2016.05.16
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失敗から学ぶ!アクティブラーニング型授業で大切なこと(数学)後編

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

前回は私の授業の失敗について書かせていただきました。
https://www.manabinoba.com/index.cfm/8,25193,21,185,html

最後に「失敗から学ぶことは多い」とも書きました。今回は失敗からの学びについて
書きたいと思います。
"授業で大事なことは教え方に関係なく共通しているのかもしれない"
自分なりに文章にまとめてみて一番に感じたのはここです。
AL型というタイトルで書いてきましたが、授業の本質として大事なことは方法に
よらないということでしょう。ともあれ、前回の続きということで、
失敗からの学びから書き始めたいと思います。
おそらく多くの人が同じような経験をするだろうと思いながら、、、
 

1、慣れはダレにつながる ~意味、目標を日々確認することが大切~
 


「一年の計は元旦にあり」と言います。学校で年度初めは「黄金の3日間」ともいわれます。
新しい始まりで人はがんばろうという思いを持ちやすいのでしょう。しかし悲しいかな、
その気持ちは続きにくいことも事実です。

どんな授業方法をするにせよ、目標・目的があり、はじめは教師がそれを熱く語り、生徒も
意識します。ところが慣れてくるにつれ、教師が目標・目的を言葉にすることは減ります。
人は忘れる生き物なので、その結果生徒は目標・目的を忘れ、目の前の授業の意味がわかり
にくくなってしまいます。

前回、うまくいかなかった(=生徒の学びにむかう姿勢がイマイチと感じた)授業の特徴
として以下のようなことを書きました。

  ・ノルマをこなしたあと、他の生徒に教えない。

  ・グループに甘え、自分で理解しようとしない。

  ・わからないときにすぐに先生に頼る。 

これらの根底にあるのは、「なぜこのような形の授業をしているのか」という思いを共有
できていないことです。人に伝える力をつけてほしいから、できたら他の人に教えてほしいと
教師は思っています。また、グループにするとはいえ、自分の力で理解することも大切にして
ほしいと思っています。だから説明を短くして、教科書を自分で読むことを強調します。

わからないことをすぐに教師に聞くということは、生徒が伝える力をつける、または自分で
理解する力をつけるチャンスを逃すことになります。しかしここに書いたグループで学ぶ
そもそもの目標を忘れると、教師に聞いた方が手っ取り早いと感じる生徒があらわれるのは
自然なように思います。

"意図まで示して指示をする"。教師としては基本中の基本ですが、この大切さを改めて示して
いるように思います。どんな形の授業をするにせよ、生徒たちにその意図が伝わっているのか
どうか日々確認する必要があるのです。

リッツカールトンホテルの従業員は、ホテルの価値観などをまとめたクレドカードを常時携帯
しています。日々確認することの大切さは何事にも共通しているのかもしれません。

 

2、準備と生徒実態の把握が何より重要


「生徒実態の把握」。言うのは簡単ですがこんなに難しいことはありません。授業準備の段階で、
つまづくだろうポイントなどの予想はしますが、思いもしなかったところで多くの生徒がつまづい
たり、すぐできるだろうと思った計算に時間がかかったり。授業はこんなことのくり返しです。

同時に多くの生徒を相手に何かを説明するのは難しいことです。こちらがこれでわかるだろうと
思った教え方では、生徒がまったく理解できないことがあります。逆にここは詳しく説明しない
とダメだろうと思ったところが、実は生徒にとっては自明で、ほとんど説明が不要ということも
あります。

授業はこんなことのくり返しではあるのですが、教師の説明を短時間にして、グループでの学び
あいを多めに確保するという授業スタイルにしたときに、こちらが生徒実態を把握できていない
ことが明確に見えてしまいます。

前回、うまくいかなかった(=生徒の学びにむかう姿勢がイマイチと感じた)授業の特徴として
以下のようなことを書きました。

 ・予想以上に生徒が問題を解く時間がかかりすぎて終わらない。

 ・短時間のレクチャーのはずが長時間になる。

 ・レクチャーを終えてもほとんどの生徒が問題に手をつけれない。 

これらはすべて説明の不十分さ、さらに生徒実態の把握の甘さから起こっています。ほとんどの
生徒が手をつけれない問題を「グループで考えなさい」という指示だけでは学びは深まりにくい
でしょう。また、説明が長くなりすぎると、生徒の考える時間が確保できません。

また、これは自分だけの問題かもしれませんが、グループでの学びあいの時間を多くとるように
なってから、プリント作りや授業の流れに意識がいってしまい、説明の準備が甘いときがあります。
特に忙しい時期にそれが顕著なようにも思います。短い時間での説明ほど、きっちりした準備が必要。
基本中の基本ですが、その大切さを強く感じています。

いずれにしても「授業は生徒の実態把握と事前の準備があってこそ」。
これらの失敗から学ぶべきもポイントはこれでしょう。

 

3、結局問われていることは基本的なことかもしれない


 「授業目標を明確にし、日々確認する」

 「授業は生徒の実態把握と事前の準備あってこそ」

これらは授業をする際の最も基本であり、授業形態とは関係がないように思います。
結局はどんな方法だろうが、授業で大切なことは変わらないのかもしれません。

授業にはねらい・伸ばしたい力があり、それに対応して方法があります。どんな方法であれ、
生徒の学ぶ姿勢こそが 授業の生命線です。「アクティブラーニング」などの言葉のみが流行
すると、どうしても方法に焦点があたりがちです。しかし本当に授業改善をしたいなら、
まず問うべきことは

 

 「生徒がどのように学んでいるかが見えていますか?」 につきるようにも思います。

 

講義型授業が上手な先生は、生徒の様子を見て、その場で柔軟に対応されています。
「これからの教師にはファシリテーション能力が必要」といわれますし、そのとおりだと
思いますが、どんな形で授業をするにしても、そのときの生徒の様子をみて臨機応変に対応
できるかどうかが授業の生命線であることに変わりはありません。これは決して新しいもの
ではなく、古くから大切な力だったように思います。

すばらしい講義型授業ができる人は、その方法を少し変えて、いわゆるアクティブラーニング型
にしても、いい授業ができるのではないだろうか、そんなことさえ感じる今日この頃です。

野球ではピッチャーとして大成するためには、基本となるストレートがある程度のもの
(スピードや球質など)を投げれないといけないと言われます。もしかしたらピッチャーに
とってのストレートは教師にとっての一斉講義かもしれないとさえ思います。
ここまで言うと言い過ぎでしょうか。

 

最後に自分の課題を2つ書いて終わりたいと思います。まずはグループだからこそできる内容を
組みこんだカリキュラムを編成することです(時間の確保)。数学の授業でいえば、
単なる教科書・問題集の基礎・基本の習得だけではなく、グループで学ぶからこそ理解が深まる
ような教材(いわゆる“活用型”はここに入ると思います)を授業で扱うことです。
少なくとも各単元ごとにこうした授業が実施できれば、普段の授業でグループで学んでいる
という基礎がより活きてくるように思います。次に自分の理解度が自分でわかる、いわゆる
メタ認知能力の育成です。せっかく抽象度の高い数学という教科を学んでいるので、
メタ認知能力も育成できると考えています。もちろんAL型授業で生徒についた力の評価も
課題ですが、これらの課題にこれから取り組んでいきたいと思っています。

 

前回、今回と授業について書かせていただきましたが、まだまだ試行錯誤中。
おそらくずっとそうなのでしょう。生徒を見て、生徒から学びながら、
これからも修行を続けたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。ところでみなさんは、全国の授業実態など
ご存知でしょうか?次回はマナビラボの紹介を通して東京大学の挑戦について書きたいと
思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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