レジリエンス
教職生活を続けていると困難な出来事が起こることはわりとあるのではないでしょうか?その困難さは大小さまざまあるでしょうが、対人援助職である教員は、「ひと」を相手として仕事をしているために、自分でコントロールできる範囲に限界があります。本校の夏の研修に来て下さった愛媛大学の白松賢先生が言われていた「子ども相手の仕事ですから基本的にうまくいかないことが前提にあると思います」という言葉が印象に残っています。
しかし、頭ではわかっていてもうまくいかないことがあると落ち込みますし、できれば避けたいと思ってしまいます。
今回はその対処の方法や在り方を自分の経験をもとに書かせていただきます。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
ポジティブ心理学
ある年ですが、5年生から持ち上がったクラスの中に、発達に課題のある男子がいました。5年生の時は私との関係はまずまずだったのですが、6年生になり、周りの子どもたちの人間関係も変わっていき、その子の行動の対応に苦慮している時期がありました。今から思うと、その子を私の枠の中にいれようとしすぎていたのかなと思うのですが、それが引き金となり、クラスの雰囲気が重たくなっていきました。自分としても「何かうまくいかない・・」とかなり精神的につらい時期でした。このままだと自分の心がよくないと危機感を覚え、何とかしたいと思っていたときに出会ったのが「ポジティブ心理学」でした。
勉強会で知り合った方に教えていただいたのですが、通常というか一般的には心理学は「心の状態が良くない、マイナスな状態をどうするか」というところからの研究ですが、そうではなく、通常の心理や良い状態の心理についての研究も重要であるとの考えから「ポジティブ心理学」が生まれたようです。
一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会によると「私たち一人ひとりの人生や、私たちの属する組織や社会のあり方が、本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そのような状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域である」と定義づけられています。ペンシルベニア大学のマーティン・E・P・セリグマン博士によって発議、創設されたようですが、このセリグマン博士は、かの有名な「学習性無力感」研究の第一人者でもあります。
レジリエンス
ポジティブ心理学の書籍を読む中で、「レジリエンス」という概念があることを知りました。「逆境や困難から立ち直る力」「日常的なストレスに対処する力」「外的な衝撃にも、ぽきっと折れてしまわず、しなやかに立ち直る強さ」などと定義づけられており、その当時の私に必要な力だと思いました。
私が読んだ書籍には、レジリエンスをつけるための7つのスキル
① 自分をABC分析する ②「思考のワナ」を避ける ③氷山を見つける ④ 思い込みに挑む ⑤大局的にとらえる ⑥心を静める ⑦自分の思考に反論をする
が述べられているのですが、自分にとって大変効果的だったのが、①と②です。
ABC分析
私たちはある「出来事」(Activating Eventiko=逆境・困難)を経験したときに、苦しみや悲しみといった感情が出てきて行動をします(Consequence=感情・行動)。しかし、実はそうではなく、「出来事」と「結果としての感情や行動」の間にもう一段階あります。それが、「出来事をどのように認識して解釈したか」という思考のプロセス(Belief=思考・信念)です。つまり、「A 出来事」に対して自分の「B 解釈」がなされ、それをもとに「C 感情・行動」が起こる、という流れになります、そのため、「B 解釈」をいかに捉え直すかがポイントになります。
さらに「解釈」を掘り下げることも大切で、例えば「怒り」という感情が湧き上がってきたときに、なぜ「怒り」が湧き上がるのかを考えるのです。例えば、クラスの子が自分の指示に対して「意味ないやん」という返答をした時は、私はイラッとしますが、なぜ「イラッ」という感情が沸き起こるのかを考えるわけです。「自分のことをバカにされた」「指導者としてのメンツをつぶした」「この言葉を許したら他の子に示しつかない」といった解釈があることを考えていくわけです。そうすると、その子がなぜそんな言葉を言ったのかというその子なりの文脈を考える余地が出てくると思います。そこで、その子と私との関係性やその子の背景などの要因を見るきっかけともなります。
しかし、私がこのABC分析(理論)を知って一番が良かったと思うのは、感情的な対応が減ったからです。出来事をどう解釈するかがポイントと考えておけば、感情が湧き上がってきたときに、一旦冷静になることができます。大きな意味でのメタ認知なのでしょうが、感情に振り回されなくなる感じをつかむことができました。ただ、今でも修行中です・・。
思考のワナ
困難な出来事に出会い、心のエネルギーが低下してくると特に多くなるのが「思考のワナ」で8つあるそうです。
①早とちり ②視野狭窄 ③拡大化・極小化 ④個人化 ⑤外面化 ⑥過度の一般化 ⑦マインドリーディング ⑧感情の理由づけ
詳しくは書籍で確かめていただきたいですが、自分の傾向としては③と④が多いと思っています。
③拡大化・極小化というのは、出来事を過大評価したり過小評価したりすることで、小さなマイナス面でも大げさに捉えてしまうことです。私の場合はそれが気になって、はやくその不安を解消したくなり、即行動したり、ご機嫌をとるような行動になってしまうことが往々にしてあります。頭でわかっていてもやってしまうことがあります。
もう一つは④の個人化です。「何か問題は起こると、なんでもかんでも反射的に自分のせいだと考え、自身の能力や責任が及ばない範囲のことでもそのように捉える」ことで、「そういう傾向があるのかも」と思っています。自分の中で、「人のせいにすることがかっこ悪いこと」という強い信念がありますので、それがひとつの要因かもと思いますが、この「個人化」のことを考えすぎるのも危険だと考えています。
安定して子どもの前に立つために
レジリエンスの基礎になる部分で、自分が役に立ったと思うものを紹介してきましたが、自分の心を軽くするのは大事ですが、出来事の原因や要因を正確に、誠実の考えることこそ大切だと自戒を込めて思います。
何より教師は子どもの前に立つときには、安定して立ちたいと思います。笑顔で感情が安定している先生に子どもはよってきやすいでしょうから。
関連リンク
参考資料
石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)