2024.02.28
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論文から学ぶ(1)

今回は「論文から学ぶ」ということで、授業づくりや日常の業務のために参考にしていることを書かせていただきます。
子どものための教師の学びとして様々な教育書や実践記録と共に「論文」は学問の知見として知的好奇心が喚起され、実際に活用できることも多々ありました。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

論文との出合い

学級経営や日常の授業づくりにおいて、先人の実践の蓄積から学ぶことが基本でしょう。初任から7~8年目くらいまでは、学校にいる先輩や同僚から山ほど学びました。自分自身が初任から数限りない失敗をしていましたので、いわゆる「普通」(自分の中では、子どもに反発されることなく、それなりの関係で過ごす)に1年間を終えることが目標となっていました。自分でも何となく情けない目標だと思いながらもそれだけでも大変だと感じていました。だからこそ、学校にいる方すべての人から学ぶことができると思っていたように思います。
気になれば質問をし、参考にさせていただいていました。こうやって文字に起こすと「模範的な新人」のように思われるかもしれませんが、そういうことではなく、そうしないと不安だったのです。この時期は、論文はおろか、教育書さえもあまり読んでいなかったように思います。理由は簡単で、読むと不安になるからでした。きらびやかな素晴らしい、正しい実践が並んでおり、「面白い」ではなく、「自分はそんなことはできていない」という思考にしかなりませんでした。

しかし、少しずつ自分なりに工夫したことに手ごたえを感じてくるようになると、「読める」ようになってきました。書籍からの学びを実感してくるようになり、学校外のセミナーや講座に出かけるようにもなってきました。そこで出会う「ひと」からの学びが一番大きいのですが、そこで出会う方たちがよく口にされていた「先行実践」「先行研究」という語彙がひっかかりました。
大学時代に学んだはずですが、何も覚えていませんし、自分の興味・関心には全くひっかかっていませんでした。その語彙にひっかかりつつも、教育書にはあまり掲載されていません(最近は明示されることが多くなってきた印象ですが)。しかし、自分なりに「先行実践」「先行研究」を調べるようになっていきました。そこで論文に出合うようになりました。「基本中の基本なのに何を堂々と書いているんだ」とお叱りをうけそうですが、それくらい学問には「無知」でした。

論文から学ぶ

学問における財産としての論文ですが、査読があろうとなかろうと様々な学びを頂いています。論文にも様々な種類がありますが、個人的には主に授業づくりで参考にさせてもらうことが多いので「開発的・実践的研究」が中心となっている気がします。「開発的・実践的研究」を橋本(2015)は以下の二つに分類しています。

①教育方法、教材、授業(指導案)、カリキュラム、評価方法の開発までを射程にいれた研究

②①を踏まえ開発した授業等を実践にかけ、その授業の検証・再構築等を行う研究

実際に実践されているものは、それだけで参考になります。必ず成果と課題も明記されていますので、課題を踏まえて自分がどうするのかを考えることもできますし、実践されていないものでも「これはやってみたい」と思うことも多々あります。私が論文から学んでいることは以下の7点です。

①学問としての位置づけ
②問い(リサーチ・クエスチョン)の面白さ
③問い(リサーチ・クエスチョン)の設定までの経緯
④教材の面白さ
⑤授業デザインの面白さ
⑥評価方法
⑦先行研究との出合い

①学問としての位置づけ

論文は、基本的に先行研究を踏まえて、その論文が学問的にどういう位置づけになるのかを述べています。そこで初めてその学問の広さや深さを知ることになります。例えば社会科教育学の中で、「授業構成論で言えば・・・」などと出てくれば、社会科の授業において「理解主義社会科」「説明主義社会科」「意思決定型」や「参加型」などある一定の分類がされていることを知ることができます。
それらをさらに探っていくことで、源流や経緯といった歴史を知ることができます。それが「どう授業づくりに役立つか」ということですが、カテゴライズの存在を知ることだけでも自分の授業の選択肢が広がることだと思っています。

②問い(リサーチ・クエスチョン)の面白さ

論文は自分で問いを立ててそれに答える文章なので、その「問い(リサーチ・クエスチョン:Research Question)が最重要となります。そして問いは、これまで解明されていなかったことや曖昧だったことが設定されますので、「それが知りたかった」というものが多く、知的好奇心を刺激されます。

「主体的に学習に取り組む態度はどのように評価すればよいか」
「小学校社会科授業における対話とは何か」
など、現在の教育的な話題の中心にあるものはもちろん、
「みんなが幸せになれるような社会の実現するための『判断の基準』を個々の子どもたちがどう創り上げていくのか」
「論争問題において一部生徒の『論破』と『議論支配』の回避法」
などほんの一例ですが、「そういえば困っているな」「普段は仕方がないとあきらめているな」「あまり考えていないな」というようなことを思い起こさせてくれる感じがします。
論文を実際に書くとなるとその大変さと奥深さが想像できるだけに、どんな問いが立っているだけでもチェックする価値はあるように思います。

③問い(リサーチ・クエスチョン)の設定までの経緯

②と関連しますが、どういう経緯で「問い」が決められたのかを知ることも大きな学びです。視点をどこにするかなど参考になることが多いです。
例えば、紙田(2023)は、地域学習において、地域の課題解決が生活関連サービスの維持、生活・労働・消費行動の市場化など、市場主義的価値観にあわせた政策の提案になっていることを指摘しています。しかし、実際にはそのような一般的な価値観ではなく、信頼性や互恵関係など、利益だけではない地域独特の価値観によって課題解決をしていく場合もあるのはないかと地域資源や文化を「批判的に肯定する」授業について提案しています。

また、金・渡邊・川口・草原(2020)は、主権者教育が求められている中、社会科授業において日本では「政治的中立性」のために、授業で政治的事象を取り上げることがタブーになっていることを指摘し、本当にそれでよいのかと16歳から選挙権があるオーストリアの政治教育を行う教師の授業を分析して、その考え方を提案しています。
論文そのものが「新規性」が求められるだけに「新しい知見として当然のこと」とも言われそうですが、自分が日常で困っていることや疑問に思っていることが実は価値があり、それを解決していくことこそ、研究だと考えると知的に楽しくなってきます。

残りの④~⑦の視点については、次回に書かせていただきます。

参考資料
  • 草原和博・溝口和弘・桑原敏典編著(2015)『社会科教育学研究法ハンドブック』明治図書
  • 佐藤孔美(2021)「小学校での社会的論争問題学習における『判断の基準』の構築」社会科教育研究.No.143, pp.74-85
  • 渡部竜也・臼井太一(2022)「論争問題の議論における一部生徒の『論破』『議論支配』の回避法」社会系教科教育学研究,第34号,pp.11-20
  • 金鐘成・渡邊巧・川口広美・草原和博(2020)「オーストリアの政治教育の教師は政治的中立性をどのように理解し実践しているか?」『社会科研究』第92号, pp.1-12
  • 紙田路子(2023)「価値判断基準の再構築における地域学習の意義―『批判的に肯定する』 地域学習の授業構成―」社会科教育研究.No.149,pp.21-33

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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