2023.10.26
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教師の観の転換 子どもに寄り添うとは(1)

教職に就いた当初は知識や指導技術の獲得に夢中で、「学習者」である子どもたちと真に向き合っているとは言えませんでした。
しかし、ある1年生との出会いが、私の教育観を大きく変えるきっかけとなりました。その子の「つまずき」ではなく、「わかっていく過程」と捉える。子どもの思考に寄り添う教師の在り方に気付いたのです。

鹿児島市立小山田小学校 教頭 山口 小百合

ごあいさつ

はじめまして。鹿児島県で小学校教員をしています山口小百合です。
鹿児島県は県土が南北600㎞(直線距離で鹿児島から大阪までくらい)に渡る離島の多い県です。有人離島(人が住んでいる離島数)が28もあり、鹿児島県の教職員は、必ず1度は離島やへき地の勤務がほぼ義務化されています。

私は大学を出てすぐ、種子島に赴任しました。人情厚い島で、当初は車の免許を持っていなくて家庭訪問を自転車でしようとしたら、保護者の方々が私を車でリレーしてくださった思い出があります。
とても居心地のよい島で、そこで結婚して教員人生の半分以上を過ごしました。ですから、島で行ってきた遠隔教育や複式学習などの話も、この教育つれづれ日誌の中で紹介していきます。
これからどうぞよろしくお願いします。

一人の子どもとの出会い

教職に就いた当初は知識や指導技術の獲得に夢中で、「全員ができるようする」「鍛える」という意識が強かった。宿題も全員に同じものをたくさん出していました。学習のしつけにこだわり、姿勢を正しくして、全員手を挙げて大きな声で発表する子どもたちの姿を誇らしく思っていました。

当時の私は、寝る間も惜しんで教材研究や勉強に励み、子どもたちのために常に真剣勝負、全力投球する熱血教師でいたつもりです。細々と丁寧にかかわっていました。 
今振り返ると、学習の主体である子どもたち(学習者)の心の声に耳を傾け、学ぶ姿に真に向き合っていたとは言えません。それは私の理想の押しつけだったかもしれません。
しかし、ある子との出会いが、私の教育観を大きく変えるきっかけとなりました。

数の概念が無い児童

入学したてのAさんに、5このみかんの絵を見せて、いくつか聞くと、間違った数を答えました。指で押さえながら数えるように言うと、数えられませんでした。隣に行って見たら、みかんと数詞の1対1対応をしていませんでした。Aさんは1から10まで数唱できても、それは音、言葉であり、数(量)として認識はしていませんでした。
また、Aさんに「3と5はどっちが大きいかな」と聞くと首をかしげました。そこで積み木の3段と5段を見せると、大きい方を選べませんでした。「多い」「少ない」「大きい」「小さい」という概念がないようでした。 
私は衝撃を受けました。
どうすれば、数の概念を認識できるようになるのか。私にとっても挑戦でした。

まず、積み木で遊びながら、たくさんとちょっとということを教えました。積み木をボールやブロック、おはじき、砂、紙などに変えていき、Aさんは「多い」「少ない」を理解して選べるようになりました。ブロックを1個ずつ増やして、1対1対応で多い,少ない,同じという関係を捉えさせました。数唱,数字,数詞を対応させていきました。
Aさんの学ぶ姿を見て、幼児教育で遊びの中で数の概念を学ぶことの意味を実感しました。私もAさんから学んでいたのです。

3はみかん3この絵だけ見て終わりではありません。色の違う花3本、ケーキ3個、大小の猫3匹などを示し、各集合がもつ色や形,大きさなどは捨象されて,各集合に共通な「ものの多さ」として3という数を抽象して3を認識させていきました。
また,集合の絵の仲間分け(3本の花、白1本赤2本)により,3は1と2など数に対する見方を豊かにし,数の合成・分解へとつなげました。
生活場面から算数的要素を見出し,具体物から半具物でモデル化していきました。
「数える」ことも,途中から数えたり,上昇・下降したり,まとめて数えたりと段階を踏んでいきました。Aさんはどんどん吸収していき、数を正確に数え、数詞や数字で表し、逆に数字に合せて絵を描いたり、実物を選んだりすることができるようになりました。

さらに、5のブロックのまとまりを意識して、5を基準にいくつ少ないか、何と何からできているか(1と4、2と3など)、5よりいくつ多いかを、ブロックを操作したり、自分でタイル図を描いたり、フラッシュカードで読んだり、あといくつかを答えたりを何度も繰り返しました。

この効果で、足し算ができ、立式ができ、指を使わなくても計算が暗算でできるようになりました。○をもらって、花が咲いたように笑うAさんを見て、学習支援員さんと一緒に涙しました。
この遊びや経験があったおかげで、引き算は驚くほどスムーズに学んでいきました。

子どもの思考に寄り添う

その子の「つまずき」ではなく、「わかっていく過程」と捉える。子どもの思考に寄り添う教師の在り方に気付いたのでした。
数概念の形成過程を学び、子どもの様相を分析して実際の姿に寄り添うことで,どこで困っているのか,何を学習したら解決できるかの糸口が見えてくるようになります。
教師としての観が大きく変わった、私の宝物となる出来事でした。

山口 小百合(やまぐち さゆり)

鹿児島市立小山田小学校 教頭


鹿児島県内公立小学校で、地域素材・人材を活かした体験的な授業づくりや複式学習、遠隔授業の実践を積んできました。 
鹿児島大学教育学部附属小学校では、家庭科を中心に全教科における思考方法・技能の育成をテーマに研究に取り組み、現在も続いています。
教職大学院では、学校運営や学級経営、教員研修、授業分析、ICT活用などについて学び、小規模校の教育の質の維持向上を考えています。
教頭になり、アメリカのバーチャル学校のリモート授業や地域と連携した特色ある教育活動を楽しみながら、情報化推進などで奮闘しています。
女性のからだのこと、子育てしながらの悩みなど、失敗談も含めて飾らずにつれづれを語っていけたらと思います。

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