「答えを出さない生成AI」と探究を進める ―「問い」を返す設計の実際
前回は、探究活動で生成AIを「どこまで任せ、どこから伴走するのか」という捉え方について考えてみました。
今回はその続きとして、実際に授業や面談で使っているカスタムAIアシスタントGems(Skillsと名称・機能変更)とNotebookLM(Gemini Notebook)を取り上げ、どのような場面で、どのような考えのもとで使い、何をどこまで任せているのかを、具体的にお伝えしたいと思います。
根底にあるのは、生成AIに答えを出させるのではなく、問いを返させるという設計です。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
問いを返すGems
テーマ決めで「探究の所有権」を手放さない
前回も触れたように、「地域活性化のアイデアをください」とそのままの指示で尋ねると、もっともらしい案が並び、生徒の思考はそこで止まりがちです。
探究の問いを生成AIにすぐ投げることは個人的におすすめできません。日頃の生徒たちの持つ「もやもや」「五感を通して感じたこと」「自分たちの生活経験に根ざした問い」こそ大切だからです。
しかし、デジタルツールを日常的に使う生徒たちは、早急に答えを求めてしまいがちです。そこでテーマ決めの場面においては、私が作成した「問いの多角化Bot」というGemsを試行的に使わせています。
キーワードやアイデアを入力すると、「それは若者と高齢者のどちらに向けた提案ですか」「反論が出そうな点はどこでしょう」といった、思考を深める三つの問いを返してくれます。
このGemsには「すぐ答えを出さないこと」や「背景や理由を常に問う姿勢を持つこと」をあらかじめ学習させています。
ChatGPTやClaudeなどでも、このようなカスタムAIアシスタントを作成することは可能です。教員の思いを乗せたGemsをあらかじめ作成したうえで、生徒に利用させることをおすすめします。
また、ここで大切にしているのは順番です。まず生徒自身の一次体験やモヤモヤを出させ、そのうえで視点を増幅・多角化させるために使います。模範解答に飛びついてしまうと、自分の問いという手応えを損なってしまうように感じるからです。
思考の代行ではなく、深掘りのための壁打ち相手として位置づけています。
NotebookLM
一次情報は足で集め、生成AIは「自分専用のデータベース」に
日々の探究では、フィールドワークやインタビュー、文献調査といった一次情報の収集は、生徒自身が行います。そこで得たメモや日記、論文、資料をNotebookLMに蓄積し、生成AIを自分専用のデータベース、または資料に根拠を限定した自分用のリサーチノートにします。
任せるのは、情報の蓄積と、資料に基づく客観的な論理チェック、次の活動の選択肢を示してもらうところまでです。AIが扱えるのは、入力された記録と言語化された範囲です。
身体感覚や場の空気、その場での葛藤をそのまま経験することはできません。むしろ生徒の一次体験は、ますます大切になると考えています。
使い方の工夫として、「選択した資料だけを根拠にする」「資料にないことは推測しない」「私の代わりに結論を決めず、次に確かめるべきことを問いで示す」といった共通の指示を添えています。
これを場面別にまとめた「指導プロンプト集」も作り、伴走の過程で必要に応じて示しています。
はじめのうちは、条件文を事例として見せるのも一案だと思います。こうして作った指示文やGemsは使い捨てにせず、先生方とも共有するようにしています。
それぞれが個別に工夫するだけでは、学校全体の底上げにはつながりにくいと感じるからです。
また「音声解説」では、自分の探究が第三者の対話として語られるのを聞くことで、全体像や強み・弱みを俯瞰するメタ認知につながります。
条件文にも「生徒自身が動くべき部分と、情報収集を図るべき部分を意識すること」などと入れると、希望に沿った内容になる点も利点です。
日々の探究と成果物を支えるGems
振り返り・検証・評価の基準を「対話」で
毎週のゼミの終わりには「振り返りBot」を使い、その日の事実、解釈、まだ分からないことを整理しながら、次回までの課題を決めていきます。仮説や考察には「探究ロジックチェッカー」が安易に同調せず、論理の飛躍や根拠の不足に生徒自身が気づけるよう問い返します。
生徒たちは探究で行き詰まると、「とりあえずアンケートをとりたい」といった目先の活動(手段)に安易に飛びつきがちです。もちろん、探究を深め、前進するためにフィールドワークやアンケート、インタビューが必要なこともあります。
いずれにしても、限られた機会を有効にしてもらえるように、目的や調査方法を確かめ、壁打ちするための事前Botも用意しました。
成果物作成の段階では「ルーブリック評価Bot」です。
レポートや発表原稿を読み込ませると、学校で作成し、生成AIに学習させたルーブリックに基づいて、参考評価と助言が返ってきます。
リハーサルや発表、提出の前に使わせ、いわば教員のアシスタントを務めてもらいます。ただし、すべての工程にBotを作ればよいとは限らず、場面を選ぶことも必要だと感じています。
また、これらの参考評価以外に、対話による評価、プレゼン大会における外部や大人たち、仲間の声、メッセージなど評価や助言も取り入れています。これにより、生成AIが提示する評価や助言を絶対視しない姿勢を育むことにつなげています。
繰り返しとなりますが、注意が必要なことは、最終的な評価を自動化するものではなく、提出前に生徒が自分の成果物を見直すためのアシスタントだということです。
最終的な評価と助言では、やはり教員が生徒と対話し、発表の過程を見ることが大切だと感じています。
どこまで任せ、どこから人が担うのか
教員用Gemsと「第二の伴走者」の役割
生徒だけではなく、ともに伴走する先生方向けには「探究指導パートナー」というGemsを試行的に作りました。生徒の状況や悩みを入力すると、つまずきの本質を分析し、面談でそのまま使える問いかけの事例を示してくれます。
発問の引き出しを増やす壁打ち相手になるのではないか、という仮説のもとで試用しているところです。もちろん、このGemsも伴走方法の一案を提示してくれるような位置づけです。伴走教員同士の対話や、さまざまな伴走方法の共有が大切なことは言うまでもありません。
整理すると、任せるのは蓄積、論理チェック、視点の増幅、参考評価まで。
一方で、人が担うのは、「何を問うか」「何に興味や情熱を持つか」「何を目指すか」、そして「どうやってモチベーションを保つか」という点だと感じています。
目標の意味づけや継続を支えることは、生成AIだけに委ねるべきではない領域であり、ここが、伴走教員の本領でもあると思います。もっとも、完璧な使い方がどこかにあるわけではなく、生徒の反応を見ながら検証を重ね、あるべき座標を先生方と探っているのが実情です。
さらに、生成AIとの対話履歴を探究の記録として残し、対話を通じて自分の考えがどう変わったかを、生徒と一緒に画面を見ながら振り返ることも試みています。
生成AIで代替できない伴走を意識しつつ、生成AIとともに指導する。それが前回お話しした「第二の伴走者」との付き合い方ではないでしょうか。
次回は、こうした実践を学校に根づかせるためのガイドラインや教員研修、運用上で注意してきたこと、教科学習との連携についてお伝えできればと思います。
参考資料

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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