2023.07.07
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あなたの中の10人の小人

僕の中にも、あなたの中にも。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

独り言が多いです。

どうも、今村です。
僕は、一人でいるときにそれなりに独りごちています。
ブツブツ言っています。
で、自分の感覚に忠実に申し上げれば、独りごちているというよりは、会話をしています。

誰と誰が?

僕の中の、10人の小人たちです。

今村、ついにおかしくなったかと、この辺りで読むのをお止めになる方もいらっしゃるかもしれません。引き止める術を僕はもっていないわけですが、それでも申し上げたい。

僕、大真面目に言ってます。
もうちょっと、聞いていただいてもいいですか?
10人の、小人たちの話をしています。

冷え固まらせるわけにはいかないじゃないですか。

例えばですが、誰かと一緒にハンバーグを食べに行ったとしますよね。
いいですか、ハンバーグです。
相手から「え、話聞いてる?」と尋ねられたとします。
僕、聞いてるんです。
でも、手を膝の上に置いて、相手の目を見て聞いてるわけではありません。
ナイフとフォークで一心不乱にハンバーグを切り、溢れ出る肉汁に目を奪われております。
でも、食事に夢中になってるのは10人の小人のうち6人で、(ここが大事なのですが)残りの4人はあなたの方を向いています。

「小人10人いるなら、全員で聞きなさいよ!」と言われたとしますよね。
でもね、そしたらやっぱりハンバーグ一緒に食べにきちゃったのがミスですわ。目の前のハンバーグを、冷え固まらせるわけにはいかないじゃないですか。(まぁもちろん、それで目の前の相手との関係を冷え固まらせてしまうわけにもいかないわけですが)
ハンバーグを愛でながら会話するという極めて複雑なミッションを一緒に楽しみ、完遂できる相手とじゃないと、ハンバーグはハードルが高いですわ。

ハンバーグ的状況

でね、教室でも、こういうハンバーグ的状況ってけっこうあると思うんです。
ふざけているように聞こえるかもしれないですが、これけっこう真面目に言ってるんです。
例えば授業って、僕、めちゃくちゃ複雑で面白いと思っているんです。
誰かの発言が、自分の思考を刺激して、表情が変わったり、周りが見えなくなったり、今頭に浮かんだことを一刻も早くノートに刻みつけようと思ったり、それをみんなに伝えたくなったり、勇気を出して伝えたらみんなが驚いてくれたり…。
そういう時って、いつでも「手を膝の上に置いて、相手の目を見て」発言している人の話を聞けるわけじゃないですよね?
一心不乱にノートに自分の思考を形作りながらも、さっきのAくんの発言を反芻しながら、今話してるBさんの話を確かに聞いている。そういう、10人の小人たちが分業でフル稼働してなんとか成り立つ芸当を、子どもたちはしている。授業の面白さが、10人の小人たちのポテンシャルを最大限に引き出しているような瞬間が、確かにある。
それにも関わらず、自分は「話を聴く時は、耳と目と心で聴くんだ」とかそれらしいことを言って、耳と目と心を無条件に自分に向けさせようとしていなかっただろうか?
もちろん、耳と目と心を向けて聴くということが必要な時もあるでしょう。10人の小人が総動員で相手に集中するべき時は確かにあるでしょう。
でも、当たり前のことだけれど、いつもそう、ではないはずです。
世の中には、ハンバーグ的な状況っていうのはたくさんあるんです。寧ろそっちのほうが状況的には多いかもしれない。
それにも関わらず、10人中何人かの小人たちが、他のことをやっているだけで、「集中できていない」と言ってしまったことがなかったか?
僕は、子どもの姿を都合よく単純化して捉えていなかったか?
子どもの中に起こっているグラデーションを見極めようとする努力を、無意識にサボろうとしていなかったか?

外から見てほとんど違いがわからなかったとしても

例えば子どもの努力の話をすれば、10か0かだけでは語りきれないと思うんです。
昨日までは、ある子どもの中の小人のうち7人は自分を諦めていて、3人はなんとかやり切ろうとしていたとします。今日、6人はやっぱり自分を諦めているけど、4人はなんとかやり切ろうとしていたとしたら?まだ、過半数は諦めてるんです。でも、1人が現実を変えようと動きだしている。その1人の小人の勇気に、僕は反応できるだろうか。
そんなの大した変化じゃないと言われればそれまでで、外から見た姿はほとんど変わらないのかもしれない。でも、その1人の小人の行動の変化が、やがて大きな変化になると信じたい。だから、そのたった1人の小人の変化を認めて後押しできるような自分でありたいと思っています。

僕は、人間の複雑なグラデーションを理解しようと努めたいがために、自分の中に10人の小人を住まわせています。やっぱり、それは、おかしな話です、かねぇ笑

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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