2023.06.23
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書籍からの学び

これまで、社会科に特化して書かせていただきました。今回からは社会科にことも含みつつ、書籍からの学びについて書かせていただきます。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

経験優先主義

初任校は生活指導上も課題も多く、たくさんのことを学びました。いろいろな課題に向き合う中で尊敬するベテランの先生が他の教職員の方の実践について「〇〇さんの実践は、本を読んでやりましたという感じがする」とおっしゃったことを強烈に覚えています。その時に私は、短絡的に「本なんか読んでもあまり役に立たないんだな」「やっぱり現場での実践が本物だ」という浅はかな解釈をして、書籍はあまり読まず、目の前のことだけに取り組んでいました。先輩にたくさん質問をし、たくさん教えていただきながら実践をしていましたが、当然校内だけの範囲では、新しい知見は限られている面もあります。

また、自分が初任の際に苦労したこともあり、教育書に書かれている実践やアイデアの数々を「そんなにうまくいくことばかりではないだろう。成功した事例ばかり書かれても役に立たない」というような僻み根性をもっている残念な時期がありました。いわば現場の経験のみが最上であるというような悪しき経験優先主義に染まっていたのでしょう。

読む目的

教師としての経験を積む中で、自分が素晴らしいなと思ったり、真似したいと思ったりする方々は全員読書家でした。何かしら書籍の名前や実践家の名前が出てくるのです。紹介してもらった書籍を読む中で少しずつはまり、今ではどっぷりとはまるようになりました。教育書に限ると、読む目的によって選ぶ書籍が変わってきました。目の前の授業づくりや学級づくりのアイデアなのか、もっと大きな視点で授業づくり、学級づくりを考えるのか、すぐに読むことができるものかじっくり読み込むことが必要なものか、など自分のニーズに応じて選択する書籍は変わってくるでしょう。

そこでポイントとなるのは自分の中の「問い」でしょう。「なぜ?・・・」「どのようにしたら・・・」「どうあるべきか・・・」などの自分がもつ「問い」があるからこそ、読む意味があり、自分の知見の広がりとなると思います。松村(2022)は「課題意識のストック」と表現し、「このストックが多ければ多いほど、自分に入ってきた情報と結びつく確度があがります」と述べ、自分の力に変えるための重要な要素であることを示しています。

逆に書籍を読むことで自分の「問い」が醸成されてくることもあります。特に子どもの変容の幅が大きいものや極端な事例などは自然と問いが生まれるでしょう。

「観」を磨く

子ども観、授業観、指導観といった「観」は、書籍だけで作られることはありません。逆に書籍だけでつくられるほど簡単なものではないでしょう。先述の松村(2022)も「観は日々の実践の積み重ねを通してできあがっていくものです・・(中略)・・・自分の経験に頼るだけでは、いつか自分の力だけでは乗り越えられない壁にぶつかります。そんなときに、新たな実践の可能性に気づいたり、自分の考えを一段階引っ張り上げてくれたりするような本との出合いを、私たちは必要とするのです」と述べています。最近はそういった「観」を意識した書籍も増えていますが、この著書はどういう「観」をもっているのかと分析しながら読むことも自分の「観」を広げるのではないかと考えます。特に実践を語る部分などはどのような言葉を選択しているのか、どのように子どもを見ているのかが文章からにじみ出てくるものがあります。

書籍を通しての対話

ひとりで読むのもよいのですが、実感として自分の知見を広げることにつながっているのが複数人で読む読書会です。単純に他人がその書籍をどう読んでいるのか、どう解釈をしているのか知りたいというのもありますが、ひとつの文章の解釈の違いや背景を慮ることが思考を深めていることを実感します。

山口(2022)は、「読書会という<ひとつの文章へ複数人で向き合う場>においては、自分はダメでも他のひとがうまい具体例を考えつく可能性があるでしょう。さらには他のメンバーの読み方を参考にして自分の理解をブラッシュアップすることができます」と自分ひとりでは読むことが難しい本を読み解く際の読書会の有効性を述べています。たとえ抽象的な難しい表現があっても、「読書会でみんなに投げかけてみよう」と思えるようになります。

書籍は人の「思考」の集積です。この歴史的な遺産を利用しない手はないと思っています。


石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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