2004.12.21
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「子どもを職場へ連れて行こう」 中学生の職場体験

カナダ・ビクトリア在住の志摩夕美さんからの投稿です。カナダで今年で10年目を迎えた職場体験についてのリポートです。

病院での職場体験

病院での職場体験

カナダの学校教育は、教師のアシスタントに生徒の保護者をボランティアとして奨励したり、学区のコミュニティーとのつながりを大切にしたイベントを催したり、その開かれた特長を生かしている。中でも面白いカリキュラムのひとつに、9年生(日本の中学3年生)の1日職場体験がある。

 今年で10年目を迎えた「子どもを職場へ連れて行こう」は、カナダ全土の公立学校で同じ日に一斉に実施される。子どもたちは親、親戚、あるいは知り合いの職場を見学し、簡単な仕事も与えられ、そのリポートを提出するという社会勉強の日である。これまでに150万人の生徒が貴重な1日を体験してきた。今年は11月3日、全国約7万5千の職場が、この一大イベントに協力した。

薬局スーパーで働く カイル君と見守るお母さん

薬局スーパーで働く カイル君と見守るお母さん

さて、具体的に子どもたちは、どんな一日を過ごすのだろう。さっそく取材に出かけてみた。

ビクトリアのダウンタウンに近い薬局スーパーでは、青いベストのユニフォームを着たカイル・テーラー君が、お母さんと一緒に働いていた。早番のお母さんの仕事のため、朝8時に出勤。お母さんの仕事は、入金を扱う事務が多いので、奥の部屋でコピーを取ったり、書類を整理するのが彼の役目。時々、気分転換も兼ねて棚の商品の整理など、店の中でも働いた。

「朝の出勤が早かったから、午後2時には家へ帰れるんだ。お母さんの仕事?クールだ(かっこい)と思うよ」とカイル君。
「親の働く姿を見るのは、いいことよ。もっと尊敬してもらわなくちゃね」
お母さんも息子との1日は、まんざらでもないようだ。

次はおしゃれなスパで職場体験中のアヤ・セグエブさんを訪ねた。お母さんはリフレクソロジーとマッサージを専門とするエステティシャン。お客さんに心ゆくまでリラックスしてもらうため、スパの各部屋には静かな音楽が流れ、淡いランプの光はムードを盛り上げ、ベッドの上にはバラの花が置かれて演出効果たっぷり。アヤさんは、お母さんの指示に従い、てきぱきとタオルを揃えたり、キッチンでお茶の準備をしたり忙しい。

スパで働くアヤさん

スパで働くアヤさん

お母さんがお客さんと部屋に入ると、アヤさんはさっそく学校から渡された何枚もの宿題レポートにとりかかった。スパで働くスタッフの人たちにインタビューしなくてはならないのだ。宿題には、インタビューの質問リストがぎっしりと書いてある。

この仕事に就くための資格、受けたトレーニングについて、資格を得るために通った学校について、どんな責任を任されているのか、今後の仕事の将来性やキャリアを伸ばす展望、そして仕事に伴うストレスについてなど、職場の人のナマの声を聞こうというものだ。

さらに宿題では、職場のスタッフから見たアヤさんの働きぶりをコメントするページまで用意してある。今日は学校に行かなくてもいい、楽な遠足のようなイベントかと想像していたが、とんでもない!なかなか気が抜けない厳しい職場体験のようだ。

「私は本当はジャーナリストになりたいの。だから、スパの仕事はあんまり興味ないんだけど・・・」というアヤさんだが、お母さんの監督の下で、床掃除や整理整頓も、きちんとやりこなした。

「子どもを職場へ連れて 行こう」のポスター

「子どもを職場へ連れて 行こう」のポスター

高校前の14歳という年齢では、大学進学はもちろんのこと、将来のキャリアまで計画するには、まだ早すぎるかもしれない。だが、職場での1日は、ふだん知らない親や親戚の働く姿を見ることができ、子どもたちは学校と家庭生活の舞台を離れて、言わばバックステージを見学するようなもの。社会の仕組みや経済の流通のようすをほんのわずかでも、体感することもできるだろう。

そして、職場体験が終わったら、しかるべき職場の上司あてに礼状を出すことも、子どもたちには義務づけられている。職場の快い協力なくしては、このカリキュラムは成り立たないからだ。きちんとした礼状が書けることは、社会に出るための大切なマナーのひとつとして学ばせるのも、心にくいカナダの教育方針である。

関連情報
記事協力:海外書き人クラブ  
http://gogo.chips.jp/kakibito/

海外書き人クラブお世話係 柳沢有紀夫さん の本もご覧ください!
 『オーストラリアの小学校に子どもたちが飛び込んだ.

カナダ在住:志摩夕美
地図画像著作権:白い地図工房&学びの場.com

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

pagetop