どうも、今村です。
酷暑が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
本校では、7月の終わりに5、6年生の臨海学校がありました。千葉のとある浜に行き、遠泳を行います。それらの引率が終わり、ようやく一息つくと言う感じです。
臨海学校は、子どもたちにとって挑戦の連続です。足の付かない場所を泳ぐという恐怖もありますし(中には「人生で初めて海に来た!」という子も!)、長い距離、時間を泳ぐというチャレンジもあります。心細くなったり、不安になったり、これまでの自信が揺らいでしまう瞬間もあります。その中でこそ、それぞれに「覚悟が決まるとき」もあります。臨海という一種の非日常、極限状況だからこそ、それが見えやすいということもあります。今回は、その中で考えたことを書きます。
漫画の背景のような
漫画で、フキダシのほかに、背景に書かれた手書きの文字がありますよね。物理的な音を表していることもありますが、登場人物の心情を表していることもあります。実際には鳴っていない音だけど、「まさに!」と思わされる擬音語に出会うこともしばしばですよね。
子どもたちを見ていて、そういう音が確かに聴こえる、見えるようなことがあります。
例えば、「ブワァー」という音が聴こえることがあります。これは「あ、今スイッチ入ったな」ということが、こちら側からも見えやすいパターンです。泳ぎ始める時は不安な表情をしていたけれど、泳ぎ切って自信が芽生えてきて、表情が変わる瞬間がある。そのような時の音です。
同じような音に「ドンッ!」もありますね。こちらも、見ていて今覚悟決めたんだな、ということがわかりやすい。不安がないわけではないけれど、仲間を信頼して、その不安を克服している人の音が、周りの空気を震わすようなイメージです。
このように、傍目からも伝わってきやすい音というものがあります。一方で、派手ではない、一見静かな音もあるように感じます。
注意深くいないと見えない音
例えば「スー」という音。今この瞬間に「ドンッ!」というわけではないのですが、迷いが消え去ってゆき、表情が澄んでいくようなことがあります。まるで初めからそのような自信を持っていたように見えるのですが、確実にその子の中での何かが変わっている。
「しん」という音もあります。あえてこれは「シン」ではなく「しん」と平仮名で書きたいのですが、「音が消える時の音」と言いますか。その子の周りにあった雑念、雑音が消えて、自分の目標に向けた道筋を見出した時の音です。
このような音は、私の目には、注意深く見ようとしないとまだ見えない音です。そして私が気付かないところで、そのような音を奏でながら、覚悟を決めていく人たちがたくさんいるのだろうと思います。
そのように考えると、自分がいかに、聴きたいものを聴いているか、見たいものだけを見ているか、ということを痛感せずにはいられません。音の大小、自分にとっての見えやすさだけに反応しているだけ。自分の物差しで「いいね!」と感じられる音は目に飛び込んできますが、そうでないものは自分の目には存在しないも同然になってしまっている。
確かにそこで起こっていることが、目の前の大人によって無きことにされるということは、やっぱりしたくないです。
様々な「極限状況」の中で
また、繰り返しになりますが、臨海学校という一種の極限状況は、子どもたちの変化が訪れやすい機会です。ですから、そこでの変化、覚悟が決まる瞬間を見つめようという私の心の準備もできています。その中で気付けることがある。気付こうと努めて注意深く見ることで、聴こえる音もある。
でも、きっとそのような「一種の極限状況」って様々なところにあるのではないか。臨海学校という、ほぼ全員が直面する状況は見えやすい。でも臨海学校で泳ぐことにはなんの恐怖も感じずに笑顔で乗り切る子が、教室の中でのある状況で立ち尽くす、ということはいくらでもあります。Aさんにとっては国語の授業が「一種の極限状況」かもしれないし、Bさんにとっては委員会活動が「一種の極限状況」かもしれない。「学校に来る」ということそのものに、大きな勇気を必要とすることだって、ある。
教師の私にとってはなんてことない日常の営みのように見えていることが、その子にとっては「一種の極限状況」かもしれない。
そうすると、改めて私は多くの「覚悟の音」を聴き逃し、見逃してきたのではないか、とハッとさせられます。
いろんな状況で、いろんな「覚悟の音」が鳴っている。
今、自分の耳には聴こえない音が、たくさん鳴っているのではないか。
そういう畏れとワクワクを抱くことからだな、と思っています。そして耳と目を澄ませていきます。
自分からどんな音が鳴っているのかもまだわからないわけですし。
音を互いに聴き合おうとする関係を築けたら、と思います。
今村 行(いまむら すすむ)
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、
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