2024.03.19
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論文から学ぶ(2)

前回に引き続き「論文から学ぶ」ということで、授業づくりや日常の業務のために自分が参考にしている点について書かせていただきます。
全く理解できないものや「こんな実践はどうやってするのか」と思うときもありますが、その自分なりの「わからなさ」を実感することも必要だと考えています。
今回紹介している論文はぜひチェックしてみてください。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

④教材の面白さ

前回、私が論文から学んでいることとして、①学問としての位置づけ、②問い(リサーチ・クエスチョン)の面白さ、③問い(リサーチ・クエスチョン)の設定までの経緯、について書かせていただきました。

今回は以下の4点についてです。

④教材の面白さ
⑤授業デザインの面白さ
⑥評価方法
⑦先行研究との出合い

まずは、「④教材の面白さ」です。
草原(2015)は、教科を問わず、最大公約数的な指標となる論文の条件として「実証性」「新規性」「論理性」「批判可能性」があるのではと述べています。その中でも特に「新規性(過去の研究や他者の実践の到達点をどのように、どの程度乗り越えているのか)」は重要な要素となると思います。
これまで積み上げられてきた学問の知見をどう更新したり、開発したりするのかという点において、教材が面白い、刺激的なものがたくさんあると思います。

例として挙げるとしても枚挙にいとまがないでしょうが、例えば角田・片上(2004)の論文は、日本の産業学習の農業の学習において「酪農」を教材化しています。日本において総じて困難な状況にある酪農を取り上げ、「なぜそのような工夫をしているのか」という【個人の側からのわかり方】だけでなく、「なぜそのような工夫が必要になるのか」という【社会の側からのわかり方】が必要であり、そのことが農家の生活を規定している仕組みや農業を取り巻く社会の仕組みを理解することにつながることをねらいとする論文です。「日本の農業=米作り」という教材化の固定観念しかない自分としては目から鱗という感じでした。

また、紙田(2010)は、6年生の江戸時代の歴史学習において「石見銀山」を教材化しています。子どもが主観的に歴史を捉える歴史学習ではなく、歴史的事象の背後にある構造を理解するために、石見銀山の「採掘」「精錬」「開発・経営」「運輸」の移り変わりが、市場経済へと移行していく江戸システムの特徴の一端を理解することができる教材として扱われています。
時間的にも子どもの理解度的にもかなりハードな実践だと感じますが、地域の素材を教材化し、歴史学習の中に位置付ける面白さを十二分に味わうことができる論文だと思います。

⑤授業デザインの面白さ

開発的・実践的研究には、汎用的に実践に活かせるように「授業モデル」や「授業構成」が提案されることが多くあります。これらを数多く知ることで、授業デザインにおいて参考にできることがたくさんありますし、自分の選択肢が増えます。
今までの個人的な経験として授業デザインといえば、「つかむ」「調べる」「まとめる」とか「つかむ」「調べる」「考える」「生かす」といったような学習過程の話になってしまうイメージがあるので、論文から多くの授業モデルや授業構成を知っておくことは実践にも活用できると思います。

 例えば長川(2021)の論文では、「この社会問題をどのように解決したらよいか」といった社会問題の解決を急がせ、形式や活動のみになってしまっているという問題意識をもとに、まずは子どもが社会問題を「みんなで考えるべき問題だ」と自覚。自律的に政策を提案することが必要だという主張によって授業デザイン(授業構成)を提案しています。子どもが社会問題を丁寧にとらえるという意味でも大変参考にさせてもらっています。

また,佐藤(2010)は、仮説的推論によって「立場の視点」を切り替えていくことで、小学校3年生段階では難しい経済概念を獲得する実践を論文化しています。スーパーマーケットの学習ですから、大変汎用性が高いと思います。

この実践を小田(2012)が「立場の視点」によって単元デザインを以下のような段階で説明しています。

第1段階・・・消費者視点の取得
第2段階・・・消費者から販売者への視点の切り替え
第3段階・・・販売者の視点の取得
第4段階・・・消費者・販売者の両視点の統合

この視点の転換は示唆に富んでいると思います。

⑥評価方法

授業づくりにおいて評価は永遠の課題ではないでしょうか。これまでいろいろな先輩達に「評価の研究は、評価のための授業になるから気をつける必要がある」と口酸っぱく言われていました。
日々の授業や学期末の総括的評価などで実際に困っている現状があるので、評価のための論文も参考になるものはたくさんあると思います。

例えば、大島(2020)は「主体的に学習に取り組む態度」において、「問い」を立てることができることが「知りたい」という主体的な気持ちの表れとして、単元の学習問題解決後に表出する「新たな問い」を評価対象とする提案がなされています。

評価規準としては

A:「新たな問い」が、①新たな社会事象への応用、②深まった問いの発見、探究、③価値分析・未来予測、に当てはまっており、単元の学習で習得した知識をもとに問いの理由付けができている。

B:「新たな問い」が、①新たな社会事象への応用、②深まった問いの発見、探究、③価値分析・未来予測、にあてはまっている。

C:A,Bの規準を満たしていない

と提案されています。

一例としては、農業の学習を終えた後に、①は「林業でも農業と同じようにICTを活用した工夫があるのだろうか」といった記述。
②は、「品種改良は具体的にどうするのか」といった記述。
③は「このまま農業で働く人たちが減ったら、お米の生産はどうなってしまうのだろうか」といった記述が考えられるかもしれません。

この提案の是非の議論はあるでしょうが、間違いなく一考の価値はあると思います。

⑦先行研究との出合い

これは、だれもが納得してもらえるのではないでしょうか。論文は先行研究・先行文献の明示がありますし、そこから芋づる式に様々なものに出合うことができます。
大学の先生から論文の内容よりもまずは先行文献・先行研究に何が明示されているのかを見るとお聞きしたこともあります。この先行研究・先行文献から自分の嗜好性も改めて確認できたりして、先行研究を探ることは、自分の中では趣味のようになってしまいます。

論文は、日々忙しく実践されている方にとっては忌避感をお持ちの方もおられると思いますが、そんな方にも少しでも興味・関心を持っていただけたらと思い、書きました。
現在は、Google ScholarやCiNiiなどですぐに検索ができます。ぜひチェックしてみてください。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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