2023.11.28
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紹介ということ

紹介って、紹介する側も、される側も、勝負ですよね。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。
世の中背筋伸びる思いになることって色々ありますが、一番は誰かに紹介されて新たな場所に踏み込むときです。(間違いないね)

例えば先輩の行きつけのお店に連れて行っていただくということも紹介の一つだと思いますが、ものすごく背筋が伸びる思いがします。そこには、先輩とお店の長年の信頼関係があるわけです。今村なら連れて行ってもいいかな、と思っていただいてそこに連れていっていただく。そこには、今村に対する期待と信頼もあるわけですね。それを裏切りたくない。
当然、先輩の顔に泥を塗るわけにはいかない。お店の方に「なぜこんなやつを連れてきたんだ?」と失望させてはいけない。僕がヘマをしたら、僕の評価が下がるだけでなく、こんな僕を連れてきてしまった先輩の評価も下がってしまいかねないんです。だからもう、ものすごく背筋が伸びるんです。

無限にある選択肢の中で

教員という場に身を置いていても、時々紹介ということがあります。
僕は東京都板橋区の紅梅小学校という学校に初任で勤めさせていただいて、その後今勤める学校に異動したわけですが、紅梅小時代に一緒に仕事をさせていただいた方が、新しい学校に異動されて、その学校の校内研が国語だったり生活・総合だったりすると、「今村という男がいる」ということで講師として呼んでくださることがあります。

それこそ校内研の講師というのは、選択肢が無限にあるわけです。その地域の教育委員会の指導主事の先生をお呼びすることもできるわけですし、大学の先生に来ていただくことだってできます。附属の小学校の一教員を呼ぶというのは、それなりにチャレンジングなのではないか?と思います。
例えばA先生がその学校の校内研で僕を呼びたいと紹介してくださって、その学校の校長先生もOKを出してくださってお邪魔するとして、やはりA先生の顔に泥を塗るようなことはできない。「なんでこんなやつを呼んだんだ」と思わせてしまったら、その学校におけるA先生の株も下がってしまうわけですよね。むしろ、「こんな面白いやつをよくぞ紹介してくれた」と、A先生の株がその学校の中で上がるようにしたい。

自分の価値はなんだ?

講師のような立場で呼んでいただいて、自分にどんな価値があるのだろう?ということは考えなければなりません。それこそ、無限にある選択肢の中から僕という人間を選んでくださっているからには、僕にしかない価値を示さなければならない。さらに一歩踏み込んで言えば、自分にしかない価値があると自分で信じられないのであれば、講師になんかノコノコと出ていくべきではありません。自分で「これは美味しい」と思えないものを、お客様に出すことはできない。傲慢だと言われようが「これは、美味しい。自分にしか出せない味だ」と信じられるところまで自分の表現を高めなければ、紹介してくださった方に対して失礼だと僕は思います。

講師に呼んでいただいて資料を作る際、必ず最初に井上ひさしさんの言葉を引用します。
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むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに書くこと
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僕は以前、難しい言葉を使えることがかっこいいと思っていました。その言葉を知らない人に対して丁寧に説明することもせず、「あ、この言葉、ご存じなかったですか」と偉そうな態度をとってしまうことすらありました。
ずいぶんと、頭がいいということを勘違いしていたと思います。

目の前で起こっていることに対して、自分の目で見て耳で聞いて肌で感じて考えたことを、自分の実感した言葉で表現する。それを、目の前の相手と共有するために、伝わる表現にしていく。そういうことが、まさに「全然簡単ではない」ことなんだと分かったのは、ここ数年の話だと思います。全然簡単ではない、と理解できたからこそ、僕の表現は、少しだけ人に伝わるマシなものになってきました。
そうして初めて「今村さんの話は、自分の立場に置き換えて聞くことができる」とか「その視点にハッとしました」とか「なぜ1時間授業を見ただけで、あの子のあの姿を見とることができたんですか?」とか、少しだけ評価していただけるようになりました。

怖いけど、怖くないことなんてやってる時間もないのかもしれない

A先生の株が上がって、今度は違うB先生が次の学校に行ったときに「今村という変な話をする男がいる」と紹介してくださって…という紹介の連鎖が生まれてきたりする。そしてまた、ものすごく背筋が伸びる思いがするわけです。

紹介という中で、背筋が伸び、なんとかその期待に応えていく。それは時に楽なことではないし、時間をかけ精神を注ぎ込み、やっと達成されることです。そして、時にはその紹介、期待に添えないことだってある。そういう時は、心底自分にがっかりします。でも、そこで立ち止まっているわけにもいかないんです。そこからどう学んだかを、次のチャンスにぶつけるしかない。怖いけど。でも、怖くないことになんて、自分の時間を使ってる暇はあるだろうか。
何者でもない自分ではあるけれど、緊張し、胸をバクバクさせ、それでもまた背筋を伸ばして向き合えるチャンスを、紹介という形でいただけること。本当に有難いことだと思っています。
(講師依頼のご紹介、お待ちしております 笑)

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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