2023.01.16
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

社会科の授業づくり~教材について~

社会科の授業において、教材の大切さは「言わずもがな」です。国語や算数と比べても「自分で教材を開発する」率も高いでしょうし、教材を開発する余地があります。難しく、しんどいこともありますが、社会科の面白さでもあると思います。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

教材とは

小笠原喜康(2013)は、「教材は関係概念である」と述べています。教材は人やモノ・コトを関係づける働きをし、その関係性は目標との完成、目的・目標を達成するための内容との関係、対象との関係、道具との関係など様々あります。私が個人的に一番重要だと思うのは、対象との関係、つまり子どもとの関係性です。

教材によって子どもの学びが促進される関係性を生み出すことを目標として、教材研究・教材開発をしています。

よい教材とは

佐藤(2022)は、豊田(2008)の研究をもとに「よい教材」の条件を整理しています。

①本質性・・・学問の研究成果に基づいた教材
②典型性・・・「教育内容」の基本的概念を具現する多くの事実を含む象徴的な教材
③具体性・・・子どもたちが直接目にしたり、想像力豊かにイメージできたりする教材
④意外性・・・子どもたちの既有の認識構造の変更・修正を迫るような教材
⑤適合性・・・子どもたちの実態に即している教材
⑥時事性・・・最新の情報に基づいて発掘された教材
⑦課題性・・・問題意識をもたせ、追究意欲を起こさせるような教材

自分が教材研究・教材開発をする際に見直しています。最初のころは、②、③、⑦あたりに力を入れて、教材研究・教材開発をしていましたが、最近は①、⑥などを意識しているように思います。特に①に関しては、これを整理された佐藤正寿先生から「社会科の親学問(歴史学・地理学・経済学)などの勉強も大切ですよ」と教えていただき、意識するようになりました。また⑥は特に最近意識しています。現実の社会問題や最新の事象を教材にすることは、社会科だからこそできることであり、たとえ難しいことであっても何とか教材にできないかなと考えています。

教材づくり

現在は教務主任という立場なので、毎日授業をしているわけではありませんが、研究授業や社会科の授業を学年の先生方と一緒につくることもあります。つい先月も3年生の先生方と共に地域の安全を守る消防の仕事ついての授業を共に考えました。

では、実際にどのように教材づくりをしているのか振り返ってみます。

①学習指導要領を読む
まずはここからスタートします。解説編を詳細に読み込みます。意外と重要なことを見落とすこともあるので気を付けています。これによって余白の部分も見えてきます。つまり、自由裁量の部分です。また、学習指導要領はあくまで基本の部分ですから、+αは可能です。ある意味相対的に考えることも必要な時があるかもしれません。

②教科書を読む(比較する)
一から教材をつくる場合でも教科書は確認します。特に単元全体がどういうストーリーになっているのかは注視します。また、3社の教科書を比較することもよくやります。それぞれのメリット・デメリットなどが見えてきて参考になることも多いです。

③情報を収集する
様々な手段を使って情報を収集します。インターネットで公的機関の情報を集めることからスタートすることがほとんどです。そこから参考になりそうな書籍をしぼりこみます。私の場合は、図書館を利用することが多いです。購入できたら一番良いのですが、難しいことも多いです・・・。
そして、私が一番価値あると感じ、「やる」もしくは「やりたい」「やってしまう」ことは「人」からの情報収集です。
実際にお会いするのが一番ですが、電話で連絡をとらせてもらうことも多いです。メールはタイムラグがあり、息遣いを感じにくいのであまりやりません。
上記の3年生の学習では消防署の方にお会いするのはもちろん、消防白書のデータについて市の消防局の職員の方にたくさん教えていただきました。教科書に載っている方に連絡を取らせていただくこともけっこうあります。
10月には5年生の研究授業の際に、農林水産省に「国民が食品についてどれくらい安全と思っているかのデータはありませんか」と電話をしました。「調べます」と言われたのですが、わずか20分後に折り返しの電話を頂き、2つほどデータを教えていただきました。
授業に直結する貴重な資料と出合うことが多いですし、人と会ってお話をすることでその方にさらに興味・関心が高まるのが実感としてわかります。子どもがゲストティーチャーとの出会いにワクワクすると同じ感覚です。そうなると、もう教材にどっぷりはまっているわけです。出会ったその人を教材化することもかなりあります。

④資料化する
子どもの実態に合わせて、資料を加工したり修正したりします。子どもの具体的な顔を想像しながら考えます。多くの情報がつまっていてかつ子どもの興味を引く中心資料が作成できればよいのですが、なかなかそんなにうまくはいきません。ただ、社会科ですからできれば文書資料よりもグラフや表、絵や写真を活用したいと思っています。文書資料は補足として考えています。
また、子どもが個別で調べるような学習形態にするなら、より多くの資料を準備するときもありますし、ネット検索の限定をするときもあります。それも子どもの様子を見て考えます。

ゲートキーパーとしての教師

 スティーブン・J・ソーントソン(2012)は、「公的カリキュラム(学習指導要領など)を無批判にただ実行していく下請けとしての教師でなく、教師自らが、社会科のねらいを考え、そしてこれを意識して、目標、教科内容、教科方法を連続的に考察・判断していける『主体的なカリキュラムと授業の調節者としての教師(ゲートキーパー)』を育てていく必要がある」と述べており、それにより社会科教育の変革が可能になると考えています。訳者の渡部竜也(2012)が「『カリキュラム・ユーザーとしての教師』からカリキュラムメーカーとしての教師への転換」と述べており、大変納得できました。

教材づくりはまさに教師がゲートキーパーとなり、子どもと教材をつないでいると考えることもできるでしょうし、このような意識での教育活動が教師の大きな役割だと思います.

最近、個人的に関心のある「教師のゲートキーピング」について次回は述べたいと思います。

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop