2016.05.06
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どうやって授業を作って(デザイン)していくのか?No2

岐阜県可児工業高等学校 電気システム科 教諭 河合 英光

 授業で大切にしていることは?

 皆さん、自分の授業で何を大切にしていますか?教科書の内容を生徒に理解させることですか?静かに黒板の文字をノートに書き写させることですか?生徒を寝かせないで、授業を聞かせることですか?とりあえず、50分間なんとか時間が過ぎるのを待つことですか?それとも、何も考えずに教科書を黒板に書き写す作業をすることですか?教師によってその考え方は違うと思うし、もしかしたら、そんな事を考えたこともない人もいるかもしれません。私たち先生と呼ばれる人間は、何の為にいるのでしょうか?適当に時間をつぶして給料をもらうために存在するのでしょうか?…もし、そのような先生がいたら、すぐに転職をお勧めします。その人は先生という職業には向いていないと思います。

 授業計画はどうやって立てるの?

 では、どのようなことを考えて授業を計画(デザイン)して行けばよいのでしょうか?初任者研修や経年研修、指導教官、指導主事からの指導があったと思います。各都道府県の教育委員会によっても違うと思いますが、学習指導案、単元計画書、年間指導計画の作り方を学んだのではないかと思います。それでは何の為に学習指導案や単元計画書、年間指導計画を作るのでしょうか?「そんなことはわかっている。」といわれそうな気がします。授業の計画を立てるためですよね。では、どれだけの人が本気でこれらの計画を立てているのでしょうか?
 私たちは、よく生徒たちに「テストまでの計画を立てなさい」とか「受験までの計画を立てなさい」といいます。でもなかなか計画通り進むことなんてありません。ビジネスの世界でもPDCAサイクルを使って「計画→実行→チェック→改善」を行っていますが、なかなか機能していないようです。では、どうやって考えれば上手くいくのでしょうか?

教師は何を目標に教えるの?

 そもそも私たちは自分の教えている科目を通して生徒たちにどんな力を身に付けさせなければいけないのでしょうか?若い頃、私は「教科書の内容を全部教えなければならない」と思っていました。でも、違うのですね!文部科学省は、そんなことは言っていません。学習指導要領の中に何を教えなければいけないかがきちんと書いてあります。みなさん、じっくり読んでみたことはありますか?私自身、評価の研究をするまでは、まともに見たことがありませんでした。改めてじっくり読んでみると、なるほどと思うことが書いてあります。そこで、自分が指導している科目の部分を読んでみてください。そこに書いてある内容が、生徒たちに指導する学習内容となります。目標を見てみると「態度を育てる」「能力を育てる」「理解を深める」「自覚と資質を養う」「能力を伸ばす」「能力を養う」「興味・関心を高める」「考え方を養う」「基礎を培う」「育成する」といった言葉で終わっています。内容も結構大雑把で、具体的に何をどこまで教える必要があるかは書かれていません。ここに書かれている内容に沿って、今、私たちの目の前にいる生徒たちの学力や授業態度、集中力、環境、雰囲気、自分の指導力などを考えて、何をどこまで教えるのかを決めるのは、私たち教師一人ひとり違うのです。ただ、学年全体が同一歩調で進んでおり、教えるべき内容を統一している場合には、全体に合わせる必要があると思います。(でも教え方は一人ひとり違ってもいいのです。)
(ちなみに、日本は学習指導要領が存在するので、日本中どこにいても同じ水準で学習することができるといわれています。実際はそうではない気もしますが。)

 求められている生徒像を明確にする

 そこで、1番初めに考えるべきことは「1年後、生徒たちが何を理解し、何ができるようになっていたら自分の教科を習得したことになるのか」「どんな生徒に成長していれば1番よい成績をつけることができるのか」自分なりの考えを具体的にしておく必要があると思います。実はこの部分を考えるのが一番難しいと思います。自分が教えている科目で何か重要なのか?そのために生徒が身に付けてほしい知識やスキル、思考、判断、表現、技能は何だろうか。できる限り具体的にする必要があります。詳しくは次回以降に説明したいと思います。(キーワード:本質的な問い、永続的理解) 

承認できる証拠を決定する

  2番目に考えることは、1番目に考えた生徒に成長したかどうかを、どのような方法で確認するのか?ということです。文部科学省は、その観点を4つ(3つや5つの教科もあります)に分けて考えています。(次期指導要領では3観点になるそうです。)でも今は

  1. 関心・意欲・態度
  2. 思考・判断・表現
  3. 技能
  4. 知識・理解

です。(教科によっても違いますが、概ねどの教科もこれに近いものです。)1番目に考えた目指すべき生徒像に対して、この4つの観点を、どれだけのウエイトで、どんな方法で確認すればいいのでしょうか?
(「4観点の考え方」は次回紹介します。)
「技能」「知識・理解」の観点は、今まで私たちが行ってきたテストなどによって確認することができると思います。ただし、どのような問題を出すかにもよりますが、1番目に考えた生徒たちにどんな力をつけさせたいか、ということを踏まえてテストの内容を考えなければならないと思います。どこの学校でも同じ内容であるはずはないと思っています。
 次に「思考・判断・表現」をどのような方法で、どうやって評価することができるのでしょうか?(H21年度の「学習指導と学習評価に対する意識調査」では、4観点の評価は小・中と比べて高校は定着していないとの報告があります。)高校では「思考・判断・表現」の評価方法について悩んでいる先生方が多くいるようです。
 そこで、この「思考・判断・表現」を評価する方法の1つに「パフォーマンス評価」があります。「パフォーマンス評価」とは「パフォーマンス課題」と「ルーブリック」という評価基準表を利用する方法です。(パフォーマンス評価については、次回以降に説明します。)ほかにはポートフォリオ評価、アクティブラーニング(アクティブラーニングはいろいろな方法の総称なので、厳密にはアクティブラーニングの中にパフォーマンス評価やポートフォリオ評価が含まれる)等があります。
  「関心・意欲・態度」の評価については、大学の先生方でも意見が分かれるところです。この観点を評価に入れていいものだろうか?(だって、指導する先生の好き嫌いが生徒の関心・意欲・態度に大きく関係してきたりしますよね。)文部科学省も「おおむね満足できる」状態であればよいといっています。(リンクを張っておきました。HPの中ほどに”(4)「関心・意欲・態度」の評価に関する考え方”とうい個所があります。)次期学習指導要領では「主体性・多様性・協働性、学びに向かう力、人間性」といった言葉になるようです。

学習経験と指導を計画する

 ここで、テストやパフォーマンス評価を使って具体的な評価方法を決定すると、3番目に考えなければいけないことは、2番目で考えた評価方法を生徒たちがクリアするためには、授業で何を教える必要があるのか?どのように教えるとわかるようになるのか?どのタイミングで確認テスト(形成的評価)をするのがよいか?宿題は出したほうが効果的か?ICTを使った方が理解するのが早いのでは?教師実験をしたほうがいいのか?映像を見せたほうがいいのか?実物を生徒たちに触らせたほうがいいのか?グループで話し合いをさせたほうがいいのか?実際に体験や見学をさせることがいいのか? どのように板書するとわかりやすいか。どのタイミングで発問するのが効果的か。発問内容はオープンクエスチョンがいいのか、クローズドクエスチョンがいいのか。プリントはどのように作ったらいいのか。ワークを使った方がよいのか。考えるべきことは山ほどあります。どの方法がいいかは答えはありません。A君にはわかりやすいが、Bさんにはわかりにくいということはよくあることです。
 ここでは授業をどのように計画するかを考えます。それこそ、我々の腕の見せ所だと思います。

 すると、年間指導計画を立てるとき自分の教える教科の授業時間に対して、どの単元が何時間ぐらい授業ができるかがわかり、その時間の中で単元計画書を作成し、どこで何を教えるかが決定すると授業案が作れます。その結果、どの授業の時にどのようなスキルやテクニックを使って生徒たちに指導するかが決まってきます。決して研究授業があるからといって無理やりICTを活用したり、意味もないのに話し合いをさせたりといったことはしてはいけないと思います。目的は生徒の成長なのですから、意味のない授業をすることは本末転倒だと思います。

まとめ

 1番目に目指すべき生徒像を具体的にイメージして、2番目にそのための確認方法を先に考えて、3番目にどのように教えるかを決定します。このように結果から考えていく方法のことを「逆向き設計」論といいます。これは京都大学 教育学研究科の西岡加名恵先生をはじめ多くの先生が推奨されている授業計画の方法です。
 生徒の評価方法を、テストの点数だけで評価していたり、授業態度や小テストの結果、ノートがきれいに書いてある。などで評価している先生は一度よく考えてみてください。それらは生徒に対して評価するための評価方法になっていませんか?本来教育における評価とは、生徒に対して君はこの観点においては○○の点でよいけれど、この観点についてはもっと○○したほうがいいよ。とフィードバックしてあげることにより成長を促すためのものだと思います。
 今、目の前にいる生徒たちがどのように成長してほしいかを、今一度考えてみてください。そこがスタートだと思います。

河合 英光(かわい ひでみつ)

岐阜県立可児工業高等学校 電気システム科 教諭
「生徒の成長のために我々は何ができるか」を最近よく考えています。そのための方法として「逆向き設計」論を実践しています。京都大学 E.Forum所属

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