2024.02.10
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

不安と自己肯定感について

必ずしも不安がいけなくて、自己肯定感がいいもの、だと感じられなくて。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

Why?

どうも今村です。
いろんなときに自分に対して「Why?」を問う癖があります。「なぜ」だったり「どうして」だったり「本当にそうかな?」だったりしますが、イメージとしてはまとめて「Why?」がとてもしっくりきています。

指導書通りではなく、この方が授業は面白くなるのではないか…そう思った自分に対して、「なぜ君はそう思ったの?」と問う。
あるいは子どもの些細な言動に、自分がひどく傷付いている…そんな自分に対して「どうして君はそんなに傷付いているの?」と問う。
そんなふうに、日々当たり前のように「Why?」を繰り返しています。
自分というものが、未だによくわかりません。

自分という謎に対して、興味が尽きない。それは、自分のことが大好き!というのとはちょっと違うような気がします。観察対象として、まだまだ謎が多いのです。
教室の子どもたちは自分の鏡であるとしばしば言われますが、本当にそうだなと実感することが多いです。子どもの姿を通して、鏡に映った自分自身に向けて「Why?」を投げかける機会が非常に多いと感じています。
だから、飽きない。

不安のフェーズ

「不安」というものについて考えてみましょう。
例えば、学級担任として初めて子どもの前に立った時。
ものすごく緊張していましたし、ものすごく不安でした。その不安を、今でもじっとりとした脂汗のような感触で覚えています。
その当時の自分に、「Why?」を投げかけてみます。なぜ、自分はそこまで不安だったのでしょうか。
そこで何が起こるのか見通しも立たないし、そこで自分が何をできるのかも全くわからない。どちらかといえば何もできないのではないかという気持ちの方が大きい。
子どもたちのことも、この仕事のことも、知りたいけれどまだ何も知らない。
だから、とても不安だったのではないかと思っています。
不安だったけれど、早くいろんな経験をしたい、と思っていたのも事実です。一つ一つの経験を通して、成長したいと思っていました。不安だから逃げ出したい、というわけじゃなかった。

今改めて振り返ってみると、そのような不安は、「きっと大切になるものを、これから大切にしていくためのスタートライン」だったのではないかと思います。

じゃあ、「きっと大切になるもの」を、実際に大切に思えるようになったら、不安はなくなったのか?
そういう問いが生まれてきます。

子どもと自分の関係が、決して悪くない、それなりにうまく回っている、と感じられる時も、学級がそれなりによい雰囲気、文化を形成しつつあるときも、不安はそこにあります。次の日教室に行って、学級崩壊するのではないか…そういう不安を、僕はけっこういつも感じています。うまくいってるように見えるときほど、油断できない。
Why?
「大切だから」です。
やることなすこと、恐る恐るやっている、という意味ではないんです。時に大胆に、子どもたちとこんなことを一緒にするのは価値があるんじゃないか!?と思ってチャレンジします。でもそのチャレンジって、全く安心しきって、絶対成功するとわかってるからやる、というわけでもないんです。絶対成功するということならチャレンジではそもそもありませんし。
でも、逃げ出したいわけじゃない。
不安を不安のままで受け止めて、ワクワクしているんです。
くれぐれも、ものすごく不安なんですけど(笑)
そのような不安は「大切なものを大切にし続けていくためのガソリン」とでも言えるかもしれません。

「きっとなんとかなる」と言って逃げ出していないか?

「きっとなんとかなる」と思うのは悪いことではないとは思います。
そういう「自己肯定感」のようなものがもてはやされる時代です。

ただ「きっとなんとかなる」と思いかけた時、一度「Why?」と自分に問いたい。
「きっとなんとかなる」がワクワクを制限してしまうことがあるのではないか?
「きっとなんとかなる」が思考を止めるスイッチになってしまっていないか?
「きっとなんとかなる」と思うときに、実は対象を大切に思えていないのではないか?

「不安」を賛美しているわけでもありません。「不安」に身を浸しているだけで、思考が動いていない状況だってありますから。
「不安」とか「自己肯定感」とかいったものを考えたり語ったりするときに、「Why?」と自分に問うた上で、言葉を使いたいと思っています。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop