2024.06.07
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6年生歴史学習「古橋廣之進」

前回は、5年生の実践でしたので、学年順ということで6年生の実践を紹介させていただきます。今回の実践は私が所属している教育サークル「山の麓の会」が2020年に上梓しました『歴史人物エピソードからつくる社会科授業42+α』(明治図書)の検証授業として実践したものです。小学校の歴史学習では、人物に焦点をあてて学習をしていくことが多いでしょう。今回は「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説―社会編」(2018)に示されている42人の人物ではない「古橋廣之進」を教材化しました。「フジヤマのトビウオ」と評された人物です。戦後の復興といえば、インフラのイメージがあると思いますが、戦後の人々の「心の復興」の意味合いとして教材化できないかとサークルメンバーで練り合いました。読者の皆様でご存知ない方はぜひ調べてみてください。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

導入:写真と受賞歴から

前文で述べましたように、学習指導要領では教材として取り上げる歴史上の人物として42人が示されています。教科書や資料集などにおいて大抵は絵や写真等があります。そのため、子どもたちは何かしら目にしたことがある可能性が高いでしょう。特に歴史が好きな子(クラスに何人かは必ずいますよね)などは、教科書や資料集を隅々まで読んでよく知っていることがあると思います。しかし、さすがに古橋廣之進(ふるはし ひろのしん)の写真を見たことがある人は少ないと考えての導入です。

まず、子どもたちに「この人はだれかわかりますか?」と古橋廣之進の写真(顔だけ)を提示します。驚いたのですが、「名前は知らないけど見たことがある」という子もいました。しかし、全員がだれかわからないわけです。このように新しく教材開発する良さの一つは、「全員が知らない」というどの子も同じ土俵からのスタートになることです。

「戦後の人物であること」「中日文化賞・紫綬褒章・文化功労章・名誉都民・文化勲章など、数多く表彰されていること」「戦後日本の救世主・国民の希望の灯・戦後日本のヒーロー」と言われていることを提示してどんな人物か予想しました。

先生:今まででてきた知識をもとに、こんな人では?という予想をしてください
子ども:経済を回復させた人

先生:なるほど。面白い意見ですね
子ども:新しいものをつくった科学者
子ども:空襲のまちを復興した人
子ども:現代の日本をつくった人

先生:それ具体的にもうちょっと言えますか?
子ども:えーっと、オリンピックとかそういう…

先生:オリンピックの選手?
子ども:オリンピックの聖火ランナーとか…
子ども:メジャーで活躍した人

先生:それ野球?
子ども:うん。野球やと思う。だっておりそう

そして、泳いでいる写真を提示し、人物名とオリンピックの水泳選手であることを伝えます。歴史学習の中でスポーツ選手が出てくることはあまりありませんので、子どもの熱量が少し上昇する感じがあります。

調べる:資料「人物年表」

古橋廣之進 人物年表

「戦後日本の救世主」と言われる人物とはどのような人物なのか。
自作の人物年表(図1)を資料として渡し、自分が「一番これがすごい」という思う場所を決めます。以下のようなものがでてきました。

・1940年小学生で水泳日本一になった
・1948年、400m自由形、1500m自由形で世界記録を出す。しかし非公認
・1949年、3種目で世界記録を出す
・1952年の引退までに出した世界記録は34回
・1985年、日本水泳連盟会長に就任

子どもが発言したものをもとに、年代とその当時の社会情勢を補説していきます。とくに、「日本や世界の主な出来事」の項目について戦争が終わった直後のことや、まだ日本が独立していないことなどは人物年表の右の項目「日本や世界の主な出来事」で確認します。ここが6年生としての歴史学習の意味合いとなります。

そして、1949年の古橋廣之進が世界記録を出した全米選手権の動画を見たあと、全米選手権に出場前と出場後のアメリカの古橋や日本に対する対応や新聞記事を紹介します。

出場前

・「行けば殺されるからやめとけ」と日本人にとめられる
・ホテルに宿泊できないため、昔から住んでいる日本人のところに宿泊する
・「ジャップ」と言われていた
・「日本のプールの長さは短い」という新聞記事がでる

出場後

・祝福するパレードが開かれる
・万年筆・チョコレート・キャンディ・時計のプレゼントをもらう
・「ジャップ」が「ジャパニーズ」に変わる
・「日本のプールの長さは短い」という記事を謝罪する新聞記事がでる。  

考える:日本人の気持ちは?

板書

先生:古橋廣之進が世界記録を出し、アメリカの対応が変わったことを知った日本人はどういう気持ちでしょうか?
子ども:アメリカを見返すことができた

先生:日本が下に見られないようになる
子ども:水泳では勝った。みとめられるだろう

先生:どこにみとめられるようになるのかな?
子ども:アメリカとか…。
子ども:アメリカだけはなく、他の…世界からも。
子ども:日本は強いということを示すことができた
子ども:古橋は日本の神様だ

先生:それも面白い表現ですね。みなさんには「どういう気持ち?」ってきいた瞬間に日本とかアメリカとか国の話になってくるね。やっぱり。そこらへんがすごく面白いですね。戦後にはほとんど人物はでてこないんですけど、ぜひ古橋は覚えてくださいね。

小学校の社会科では、人物に焦点を当てることで、やはり子どもの興味・関心を高めやすいと思います。地域には歴史の授業として取り上げることができる人物もいるかもしれません。中学年の学習としてではなく、6年生の歴史学習としての位置づけが難しいことも多いですが、地域に関わる人物を発掘し、授業をつくりたいと考えています。

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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