学級経営の難しさ
学級経営は、まずは教師と子どもとの関係づくりからのスタートです。経験的に自明の事実でしょうし、そのための様々な方策があり、書籍にもネット上にも山ほど紹介されています。しかし、またうまくいかないことが起こります・・・。そこから学級経営を俯瞰してみます。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
何とかうまくいってほしい
前回執筆させていただいたように、私の教師生活は底よりもっと下のマイナスからのスタートでした。次の年も同じ学校で講師をさせていただきながら(この年は特別支援担当でした)、何とか教員採用試験に合格し、晴れて正規採用となりました。しかも同じ学校でした。5年生担任です。
あのような思いは二度としたくはありません。自分に教師としての力量をつけるしかありません。自分にとって職員室におられるすべての教職員の方が学ばせていただく対象という気持ちでした・・・。なぜなら学級崩壊していないからです。その当時は「学級崩壊しないクラスをつくること」という何とも後ろ向きな目標だったように思います。
だからこそ、子どもが普通にあいさつを返してくれることだけでもうれしいのです。これは学級崩壊を経験した方なら共感していただけると思うのですが、通常は当たり前のことが当たり前ではなくなっています。「何とかうまくいってほしい」という消極的な意識のもとで、5年生担任としての学級経営が始まりました。
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それからの日々は、自分としては緊張の連続であり、わからないことは常に隣のクラスの学年主任の先生に聞いていました。授業中であっても子どもたちに「ちょっと待ってね」といって聞きに行っていました。指導書も教育書も学ぶことができるものはすべて学ぼうという素直さだけはありました。大学での貴重だったはずの学びなど頭の片隅にも残っていない、いわばスポンジ状態であり、「良い」と思ったことはすべて真似していたように思います。
困難の再来
新任1年目の学級経営がどうだったのか、正直記憶に残っていないことも多いのですが、子どもたちが5年生までに身に付けた力に助けられ、なんとか日々を過ごしていました。子どもたちとの関係性も「それなりに築けてきたかも」と思っていた2学期半ばの休み時間のことです。
遊具で遊んでいた女子の仲良し5人グループですが、学校で禁止されている遊具の使い方をしていました。私は、注意するために「ちょっとおいで」と呼んだのですが、一向に遊びをやめません。自分の存在が無視されているように感じた私は強い口調で「降りてこいって言ってるやろ!」と怒りました。腑に落ちない表情の子どもらに注意をするも、そこから子どもたちの態度が一変していきました。
その子たちとは最後までギクシャクした関係が続きました。また、その5人グループ内でのトラブルがかなりあるのですが、なかなか指導が上手くいきませんでした。関係性が良くない中で指導の言葉はあまり入りませんでした(0ではないですが・・・)。その1回の出来事だけでなく、それまでの自分の学級経営の課題があった上での信頼関係の崩れだとは思いますが、学級経営の難しさを再び痛感することとなりました。
学級経営の中核
石原(2018)は先行研究をもとに、学級経営に関する要因や要素を抽出し、整理・分類することで学級経営には、以下の4つの要因があると述べています。
- 教育理念
- 集団形成
- 子ども理解
- 教室環境
「どのような子どもを育てたいのか」という教師の「教育理念」をもとに、「集団形成」「子ども理解」「教室環境」の3つ要因から具体的な方法を実践していきます。これは読者の皆様も経験的にも納得できると思います。となると、最も重要でキーとなるのが「教育理念」でしょう。いわゆる教育観・子ども観・指導観と言われる「観」の部分にあたります。「観」の大切さは経験的にもよく理解できます。
しかし、教師経験が浅い方や初任者の方に「あなたはどんな子どもを育てたいのですか」という問いは困惑させるだけの場合もあります。少なくとも私は答えに窮したと思います。経験がなくとも教育理念をもつことの重要性は言わずもがな、ではありますが、手探りであっても「集団形成」「子ども理解」「教室環境」という方策の実行→省察の繰り返しによって「観」が形成されていくように思います。
さらに石原(2020)は、この4つの要因を基に、質問紙調査を通して、学級経営に関する具体的な方策や手立ての傾向を分析しています。その結果から学級経営における具体的方策の中核となるものが、「集団形成」「支持的風土」「子ども理解」「信頼関係」の4つであると述べています。
関係性を育む
4つに共通することとして「関係性」が見えてきます。私たち教師は、教師と子ども、子ども同士の良好な関係づくりのために様々な方策を実践しています。これも実感として理解できると思います。
最初の段階で子どもとの関係づくりで失敗した私は、当然そこに力をいれていきます。子どもと遊ぶ、受容的に話を聞く、ほめる、認める、はっきりとした基準で指導する、日記指導、振り返りジャーナルなど子どもとの関係性に力を入れた方策をやることによって、子ども理解も進み、信頼感も生まれます。中井・庄司(2008)は、「教師との関係性に対する安心感」が「学習意欲」や「友人関係」などの子どもの学校生活適応感に影響すると述べています。
教師と子どもとの関係性が良好になると、子ども同士の関係性を育む方策も効果を生み出しやすくなります。教師⇔子ども、子ども⇔子ども、の関係性を作り出そうと意識した方策を実践し、省察し、改善しながら実践・・・という繰り返しの中で子ども理解も済みます。
子ども理解が進むと子どもの意外な姿や表面的ではない部分が見てきて、はっとさせられることが増えてきます。これが子ども観へとつながり、子ども観の変容や指導観の変容へとスパイラルにつながっていくように思います。そして新しい「教育理念」が作られ、具体的方策も更新されていきます。
人権教育
幸いにも私の着任した学校の柱は、人権教育でした。課題を抱える子どもがたくさんいる中で、教師と子ども、子どもどうしの関係性を育みながら、ひとりひとりの子どもを大事にすることの大切さを先輩から再三教えていただきました。自分が失敗している要因を根本から見直す機会をもらったようなものでした。
しかし、子どもの生活背景も表出できる関係性を育み、お互いのしんどさも共有していくこれまで先輩方が築いてこられた人権教育の難しさを感じていたのも事実でした。読み物を活用した人権実践にも取り組み、その価値を理解していたものの、そう簡単にしんどさを共有する関係性はできないな・・・と思っているのも事実でした。
何か違うアプローチはないものか。そんなことを心の片隅に抱き始めました。
関連リンク
石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
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