2016.05.26
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

評価の観点 No3

岐阜県可児工業高等学校 電気システム科 教諭 河合 英光

観点を使った評価とは?

 観点を辞書で調べてみると「物事を見たり考えたりする立場、見地、見方、考え方」となっています。どういうことなのでしょうか?
例えば、ダイアモンドを評価する観点は、4Cといわれています。
ダイアモンドを評価する4観点とは

  1. Carat(カラット)   質量、重さ
  2. Color(カラー)    色
  3. Clarity(クラリティ) 明澄度、透明度
  4. Cut(カット)     型と仕上げ

となります。
カラット(重さ)が大きいほど価値が高い。
カラー(色)については好みがあるようで、無色がいいとも言えないようです。
クラリティ(透明度)は無傷で包有物が少ないものが価値が高い。
カット(型)はエクセレントが最高品質で最も輝くカットのものが価値が高い。
これらを総合してダイヤモンドの価値が決まるそうです。

では、私たちは生徒を評価するためにどのような観点で見るべきなのでしょうか?
それぞれの観点が、どのような状態であれば最高評価をつけることができるのでしょうか?

教育評価の観点

現在の評価の観点は――
[各学科に共通する各教科・科目]
国語(5観点)関心・意欲・態度 話す・聞く能力 書く能力 読む能力 知識・理解
地歴(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現  資料活用の技能  知識・理解
公民(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 資料活用の技能 知識・理解
数学(4観点)関心・意欲・態度 数学的な見方や考え方 数学的な技能 知識・理解
理科(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 観察・実験の技能 知識・理解
保健体育(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断 運動の技能 知識・理解
音楽(4観点)音楽への関心・意欲・態度 音楽表現の創意工夫 音楽表現の技能 鑑賞の能力
美術(4観点)美術への関心・意欲・態度 発想や構想の能力 創造的な技能 鑑賞の能力
工芸(4観点)工芸への関心・意欲・態度 発想や構想の能力 創造的な技能 鑑賞の能力
書道(4観点)書への関心・意欲・態度 書表現の構想と工夫 創造的な書表現の技能 鑑賞の能力
外国語(4観点)コミュニケーションへの関心・意欲・態度 外国語表現の能力 外国語理解の能力 言語や文化についての知識・理解
家庭(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解

[主として専門科において解説される各教科科目]
情報(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
農業(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
工業(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
商業(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
水産(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
家庭(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
看護(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
情報(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
福祉(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
理数(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
体育(4観点)関心・意欲・態度 思考・判断 運動の技能 知識・理解
音楽(4観点)音楽への関心・意欲・態度 音楽表現の創意工夫 音楽表現の技能 鑑賞の能力
美術(4観点)美術への関心・意欲・態度 発想や構想の能力 創造的な技能 鑑賞の能力
英語コミュニケーションへの関心・意欲・態度 英語表現の能力 英語理解の能力 言語や文化についての知識・理解
である。国語以外は4観点です。また、国語・芸術・英語以外はほとんど同じ観点です。
この4科目は主に自分を表現する内容なので能力の育成が大切になってきます。

各観点の意味

それでは、主だった観点の意味を見てみましょう。

  1. 関心…ある物事に特に心を引かれ、注意を向けること
  2. 意欲…物事を積極的にしようとする意志・気持
  3. 態度…物事に対したときに感じたり考えたりしたことが、言葉・表情・動作などに現れたもの
  4. 思考…考えること。経験や知識をもとにあれこれと頭をはたらかせること
    考えや思いを巡らせる行為であり、結論を導き出すなど何かしら一定の状態に達しようとする過程において、筋道や方法などを模索する精神の活動である
  5. 判断…物事を理解して、考えを決めること。論理・基準などに従って、判断を下すこと
  6. 表現…自分の感情や思想・意志などを形として残したり、態度や言語で示したりすることである
    また、ある物や事柄を別の言葉を用いて言い表すことなども表現という
  7. 技能…あることを行うための技術的な能力
  8. 知識…知ること。認識・理解すること。また、ある事柄などについて、知っている内容
  9. 理解…物事のしくみや状況、また、その意味するところなどを論理によって判断しわかること。納得すること

 上記は私が考えたのではなく、辞書を調べたものです。改めて意味を調べてみるとなるほどと思うことがあると思いませんか?私たちの使っている日本語の意味は家庭環境や周りの人たちとのコミュニケーションから勝手にイメージして作られています。だから同じ言葉でも一人ひとり受け取る意味が同じとは限らないと思います。そう考えると授業で使っている私たちの言葉は、生徒たちに正しく伝わっているのでしょうか?
 ダイヤモンドには明確な評価の観点と評価基準がありました。教育評価の4観点と評価基準を考えてみましょう。

『知識・理解の評価基準と指導方法』

 この観点については、さほど悩むことはないと思います。私たちが今までやってきた一般的なテストで確認することができると思います。何がわかっていて、何がわかっていないかを、文章、計算等で確認することができます。また、図、表、グラフを使って知っていることや覚えている内容を記述式で判断することができます。(記号選択や穴埋め問題も同じです)
 指導方法としては、いわゆる一方向の講義形式が有効だと思います。他には生徒同士で問題を出しあったり、小テスト(形成的評価)を実施したりといろいろな方法が考えられます。さらに、イメージを伴うものとしては、授業プリントやワークを利用したり、実物を見せたり、教師実験やICTを活用して画像・動画を見せるなど工夫をする必要があるかと思います。確認方法としてはペーパーテストが有効だと思います。
 やはり単元の初めは、どうしても知識を身に付けておかないと、その後、考えさせようとしても考えることすらできないと思います。ちなみに小テストなどは形成的評価といわれており「指導の途中で、そこまでの成果を把握し、その後の学習を促すために行う評価のこと。その結果で授業計画の修正を行うものである」といわれています。

『技能の評価基準と指導方法』

  教科の特性によっても考え方は変わってきますが、その教科(単元)において身に付けていなければ、その教科(単元)を理解するのが困難となる技能・技術のことです。???具体的にはどのようなことでしょうか?文部科学省の説明では「算数・数学において式やグラフに表すことや、理科において観察・実験の過程や結果を的確に記録し整理すること」と明記されています。もう少し具体例を考えてみましょう。国語であれば句読点の使い方や「ですます調、である調」の使い方、数学ではデータをグラフにする方法や、各辺や角を記号を使って表す方法、ギリシャ文字の表記方法や見方など、社会では、歴史年表の見方や地図の見方や描き方、理科では、実際にガスバーナーを使えるかとか、フラスコやビーカーの扱い方や洗浄方法、化学記号の見方、使い方、書き方。英語では、発音記号の書き方や発音記号を実際に発音できるか、英文法の基本的な書き方などになるのではないかと思います。
 私は工業高校の教員です。入学してきた生徒たちにおいて最近増えているのが、分数の計算ができなかったり、式変形ができなかったりする生徒です。授業で中学校の復習をするのですが、これらは技能にあたるのではないかと思います。なぜなら、これらはパターンですよね!!
 技能を評価するポイントとしては、我々教師が知識・理解として身につけなければならない内容について、技能はこの知識を理解するために必要となる内容だと思います。決して体を使う事だけが技能ではなく、見方、捉え方も含まれるのだと思います。
 指導方法としては、知識・理解と同じで小テストを行ったり、実際に生徒に実践させたりすることによって身に付いたかどうかが分かると思います。そこで、何が書いていなければならないのか。何ができていないとだめなのかを具体的にしておかないと評価もできません。

『思考・判断・表現の評価基準と指導方法』

 たぶん、これが一番難しいのではないかと思います。上記の「教育評価の観点」の説明を見直してください。私が初めてこの観点を見たときは「生徒の考えていることをどうやって評価するの?そんなことできるの?」って思いました。
 実際に生徒の思考は、生徒を見ているだけではわかりません。(ベテランの教師になると、わかるらしいです。)なので、見るだけではダメなんです。ではどうするのか?見て評価するためには、生徒が何を考えているかを書かせたり、表現させるしか方法はありません。人は自分が何を考えているかは自分ではわからないんです。自分の考えは、文章にしたり、言葉に出して話さなければ、本当に自分の考えは分からないんです。外に向かってアウトプットすることにより自分の考えとして定着するのです。頭の中だけで考えていても考えたことにならないんです。ちなみに皆さんはこんな経験はないですが?友達や同僚の先生と何か問題について話をしているときに、不意に良い考えやアイデアが自分の口から出てきて問題が解決したとか、授業中に生徒たちに説明をしているときに、良い例え話や具体的な説明が突然出てきたりしたことはないですか?生徒たちに思考力を付けさせるには、いろいろな方法でアウトプットさせる機会を作る必要があります。その1番簡単な方法が、文章を書かせたり何かしら表現させることです。(グループディスカッションやクラス討議も考えさえたり、表現させる良い方法ですが、一人ひとりを評価するにはとても難しい方法です。)でも、そうすると書いた文章を読まなければなりません。表現させるにしても生徒人数分聞いたり、見たりしなければなりません。これだけは、どうしても時間が必要となります。なので、年に2~3回ぐらいしか実施することはできないと思います。(ただ、やり方さえ工夫すれば何とかなるかもしれません。)
 次に問題になるのは、評価方法です。一人ひとり自分の考えを表現するとなると、十人十色というように、いろいろな考えが出てきます。それをどのように評価すればよいのでしょうか?そこで1番に考えるべき事は、この単元でどのような思考を育てたいのかという事です。前回のつれづれ日誌にも書きましたが、学習指導要領を鑑みて、自分が指導している生徒たちに合わせた指導目標を、学科または自分自身で決めます。どんな思考力が身に付けばよいのかを、できる限り具体的に考えてください。それを基にしてルーブリックを作ります。(ルーブリックの作り方は次回以降に説明します。)そうすることにより、いろいろな考えを評価することができるようになります。
 それではどのような指導方法があるかというと「パフォーマンス評価」や「ポートフォリオ評価」などがあると思います。(パフォーマンス評価については、次回以降に詳しく説明したいと思います。)ポートフォリオ評価は今勉強中なので、概略をどこかで説明したいと思います。その他、思考力を育てるためのアクティブラーニング系の指導方法については、名称だけ挙げておきます。「ミニッツペーパー」「Think-Pair-Share」「ジグソー法」「ポスター・ツアー」「ピア・インストラクション」「ケース・スタディー」「ロール・プレイング」「ブレイン・ストーミング」「グルーブごとの討議」「実験実習」「クラス全体の討論会」などです。(多分、他にもあると思います。)
 どんな方法を使うにしろ、1番大切なことは「生徒たちの、どのような思考を育てたいのか」という事だと思います。答えのない問題をテーマとするならば、良い悪いは言えないが、なぜ、そういう考えに至ったのかを重視する必要があると思います。ただ、高校で学ぶ内容では、ある程度答えに方向性があるので、どうしても良い悪いという指導になってくるのは仕方のないことだと思います。先生方の中には思考を誘導してしまう可能性があるから、こういった評価方法は良くないという意見もありますが、私はそうは思いません。武道の世界には「守破離」という言葉があります。「守」は、師や流派の考え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の考えについても考え、良い物を取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階という意味になります。高校教育は「守」や「破」の段階だと思います。初めから「離」を指導しても、何も成長はないと思います。やはり大切なのは基礎基本であり、一般的な倫理観が根底にあるべきだと思います。

『関心・意欲・態度の評価方法と指導方法』

 この観点については、評価するべきなのかどうか疑問に思いう人もいると思います。なぜなら、皆さんも経験あると思いうのですが、好きな先生の授業は一生懸命学習し、そうでない先生の授業はそれほど頑張らなかった事ってないですか?全てそうとは言いませんが…。昔、生徒から「先生は好きだけど、この授業は嫌い」って言われたことがあります。(笑い)、また、「今まで社会は1番好きな科目だったけど、〇〇先生になったら、つまらない科目に思えてきた。」と言っていた生徒もいます。こういった生徒たちの話を聞くと、主体的に学習に取り組むための条件に、その授業を指導する先生方の考え方や、人間性というものも強く影響するような気がします。なので、この観点は評価するべきものではないのではないかと考えている大学の先生もいるようです。しかし、次期指導要領では「主体的に学習に取り組む態度」として残るようです。(実際この観点がとても大切であることは、皆さん分かっていることだと思いますが。)
 では、評価しなければならないのならば、どのように評価するのでしょうか?私自身この観点における評価方法については、まだ明確にわかっていません。文部科学省の言葉を借りれば『他の観点と同様、目標に照らして「おおむね満足できる」状態にあるかどうかの評価を中心とする。』と言われています。我々がこの観点の目標をどのように設定し、設定した内容をどのように確認するか。だと思います。そう考えると、よくある提出物の提出状況や授業中の態度を評価に組込むのは、間違いではないような気がします。(文部科学省は、「授業中の挙手や発言の回数といった表面的な状況のみに着目することにならないように留意する必要がある」と言っています。これは、挙手や発言が苦手な生徒は主体的に学習に取り組む意欲がないと言っているようなものです。苦手であるだけで、意欲の高い生徒もいるはずです)
 私は、授業観察において何度も注意する生徒や、パフォーマンス課題の取り組みなどで評価しています。今後は他のアクティブラーニングを取り入れていくつもりなので、そちらも評価に組み入れていきたいと思います。ただ、5段階や10段階のように数値での評価ではなく、A「十分満足できると判断されるもの」、B「おおむね満足できると判断されるもの」、C「努力を要すると判断されるもの」という感じで、総括評価に入れる時のパーセンテージは、それほど大きくはありません。

まとめ

 ここで改めて評価とは何かを考えてみてください。

 これら4観点を通して、生徒に成績を付けるわけですが、評価方法に集中しすぎると、何のための評価なのかを忘れてしまいます。評価をするために、これらの手法を使っていくと、いわゆる「評価のための評価」になってしまう可能性が出てきます。我々が忘れてはいけないのは「生徒の成長のための評価」です。生徒の成長のために、いろいろな手法があるのです。その結果として4観点の度合いを見る事になります。例えば「A君は、知識・理解は優れているが、思考・判断・表現がもう一つだよね。もっと、いろいろな発想をしてもいいんだよ。」とか、「B君の考え方はユニークで面白いけど、知識が少ないからもっといろいろ調べた方がいいよ。」の様にフィードバックまで、できるとよいと考えています。決して「A君の成績は○○だ。だから、もっと努力しなさい。」とか「この調子で頑張りなさい」ではないと思います。私たちも学校長から教員評価をされています。単純にABCを付けられるわけですが、もし、Cを付けられたら、なぜC判定なのか知りたいですよね。評価を通して評定を付けるのですが、この評定とは、生徒の優劣をつけるために行うものではなく、今後目の前の生徒達がよりよく成長するために気づいてほしかったり、努力してほしいところを気づかせてあげることだと思います。
 Wikipediaで「評価」を調べてみてください。評価で大切なのは「評価する人間の信用性」と「評価方法の信用性」の2つだそうです。この2つがそろうことによって評価が信用できるものになるのだと思います。「ただなんとなく。」とか、「テストの点が○○点だから」のような評価方法は間違いだと思います。成績を付ける私たちはもっと責任をもって成績を付けるべきだと考えています。(とは言え、なかなか上手くいかないものですが…)

河合 英光(かわい ひでみつ)

岐阜県立可児工業高等学校 電気システム科 教諭
「生徒の成長のために我々は何ができるか」を最近よく考えています。そのための方法として「逆向き設計」論を実践しています。京都大学 E.Forum所属

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

この記事に関連するおススメ記事

i
pagetop