2023.11.10
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書籍からの具体な学び~ 河崎かよ子編著『からだで学ぶ 地図の学習』(6)

今回は前回の「地図帳の活用」をうけて「書籍からの学びの具体その6」ということで、河崎かよ子氏編著の『からだで学ぶ 地図の学習』を取り上げます。地図学習の実践記録というのはあまり多くないので、地図学習を学ぶ上では大変重要で参考になる書籍だと思います。1989年初版ですから34年前の書籍ですが、そのエッセンスは今でも大いに参考になります。河崎かよ子氏という実践者一人、倉持祐三氏、木全清博氏、森脇健夫氏という三人の研究者が執筆という珍しいかたちになっています。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

からだで学ぶ地図の学習

そもそもこの書籍の題名になっている「からだで学ぶ地図学習」を森脇氏は以下のように定義づけています。

①地図を何かの目的のために使用する。
②地図を現地で歩く(地図をからだの中につくる)。
③歩ける地図を描く(からだの感覚を外に表現する)。

①については、地図があるから地図の指導をするのではなく、使う必要があるから地図を使う考え方です。子どもが「使いたい」とか「使うと便利」という状況や環境設定がポイントです。

②については、「地図を持って実際にその場を歩く、観察する」ということです。これは実際には歩いては立ち止まり、丁寧に確認していくことが必要だと思います。このような地図を見ながら目印や方角を確認して、歩いていく体験的な学習は、あくまでも私見ですが、実はあまり実践されていない印象があります。それよりも地図を所与のものとして「どこどこにお店がある」「図書館がある」などの地域の様子を把握することに力点が置かれていることが多いように思います。この学習時は各地域で作成されている縮尺の小さい(2000分の1とか2500分の1など)地図を活用すると効果的だと思います。国土地理院学校の25000分の1の地図だとまだ難しいかもしれません。丁寧にじっくりやるとかなり時間がかかるかもしれません。いわば時間との戦い、という感じもします。

③については、自分で地図が作成できるということです。3年生の「地域」の学習においてクラスで分担して作成する実践が多いかもしれません。実際に自分が地図を描くことは重要な学習でこれも時間がかかるでしょう。ただ、経験的に子どもはなぜか迷路を描くことは好きなように思います。その延長戦上に地図を描くことを位置付けることができるでしょう。

これら3つの方法はオリエンテーリングを発想の源にしていると述べられています。確かにオリエンテーリングが好きな子は地図を見ることも好きなように思います。

地図たんけん

本書の実践記録の一つに「地図たんけん」があります。この当時の1年生での実践です。具体的には次のような実践です。

①学校から自分の家までの地図を描き、道が曲がっているか、曲がり角がどうなっているか、道がどの道とつながっているかを意識させる。

②新聞紙を使った迷路地図づくりをし、新聞紙の道が右・左のどちらに曲がっているか、道がどうつながっているかをつかむために、新聞紙の上を歩く。

③②で歩いた迷路を地図に表す。道の書き方のルールは、一本線(―)ではなく、幅のある二本線(=)にすること、スタートから、自分が歩いたとおりにゴールまでの道を書いていく。

④実際に学校の外へ行って歩き、同じクラスの友だちの家を探すという目的で地図を描く。

実際の体験と平面上での地図での表現との往還によって

・「めじるし」として動かないもの、目立つものを描いているか
・学校から友だちの家までの道を2通り描けているか
・2通りの道がつながっているか

をポイントとして指導・支援していきます。道路の右・左がはっきりしていること、「めじるし」と道路の関係位置がはっきりしているという地図の最低条件を学びます。

時数は10時間扱いになっており、なかなかの時間数です。1年生の実践ですからそれくらいの時数が必要なのかもしれませんが、中学年であれば、もっと少ない時数でも実践可能でしょう。「体験⇔表現の往還と試行錯誤」というエッセンスは参考にできますが、実際にはなかなか描くことができない子どももいると考えられるので、お互いの地図を交流する時間の確保も必要でしょう。

1km歩き

これは縮尺の理解のための4年生での実践です。縮尺の概念については、現在は6年生の算数で学習してから・・・という意識が私もあったのですが、これはなんと4年生の実践になっています。

①1kmを、歩数を数えながら歩く

②各自の1km=(  )歩を使って、他の道でいろいろな1kmを歩く

③2500分の1の地図に各自が歩いた1kmを書き入れ、1kmが何cmで表されているか調べる。

④いろいろな地図(10000分の1、25000分の1)で1kmの長さを調べ、縮尺の違いを知る。

③の作業が一番難しく、実践では1目盛り4cmで12~13個ついた数直線を準備したり、曲がる道を測るためにコンパスや糸を使ったりするなどの細かい手立てを行っています。ただ、実際に1km歩くという「からだ」で学んでいるからこそ、難しい縮尺の学習のモチベーションになっているように思います。

木全氏は「地図とは、どのような地図であれ、抽象化の産物である。「現実の具体と地図の抽象とを結びつける」ことを、どのように子どもたちにスムーズに分からせていくか。まずは、生活空間を自覚的にとらえるような指導として「生活している場所」についての地図指導が徹底的になさねばならない」と述べています。現実の具体と地図の抽象を往還するからこそ、地図を読むことができるようになるでしょう。GISやGoogle earthなどのICTの活用が当たり前になってきていますので、パソコン上での具体と抽象の往還はできるでしょうが、初等教育段階では自分の「からだ」を使う意義は大きいと考えます。

参考資料
  • 河崎かよ子編著(1989)『からだで学ぶ地図の学習―子どもの空間認識を深めるー』明治図書

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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