2004.11.23
のびのびとした村の青空教室
今回はインドのビハール州にある小さな村の青空教室についてのリポートです。
近くの町から、オートリキシャーと呼ばれる自動三輪車で走ること約30分。まだお邪魔する村に到着していないのに、突然車が停まりました。アスファルトの道から土の道無きでこぼこ道を右や左に傾いたり、前や後ろにつんのめったり、時には天井に頭をぶつけたりしながらドッタンバッタンと進んできましたが、1週間前に降った雨の影響で、この先、車が進めないというのです。仕方がなく車を降り歩き始めると、今度は牛の大群のお出迎え。牛が通りすぎるのを横目で見ながら、さらに進むと、ようやく土で作られた、枯草色の家が集まる村が見えてきました。
インドの中で最も貧しいといわれるビハール州にあるこの村、ここで畑作や肉体労働で日銭を稼ぎながら生活を営む多くの人は、自分の生まれた誕生日すら知りません。数多くいる兄弟。字を書いたり読んだりすることの出来ない人達にとって、1人1人の子どもの誕生日を記録することなど思いもつかないのです。2001年インド国勢調査によると、ビハール州の識字率は47%。ちなみにインドの国全体の識字率は 64.8%でした。
この村のように、町から離れた村では「なぜ子どもを学校へ送らなきゃいけないの?学校へ行く暇があったら、畑仕事や家の手伝いでもしてもらいたいよ」などと、未だに考えている人達が多くいます。様々な理由が考えられますが、満足ゆく交通手段が整えられていないために、外の世界から隔離され、何十年も昔から変わらぬ生活を強いられていたり、教育を受けるチャンスがなかった両親に育てられた子どもが親になり、当然ながら自分が育てられたのと同じように、子どもを育ててしまったりするためです。特に農繁期は、一家の働き手でもある子どもを学校へ送るのは、生活の負担になる場合もあります。
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キッチンですが、鶏は 食用では ありません あしからず
たまたま近くの町からこの村にやって来た人が、広場で村の子ども達に字を教え始めたのが3年前。それをきっかけに、青空教室が開かれるようになりました。今では4歳から10歳までの子ども達45人が参加しています。先生が2人。この教室では、ヒンディー語(インドの公用語)と簡単な算数と英語を学ぶことが出来ます。とはいえ、やはりきちんと毎日出席する子どもの方が少ないとか。どこか授業も遊びの延長といった感じで、のびのびとしています。時には、子どもの様子を見に来た家族が授業に参加することもあるそうです。それでも、ここに数ヶ月通うだけで、子ども達はヒンディー語のアルファベットを覚えてしまうそうです。家に戻ってから、その日教室で習った事をお父さんやお母さんへ伝えようとする子どもまでいるとか........
この青空教室では子ども1人あたり、毎月5ルピー(約13円)の授業料を家族から徴収しています。でもやはり、これだけでは先生のお給料もままならず、特にきちんとした後ろ盾がある訳ではないので、運営という面においては、かなりインド流で不安があります。この5ルピーの授業料が支払えずに学校を去っていった子どももいるそうです。この村の平均年収が5000ルピーぐらい。(約1万3千円)兄弟が3人いたとしたら年間180ルピー(約468円)かかるわけです。他の村の同じような青空教室の中には、NGOなどの団体の力を借りて無料で授業を行っているところもあります。
もちろんインドにも無料で通える公立の(初等教育機関)小学校がない訳ではありません。しかし学校の数が子ども達の数に比べて絶対的に不足しているのが現状です。この村の場合も、4キロ近く離れた他の村に公立小学校があるのですが、その学校はその村の子どもで一杯、とても他の村の子どもを受け入れられる余裕がないそうです。
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毎日が授業参観日と いうわけではありませんが。。。。
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このような青空教室でも、近くの公立学校の卒業試験に合格さえすれば、上級学校へ進学する事が可能です。この村の青空教室が生まれてから3年、ここから上級学校へ進学した子どもはまだいませんが、近くの村の青空教室を卒業して、今はカレッジで、バイオテクノロジーを学んでいる子どもがいるそうです。
貧困、古くから伝わる村の因習や偏見、このような村に住む子ども達が乗り越えていかなければならない問題は山のようにあります。それでも、この小さな青空教室を巣立っていく子どもの将来を期待せずにはいられないのは、少し楽観すぎるでしょうか?
ほんの少しづつですが、確実に子ども達を取り巻く環境が変わろうとしていることだけは事実です。
インド在住:池田未枝
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