2022.12.14
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

アップデート

保たれていたバランスを一度崩す勇気。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

0Sアップデート

Macを使っています。
教員でMacを使っているのは少数派かもしれません。
10年ほど前、教員1年目で、ボーナスをいただき、家電量販店に行ってリンゴの光るMacBook Airを買った時の興奮は今でも覚えています。そのマシンは、去年まで、現役で頑張ってくれていました(Macって本当に長持ちですよね)。仕事の内容の移り変わり、マシンにかかる負荷に合わせて、リンゴの光らないマシンに買い替えましたが、合わせて10年ほどは、Macを使い続けていることになります。

今回書いてみたいのは、外見のマシンの話ではなく、マシンの中身についてです。
OSのアップデート。
Macを使い続けているので、OSアップデートにたくさん立ち会ってきました。
OSのアップデートにあわせて、Macでできることは増えます。それこそ、自分の仕事に役立つ機能がどんどん増えてきてびっくりしてしまいます。
一方で、OSアップデートの当初は、様々なバグが起きます。この前は、アップデート後、動画の書き出しで負荷が異常にかかり、電源が強制的に落ちる、ということがありました。アップデート前は全然大丈夫だったのに、です。その時は流石にちょっと焦りました。
そのようなバグも、マイナーアップデートで少しずつ改善されていきます。

アップデートには、良い面もたくさんあるけれど、当初はバグ、不具合もたくさんある。むしろ、アップデート当初は、それまでうまく行っていたことを一度崩して新しい試みをするので、バグ、不具合の方が目立って見えることもあります。だから、パソコンのOSアップデートは、リリースされてすぐはせずに、バグ等が改善されて評価が安定してからアップデートするのがよい、とおっしゃる方もたくさんいます。

行動規範アップデート

少し飛躍したように聞こえるかもしれませんが、人間にも、OSのアップデートってあるんじゃないかと思っています。
それまで自分を動かしていた行動規範を、新しいものに更新する、ということです。
それまで慣れていた行動規範を、新しいものに変えるのは簡単ではありません。
それこそ、バグが起こる。
うまくいっていたことが、うまくいかなくなり、新しいこともまだうまくは動き出さない。
新しい行動規範が、古い行動規範に慣れていた自分の身体に馴染むまでには、絶対に時間がかかります。そこは絶対に、甘く見ないほうがいい。そして、自分の行動規範のアップデートは、パソコンのOSアップデートのように、誰かが不具合を修正してくれて、うまく運用できるのを待ってから、ということはできません。自分自身しか、そのアップデートを体感できない。自分の身体でなんとかするしかないんです。

あたらしい行動規範が身体に馴染む前に、前の行動規範に戻りたくなってしまう、ダウングレードしたくなることもあるかもしれない。「別に前だって悪くなかったじゃないか」、「それなりにうまくやれていたじゃないか」という言葉がどこからか頭に浮かんでくる。
もしかしたら、周りから「なんで変わっちゃったの?」と、幻でもなんでもなくリアルに言われるかもしれない。
でも、自分の中にあるアップデートのスイッチを押したのは自分自身のはずで、そのときスイッチを押した自分の想いを、後から無きものにはしたくないよな、と思います。

教員という仕事をしていると、子どものOSアップデートの機会に直面することが、度々あります。それこそ、それぞれのアップデートの時期はバラバラで、あっちこっちでそれが起こる。
繰り返しになるのですが、アップデートの当初は、うまくいかないんです。バグや不具合が起きて、その子自身もうまくいかないことに苛立って、周りにもいい影響を及ぼさない、ということがあるかもしれない。新しい挑戦が実を結ぶのには、時間がかかる。
その時、自分は近くにいて、何ができるんでしょう?
勿論、場合にはよると思うんです。
でも、子どものアップデートに、その当初出てくるバグや不具合を前に、否定したくはないんです。私たち教師が子どもに望んだ成長の過程には、そのバグや不具合が、絶対に付随してやってきます。成長なんて、保たれていたバランスを一度崩すことと、ほとんど同義なんです。そのアンバランスを肩代わりしてあげることはできないけれど、乗りこなし方を伝えることくらいは、私たちにもできるかもしれない。
彼らが自分で決めたアップデートならば、頭をポリポリと掻きながらでもニヤッとして、その不具合に並走し、その先にあるものにワクワクしていたい。
アップデートを歓迎する集団の一員でありたい。

また、MacのOSアップデートがあったら、やっぱり、すぐにやってしまうんだろうな、と思っています。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop