2022.03.03
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マイテーマや自分の進路が見つからない生徒への対応法は数学が教えてくれる

進路指導に関わっている先生から「生徒が希望する大学や学部を見つけられない」ということを聞きます。「視野が狭くて選択肢を理解していない」「そもそも目標がない」などと言われることも多いです。一方で総合的な探究の時間に関わっている先生からは「生徒がテーマを見つけられない」「浅いテーマで自分事にならない」という悩みをよく聞きます。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

「見つけられない」はキャリア教育と探究に共有した悩み

中世以前の社会では自分の将来は生まれた家で決まっていたことを考えると、決めることができるということが実はありがたいということに気づきますが、学校ではそんなことは言ってられません。私も、生徒が自分の将来の目標を見つけられない、探究テーマを見つけられないという場面には日々直面します。
そういう自分自身、高校の時に将来の目標なんて持ってなかったと思いますし、卒論や修論のテーマが見つからず苦労したので偉そうなことは言えません。
それはさておき、私たちは生徒に自分の希望する進路は見つけてほしいと思っていますし、自分事となるマイテーマも見つけてほしいと思っていますが、それが簡単なことではないことも事実です。「見つけられない」はキャリア教育と探究に共通した悩みのようにも思います。どうすればいいのでしょうか?

確率論の答えは極めてシンプル

サイコロを投げて1を出したければ、どうしたらいいと思いますか?この答えは極めてシンプルです。サイコロを数多く投げればいいのです。
たとえばサイコロを1回投げて1が出る確率は、1/6なので、およそ17%しかありません。しかしサイコロを4回投げたときに1が出る確率は671/1296なので、およそ52%になります。サイコロを10回投げれば1が出ない方が珍しいです。

「1を出したければサイコロを数多く投げればいい」。このシンプルな答えから学ぶべきことは多いのではないでしょうか。

私たちはつい絶対的な教育方法を求めがちです。たとえば「この講演を聞かせれば生徒が希望する進路を見つけられる」「この教材を使えば生徒が自分事となるテーマを見つけることができる」ようなものを探そうとします。
こうしたものを探すことが悪いとは思わないのですが、この思いが強くなりすぎると講演会実施後に「やっぱりあの話を聞いても伝わらない生徒がいた」というように、(実は影響を受けた生徒がいたかもしれないのに)100%の効果がなければダメと思ってしまう危険性があるように思います。

仮に、ある取組後にサイコロを振って「1」が出れば、自分のテーマや進路が見つけられるとしましょう。30人の生徒がこの取り組みをすれば、平均して5人の生徒が自分のテーマや進路を見つけることができるのです。何もしなければ0なので、この差は大きいでしょう。

「何かの取り組みをするというのは、サイコロを投げるようなもので、生徒が何かを見つける確率を高めるものである。だから私たちは様々な取り組みをする」。こうした数学的発想をもって教育活動にあたることが大切なのではないでしょうか。

学校にできるのはチャンスを与えること

確率という発想に立った時に、希望進路やマイテーマを仮決めする機会は重要です。たとえば「あるときまでに仮にテーマを決めて、そのテーマについて深めてみる」「模擬試験などの機会を使って、自分の希望進路を仮に決めてみる」などは仮決めにあたるでしょう。
仮決めしたものが本当に自分にぴったりのテーマや進路かどうかはわからないけど、仮決めすることで、自分の進路やテーマを見つける確率は上がります。講演会や社会と関わる体験も、自分のテーマや進路を見つける確率を高めるという点では極めて効果のある取組みになるでしょう。

「確率を高める」という視点に立つと、絶対に正しいことはなく、試行錯誤することこそが重要だということがわかります。実は私たち教員に最も大切なのはこの認識かもしれません。そしてどんな取り組みをしても、それがヒットする生徒もいれば、そうでもない生徒がいることも事実です。
確率で考えると、何%の生徒にヒットしただろうかという観点で考えることができ、少数の生徒の反応に左右されずに取り組みを振り返ることも可能になります。そして学校は生徒が何かを見つけるチャンスを与える場としては、きわめて貴重で有効な場なのです。

学校で働いていると、(この件に限らず)もっと数学的に考えたらいいのにと思うことは多数ありますが、まずはテーマや進路が見つからない生徒への対応を数学的に考えてみました。他教科の視点で見るとどうなるのかもお聞きしたいところです。

お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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