2023.04.06
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社会科の授業づくり~再考する力をつける~

前回まで主に社会科の授業づくりについて書かせていただきました。今回で一区切りとなります。最後は社会科から学んだこと、社会科を学ぶ良さについて述べさせていただきます。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

教材から見えてくるもの

 これまでの連載で何度も述べさせていただきましたが、社会科は教材を指導者自らが作成することが可能であり、子どもの様子や状況を考えての授業デザインに携わる率が高いと思います。他教科でも教材は作成されているでしょうが、単元をまるまる教科書とは違う教材を一から作りあげることができるのは社会科ならではでしょうし、だからこそ面白くもあり、大変なこともあります。

「社会科」という教科名の通り、まずは子どもが過去・現在・未来の「社会」について理解するために数限りなくある「社会」の事象の中の一部分を教材として選び、加工して子どもに提示したり、子ども自らが教材として選んだりします。そしてその教材を追究することで「社会」について理解が深まる度に、「社会」についての多様な側面が見えてきます。メリットがあればデメリットもある、共感できるものもあれば共感できないものもある、工夫や努力が見えると課題も見えてくる・・・のように現実の「社会」は正解が見えないものが多いと思います。

多面的・多角的思考から再考する力へ

社会科の学習ではたくさんの「ひと」と「もの」と「こと」が扱われます。「ひと」は消費者の立場、生産者の立場、民衆の立場、為政者の立場、大阪市民の立場、行政の立場・・・など多様な立場から考える学習をします。いわゆる「多角的思考」を培っていきます。「もの」や「こと」は、時間や時期に着目して歴史的な側面から考えたり、位置や空間的な広がりに着目して地理的に考えたり、価格や費用に着目して経済的な側面から考えたりと「多面的思考」も培うことができます。多面的・多角的思考を蓄積していくことで、「社会」の複雑な仕組みやつながりに気付くことができるようになります。そして前のパラグラフで述べたようにメリットもあればデメリットもある・・・というように一つの事象を多様な視点で考える力や「本当にそうなのか」という批判的に思考する力も醸成されていくと考えます。

この「本当にそうなのか」と再考する力は、社会科の学習においては大切な要素だと思います。社会科だけで育むものではないですが、小学校社会科の目標にある「平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎」という公民的資質・市民的資質を育成するためには「本当に平和といえるのか」「本当に民主的といえるか」と再考し、「社会の形成者としてどうすればよいのか」と考えていくことが社会科を学ぶ意義であり、良さであると思います。ただし、「結局正しいものなどないから何でもありだ」のような悪しき相対主義に陥らないように気を付ける必要はあります。

社会科に限らず・・・。

再考する力は、学習だけに限らず、生きていく上で大切な力だと思います。人間関係づくりにおいても、「○○さんは、△△のような人と思えるけれど、本当にそうなのか」など、数をあげればきりがありませんが、いわゆる思考の偏りや思い込み、認知バイアスやアンコンシャスバイアスなどを振り返る力となります。社会科で培うことができれば、様々なところで役立つと思います。

これは子どもも大人も同じで、今の自分の仕事においても再考する力は活用しています。現在、私は教務主任ですので、来年度の行事や教育課程においても「本当に子どもにとって必要なのか」「この行事を減らすことは本当に子どもにとっても、教職員や地域の方にとっても良いのか(ここでは多角的思考もフル活用です)」などと考えています。社会科を研究していたからこそ気づいて活用できるようになったことだと思っています。

社会科の魅力

カリキュラムマネジメント全盛の時代ですから、教科横断的な学習がこれからも進んでいくことは間違いないでしょう。「主体的・対話的で深い学び」や「個別最適な学び」もそうですが、現在は学習方法や学習の在り方に大きく焦点があたっていますので、今後もさらに教科性が薄れていく可能性はあるかもしれません。

しかし、永田(2022)は公民的資質・市民的資質について「学習指導要領で『考えられる』と示されているように、公民的資質・市民的資質はこれまでも今後も何者かが統一化することのないことが、社会科としては重要なことである」と社会科の目標までも再考し、議論する余地があることに言及しています。ここに社会科の魅力を感じずにはいられません。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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