心しきってはいけないのだそうです。
例えば、フィンランドの国花であるスズランのオレンジ色の実が有毒だというのはご存知ですか?これはフィンランド人の中ではほとんど常識と言われているぐらい知られていることなのですが、アニタ先生のクラスでは一度、それを「うっかり口に入れてしまったかもしれない」と言った生徒がいて、救急車を呼ぶか呼ばないかの大騒ぎがあったそうです。
また、国土の70%が森林のフィンランドではその中の61%を占める私有地にでさえ、誰でもが自由に出入りできる権利があります。が、それゆえに森でのマナーを知っておかなければなりません。ベリーやキノコは自由に摘んでよくても、ベリーを根こそぎ持って行ってしまうのはいけませんし、木は切り倒すのはもちろんのこと、枝やまつぼっくりでさえ、勝手に持って行ってはなりません。火を起こしたり無許可で地面を掘るのは禁止ですし、キャンプも許可なしでは一晩しかやってはいけません。
自然教室は、このような自然そのものについてや、マナーを学ぶのも目的ですが、第一の目的は子ども達の「情操教育」です。本に書いてある鳥のさえずりや、木の描写を教室の中でただ読むのと、実際に五感で感じるのでは大きな違いがあるというのが、先生方の一致した意見です。
自然教室は、まず子ども達がそれぞれの「自分の木」を決めることから始まります。子ども達は1年かけてそれぞれの木のお世話をし、それぞれの木についてありとあらゆることを調べ、「自分の木」のエキスパートになります。それだけでなく、木にハグをしたり、順番にそれぞれの木について、それがどんな性格の木なのか、どんなことを考えている木なのか、木になったつもりでお話や詩を作って発表します。
「子ども達が意外にも詩人なのでびっくりします」
と、アニタ先生。この子ども達の木の文学を最も堪能しているのは先生方だそうで、こういった文学的なプロジェクトが終わった次の日の職員室はその話題で盛り上がるのだそうです。
関連情報
http://gogo.chips.jp/kakibito/
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『オーストラリアの小学校に子どもたちが飛び込んだ.』
フィンランド(ケラヴァ)在住:靴家さちこ
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