2022.11.24
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座席表

なんのひねりもないのですが、座席表の話です。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

なぜ「後ろ」から?

どうも、今村です。
職業柄、座席表というものを作ります(教師ですからね)。
A4用紙に教室の座席の並び方が印刷してあり、どこに誰が座っているかわかるよう、小さく名前が書いてあって、机間指導の際にそれを持って回り、メモを書き込んだり、児童が帰った後に今日話したことや気付いたことを書き込んだり、様々な形で活用するあれです。

「今村先生の座席表は、なぜ後ろから見た教室の景色なんですか?」
教育実習に来てくれていた学生から、そう聞かれたことがあります。
教室の「前」が厳密にどこなのかはよくわからないですが、私の作る座席表は、上が黒板の位置になっています。教室を「後ろ」から見た景色です。
はて、なぜ自分は、「後ろ」から見た教室の景色で座席表を作っているんだろう、と考えました。思えば、それなりの試行錯誤を経て今の形を選んでいるような気がします。

いろんな試行の先に

私が初めて座席表を作ったのは、十数年前、教育実習の時でした。その時作っていた座席表が実習日誌に何枚も挟まっています。その日その児童と話した他愛もないことや、参観していた授業の中での鋭い発言などなど、様々な情報を書き込んだ座席表があります。それらは、黒板が上にある形でした。
教育実習では、自分の授業もありますが、それよりも指導教官の授業を参観させていただく回数のほうがずっと多いです。教室の横から見たり、斜め前から児童の表情に注目したり、様々な立ち位置をとりますが、教育実習生として基本の立ち位置、一番多い時間立っている位置は、教室の後方になります。まずはその位置から見える景色で座席表を作っていたのだと思います。

教員になって、座席表づくりは変化の時を迎えます。
黒板が下にある形の座席表を作り始めました。国語の授業でノートを集め、放課後に児童の考えや、学習感想を読み、座席表に書き込んでいきます。全員の意見が書き込まれた座席表を見て、次の授業でそれぞれがどんな発言をするか予想したり、指名計画を立てたり、様々な実用的な目的で使っていました。やはり、そういうことのためには、いつも自分が立っている教室の「前」から見た景色の座席表が使いやすかったのでしょう。

しかしながら、しばらくして僕は、また「後ろ」から見た座席表を使い始めます。
そこには、いくつか理由がありました。

一つは、座席表を授業で子どもたちと共有するようになったこと。全員の意見が書き込まれた座席表を児童に配って授業をすることが増えました。そうすると、児童目線では「後ろ」から見た座席表が読みやすいようでした。
もう一つは、すごく感覚的な話になってしまうのですが、いつも物理的に自分が見ている景色とは違う「後ろ」から見た景色をできるだけ想定していたい、ということがありました。子どもたちの前に立って授業をしているときも、教室の一番後ろの方の席で座っている児童のそのまた後ろの位置から教室を見つめるような視線をもっていたい。
今自分が立っているのとは違う位置から、子どもたちから見えている形と同じように、教室という場や現象を見つめていたい。

もちろん、「前」から見た形、「後ろ」から見た形の座席表で、どちらの方がいい、という正解は別にありません。ただ、今自分はなぜそれを使っているのか、という意図を考えることで、今の自分の考えを知ることができるように思います。今の自分の考えに至るまでに、色々と試行錯誤してみることができたのも、よかったと思っています。
一事が万事で、座席表に関する自分の考えは様々な場面でそのまま当てはまるような気がします。

一事が万事

例えば、研究授業を参観するときに、何を見るのかという問題。
授業者の指導技術、指導の工夫、授業展開、授業者と子どもの関係性、子どもの表情、子ども同士の学び合いの姿等、視点はいくらでもあります。数ある視点の中で、子どもの立場から見たその授業の価値はどこにあるのか、ということに私の意識は多く割かれます。ですから、ついつい、その授業の中で居心地悪そうに感じていたり、困っていたり、なんとかしようともがいていたりする子どもに目がいきます。
その子たちがこの授業の中で一ミリでも深く何かを学びたいと感じられるようにするために、現実を動かすために何が必要なんだろう、ということを考えます。
そこの角度や、熱量のようなものは、やや変態的?なのか、先日他校の校内研にお邪魔させていただく機会があった際、「なぜ1時間だけそのクラスに入って授業を見て、あの子のあの姿に気付けるのか?」と聞かれました。
それは、「自然と目に入ってしまう」という以外に説明のしようがないのですが、もしかしたら、座席表を試行錯誤して使っていなかったら、そんなことはできなかったかもしれません。

毎日使うものを、地道に使い込んでいくことで、人とは違う「偏り」のようなものが生まれていきます。それをもしかしたら「強み」とか「価値」とか言ったりするのかもしれません。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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