2023.05.30
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答えが示されたから動くのではなく

小さい頃の記憶って、ふとした時に今とつながりますよね。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。
本屋さんに行くと、いろんな本が並んでいて、いろんな棚を見て回ります。教育関係の本の棚も見ます。様々な教科の授業プランが書いてある本も並んでいて、一つを手に取ってパラパラとめくってみると、なるほど、こんな方法もできるのかと、新鮮な発見をさせていただくことがあります。
こういう授業プランの本を読んでいると、なんか昔、こういう本を読んだことがあるなぁ、と思います。なんだろう、学習参考書ではないし…
あぁ、あれだ、ゲームの「攻略本」だ。

「攻略本」の記憶

僕は、ゲーム本体を買うよりも、ゲームの攻略本を先に手にしました。これはちょっとおかしな状況かと思います。だって、ゲームの攻略本を読んでも、肝心のやるゲームが手元にないわけですから。ゲームは買ってもらえなくても、ゲームの攻略本なら、手元にある図書券で買えると思ったのでしょう(健気ですね。当時はインターネットでゲームのことを調べるという選択肢も僕にはありませんでした)。
僕は、攻略本を熟読します。やったこともないのに、ゲームのストーリーをなんとなく覚え、クリアへの道筋もわかります。実際にゲームをやっている友達にも話を合わせられます。
で、実際ゲームを手にしたんですね。そうすると、もう一回やる前に、攻略本を読むんです。そして、ゲームに取り掛かる。
もうね、すんなりクリアするんです。で、何やら達成感のようなものを感じていたはずです。なんなら、ゲームをやっている最中、安心感すら漂っている。
だって、「答え」を知っているわけですから。

知ってるという、「答え」をもっているという状態によって、自信や安心感に似たものを抱いて、一歩目を踏み出すことができるという状況は、確かにあると思います。
「あぁ、これ知ってる、見たことある」ということで、気持ちが楽になる。
攻略本を読み込んだ僕は、ゲームの全てを知っています。普通にゲームをプレイしていただけでは知り得ないようなマニアックな情報すら知っている。だから、実際ゲームをプレイするときも、分かったつもりで自信をもってずんずん進みます。そして、ゲームは裏切らないので、見事クリアすることができた。
ただね、そこにはゲームに対する感動とか驚きとか、そういうものはなかったと思うんです。

教室を攻略する?

ゲームは裏切らないので、攻略本通りに進みます。
「答え」を知ってから動き出すと、確実にクリアできる。

自分自身を省みると、教室に立つということについて、同じような状況があったと思います。「答え」を事前に知っていれば、子どもに自信をもって、安心感をもって接することができると思っていた。学級経営も、うまくいくと思っていた。
つつがなく「クリア」できると思っていた。
それが「子どものため」にもなると思っていた。
だから、さまざまな教育書を、実際の場に立つ前に、読み漁っていたんだと思います。

でも、僕らが生きる現実というのは良くも悪くも僕らを裏切ってくる。
そうですよね?
そういう現実を前に「答え」を知ってから動き出すということは、果たして意味のあることだろうか。そもそも、「答え」っていうものが存在しうるのだろうか。

僕は、教室における自信とか、安心感とかっていうものを、随分勘違いしていたんじゃないかと思います。
子どもの前で失敗しないとか、恥をかかないとか、子どもに謝らずにすむということのために何かを強引に「答え」として結晶させていって、自分の拠り所にしていたのかもしれない。
口では「挑戦しよう」とか「失敗から学ぼう」とか言っておきながら、自分が一番用心深く、挑戦の螺旋を回避している。

答えが示されたから動くのではなく

本を否定したいのではありません。本を読むのということに意味がないと言いたいわけでもありません。
知識、手札がないと、自分の選択肢が増えません。それは、自由ではない。
自由になっていくために、本を読み続けたいと思います。
自分が今省みているのは、本に書いてあることを勝手に「答え」として受け取って、それに縋って目の前の現実を見なくなって、自由を手放していたのではないか、感動や驚きを失っていたのではないか、という自分自身の姿勢です。
目の前には、驚くべき現実と、問いが満ちているのですから。

答えが示されたから動くのではなく、問いがあるから動き出してしまう人でありたい。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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